不思議な状況
暗闇を歩き続けた先にあったものは、妙に待遇の良い状況だった。
歩き始めてからどれくらいの時間がたっただろうか。1度鐘が鳴ったのが聞こえたので、だいたい八時か九時か、そんなところだろう。
「着いたぞ。目隠しを外してやる。」
聖騎士の1人がそう言って、目隠しを外す。
目の前にあったのは、当然ながら牢獄で、しかしそこは、随分と小綺麗だった。
驚いたことに衛生的で、薄暗くて多少寒いだけの空間だった。牢獄と言うより、「牢国」と言うべきだろうか?
外からは、中の人間は見えないようになっている。誰が入っているかは、どうしたって分からない。
聖騎士が足を止めた。
「ここに入ってろ。拘束を解いておけとの命令だから、拘束具は外しておくぞ。あと、そっちの剣を除いて、武装は預かっておく。これも上からの命令だ」
「よくわからん指示だったよな…まあ、今日のところは飯が出ないが、我慢してくれよ」
そう言われて入れられたのは、壁が鉄板で覆われた独房だった。かなり厚い鉄板で、大型の鎧がいくつも作れそうな量の鉄が使われている様だ。
そのせいか、中は肌寒い。
扉の覗き窓は細い隙間で、鉄格子のように壊される心配がない。薄い剣や、長い針のような物なら通ってしまいそうな気もするが…
簡単な木の土台の上に薄い布が2枚敷かれた、簡易的な寝具がある。さらに蓋付きの便器まであって、採光窓があって明るい。
これはまさしく、至れり尽くせりだ。
(やけにちゃんとした独房だな)
「よし、鍵を閉めるぞ。抜け出そうなんて思うなよ?…しかし何があったのか知らんが、お前は随分と災難だったみたいな」
「そうそう。倒れて意識の無かった3人のうちの2人は、指名手配中の盗賊だって話だろ?」
何やら気さくな人達のようだ。聖騎士なのに。
しかし、あの2人が指名手配犯だとすると、オヤジさんはどこで彼らと知り合い、あのような事態に至ったのだろうか…
(どうやら、簡単に事情を聞かれて終わりそうだな)
「魔力反応のことはまだ分からんが、家屋を吹き飛ばしたことについては、指名手配犯の確保及び、そいつらを匿った犯人の確保に協力したことで、水に流されるだろう」
「硬い寝床で悪いが、とにかく休んでくれ。たぶん朝から事情調査に入るだろうから、ちゃんと寝てくれよ。俺達は他の見回りに行ってくる。何かあったら呼んでくれ」
そう言うと、二人は独房の前から去っていった。
クレオの三人がどこにいるかは分からないが、おそらく別の場所で拘束されているだろう。
何故か俺は、狭いながらも独房だった。
(随分気のいい奴らだな。聖騎士だってのに、堅苦しいどころか物腰が柔らかい)
「ああ、なんでか分かんないけど、独房だし」
(俺が没収されてないし)
「確かに…お前だけ持って行かれなかったな」
(魔力反応を検知した、って言ってたからな。もし、俺から魔力反応があったと分かっているのなら、そういった類の物は保管しておきたくないんだろう)
「どういうことだ?」
(そうか、お前には最低限の説明しかしてなかったもんな。…あの時な、咄嗟に六元魔法を上に放ったから、あれぐらいの被害で済んでるんだ)
「おい待てよ。つまりそれって…」
(まあ、アイツらに直接とか、地面に対して放ってたら、もっと酷いことになったわな)
「それであれだけの騒ぎに…」
(まあ、ここには魔力結界が張られてるし、念話程度の弱い魔法しか使えなさそうだからな。俺がいてもいなくても変わらんだろ)
「結界があるのが分かるのか?」
(当たり前だろ。魔族一の魔導師かつ剣士だったんだぞ。今は知らんが)
「へぇ、そうなのか」
そこまで厳重な牢に入れられていると分かると、自分がとんでもないことをしたのではないか…と、不安になる。実際してしまっているのだが。
「とりあえず、寝ることにするよ」
(六重魔法で魔力を結構使ったからな。しっかり寝とけよ)
また飯を食い損ねて、やたらと腹が減ってしまっている…眠れるだろうか?
(寝たらそんなことも忘れるさ。ほら、寝た寝た)
備え付けの寝具は硬かったが、道端で野宿した時よりはずっとマシだった。
落ち着いた話になりました。
これで序盤の序盤が終わります。




