少年の始まり
少年は本に描かれた「英雄」に憧れていた。どんな種族に対しても等しく接し、どんな者からも慕われる。また次へ、次へと助けを求める声がするもとへ向かう。そんな英雄に少年は憧れていた。
しかし、そんな物は御伽話であって、世の中の様々な種族が本の中に出てくるような皆が優しいわけでわない事を少年は知らぬまま大人へと成長していくのであった。
そんな少年が16になった時、この世界では冒険者となれる年齢であった。少年の身体能力は平凡で平均的で、他者と比べてもほぼ平行線と言ったところだった。
しかし、そんな少年は人一倍正義感が強く、勇敢であった。
「冒険者登録ですね。名前をこの用紙に記入してください」
少年は用紙に親から貰った名前を記入する。
「ヴィダール君ね。これが冒険者カードです。最低ランクからのスタートです。最初は薬草採取をお勧めします」
「わかりました、それを受注します」
親に買ってもらった剣と剥ぎ取りナイフを携えてギルドを後にした。
街を抜け、草原を走る。数分もしないうちに森林の中に入る少年。その森は、基本的に難易度の低いモンスターが出現するだけで、新米冒険者の軽い狩りにはもってこいだった。
その森林の中で薬草を探すヴィダール。そんな最中、女性の叫び声が響いた。ヴィダールは薬草を布袋に詰めるとすぐさま叫び声の響いた場所へ向かった。
状況を探るため、身を低くし、茂みから覗くと僧侶が5匹のゴブリンに襲われて、衣服を剥ぎ取られている最中だった。
茂みから飛び出し、剣を取り出し切りつける。1匹を倒されたゴブリンは一度僧侶から離れ、ヴィダールと向かい合う。
1分も経たないうちにゴブリンから攻撃を仕掛ける。4匹が一斉に別々に攻める。正面に側面、背面とヴィダールを囲もうとしたが、ヴィダールが正面のゴブリンを切りつけながら突破した。
「何ぼーっとしてる!早く逃げろ」
僧侶は慌てて逃げ出す。一匹が追いかけようとしたが、石を投げつけ注意を集める。
三対一の状況でヴィダールから仕掛ける。右足に携えている剥ぎ取りナイフを取り出し肉薄する。
剣で一匹を突き刺し、そのまま他の一匹に叩きつける。残りの一匹が隙を突くように背後から切りかかるが、ナイフで首元を切られ命を絶った。
残存しているゴブリンはもういなかった。剣を鞘に戻し周辺を見渡す。地面をみる。ゴブリンの足跡がまだ残っていた。
これ以上ゴブリンの被害を出すわけにはいかない。この足跡を辿ってみよう。もうしかしたらゴブリンの集落が見つかるかもしれない。
ヴィダールは足跡を追いかけた。増えたり減ったりする足跡を辿りながら、茂みから顔を出すとそこにはゴブリンの集落があり、簡易的な家や人骨を使ったモニュメントが飾ってあり、幾人もの人を殺してきたと推測ができる。
しばらく、偵察をしていると家から嬲られた女性が運び出されるのを目撃した。女性は微かに息があり、助けてと口にしていた。
まだあの家に生き残りがいるかもしれない。それに、まだあの人は生きてる。助けなきゃ。
ヴィダールは草むらから飛び出す。ゴブリンが一斉にヴィダールの方へ振り向き、走り始める。
ざっと数えて50匹を超えるゴブリンが押し寄せてくるもヴィダールは怯えず、そして愚直にまっすぐ進む。
右手に剣を持ち先頭のゴブリンを胸から突き刺し、棍棒を奪う。奪った棍棒でゴブリンの頭を叩き割る。後方に回ってくるゴブリンは蹴り飛ばし、どんどん突き進む。
そして、気がつくと包囲されており、足にも少々の切り傷や打撲痕が気づかぬ間に増えており、急に足が言うことを聞かなくなった。
愚直に進みすぎた。剣の切れ味も大分悪くなった。納刀してナイフと切り替えるか。それか、棍棒を二つ持ちにするか。迷っているだけで時間の無駄だな。
ヴィダールは剣を納刀すると近くに落ちている棍棒を拾う。武器を振り回せばゴブリンを倒せるほどにゴブリンが集まってきた。