会敵
クレオへ戻ったカイ。
そこに待ち受けていたのは異変だった。
買い物が済んだあと、少しだけ急いで歩いていた。
(これからクレオに戻るんだろ?)
せっかく呼ばれたのだから、行くしかないだろう。
(話を聞いてもらえるみたいだったが)
とは言え、何から話せばいいのやら…
(俺のことは言わない方がいいな。いい所だと、結局は遺跡の話だろう)
言える範囲としては、そんな所だろう。
その頃、「クレオ」店舗裏口付近―――
「おいおい、ホントにいいのかよ?」
「いいさ、あの腰に提がってた剣は、見た所お高い品だ。あいつは「青銅」の冒険者だからな。ちょっと脅してやれば、持ち金を渡すに違いない」
「ハハハ、簡単だな。支払いのとき、財布の中に金貨が入ってるのも見えたしな…」
「果たしていくら渡してくれるか、楽しみだな」
(ところでカイ、すぐ向かうつもりか?)
あんまり近い場所でもないから、早めに行っておきたい。どうしてそんな事を聞くんだ?
(どうしてって…飯と剣買うので使ったとは言え、まだ結構あるんだろ?)
この額だと、宿で数年暮らしても余裕があるぐらいだ。
(飯代ぐらいに減らしといた方がいいぜ。さっき行ったとき、妙にお前の事をジロジロ見てる野郎がいたんだ)
と言うと、金を盗まれる可能性があるって事か。
(お前はまだ弱いからな。ついでに俺も持ってかれると思うと、かなり心配なんだ)
結局は自分の心配か。全く呆れるヤツだ。
(今は、お前以外の使い手はいないからな)
仕方がない。宿に戻って、置いて行く事にしよう。
(うむ、よろしい)
宿に戻ることになったので、ついでに夕食が不要なことを伝えて、今日の分の宿賃も支払った。
宿を出てすぐ、七度目の鐘が鳴り響いた。宿に戻ったので、思ったより時間がかかったようだ。
(ほら、急ぐんなら走れ走れ。特訓の一環だ)
「ここぞとばかりに調子に乗りやがって…」
(おい、声に出てるぞ…)
人は周りにまばらに居るだけだ。もし聞こえていても、ちょっとした声なら気にしないだろう。
息を切らしながら走り続け、クレオに到着した。いつも通り眩しい照明が扉の隙間から漏れている。
しかし妙に周りが静かで、店に熱気がない。
恐る恐る扉を開いていくと、オヤジさんが厨房の外に、背中を向けて立っていた。
「オヤジさん…びっくりさせないでくださいよ。客も入れないで何してるんですか」
店主は、妙にゆっくりと、威圧するように振り向いた。
「よぉ、兄ちゃん。久しぶりに会って見りゃあ、ずいぶんといい物をぶら下げてるからよ…」
(…気を付けろ、こいつの他に何人かいるぞ)
ゼルシオが張り詰めた声で警告する。
「そいつを貰ってやろうって思ったわけだ。なぁ?」
(来るぞ!)
物陰からガタイのいい男が2人現れ、飛び掛かってきた!
「頂きだぜェ!」
「お前はもう、ここから逃げられないぜ!?」
咄嗟に飛び退いたが、いつの間にか鍵が掛けられていて固く閉ざされた扉に勢いよくぶつかった。
「ぐっ…」
(マヌケ!今の間合いなら両方とも首を刎ねられたぞ!)
「無茶言うなバカ野郎…」
思わず声が出たと思ったが、背中を打ったせいで上手く声にならなかったらしく、男達には聞こえなかったようだ。
「おいおい、一丁前に睨んでやがるぜ」
「これから死ぬのになァ!」
見るからに悪人面で、物騒な言葉を放つ2人組の後ろにはオヤジさんが立っている。不敵に笑うその姿に、いつもの面影はなかった。
「なあ兄ちゃん、なんで俺がツケを許してるか知ってるか?」
「…」
「それはな、こいつらと手を結んで、ツケより高い品物を頂くためなんだよ!」
「その通り!」
「ここに来たのが運の尽きってな!」
(いちいち騒がないと死ぬのか?この2人は…)
この状況に純粋な恐怖を感じている俺の腰で、ゼルシオは全く気にする様子もなく呆れ返っていた。
どうにかしないとならないが、頼みの綱ならぬ、頼みの剣を抜こうとすれば、たちまち抑え込まれてしまうだろう。
(お前にしちゃいい分析だが…今のお前じゃそれ以外の方法は思いつかないし、よしんば思いついたとして実行する実力もない)
このままでは自分の命は無いし、ゼルシオもどこかへ売り飛ばされてしまうだろう。
(そりゃちょっと困るな。よし、お前は不本意だろうが…俺の力を使え。)
やっぱりそれしかないのか?
「ビビッて黙りこくっちまってるぜ?」
「ま、泣いてもママのいるお家には返さないがな?」
「いくら冒険者名乗っても、所詮はガキだな」
(あーあー、好き勝手言われちゃってまあ)
強くなるための訓練を初めてひと月も経っていないが…ゼルシオの力を借りるしかないらしい。
(いいってことよ。お前に死なれちゃ困るかr)
「ぐうっ」
「いつまでも黙らせてるわけには行かないからな」
「ほらァ、金目の物か金を出せってンだよォ…」
「ま、殺せば一緒だけどなァ!」
『ハハハハ…!』
三人一斉に大笑いする。この状況に、心底腹が立っていた。
「その口…きけなくしてやるよ」
「あァ?なんだってェ?」
「もっぺん言ってみろォ!」
自分がゼルシオの力を頼らなければならない程に弱いこと、そしてこの3人の非道なる行いに。
「…やってくれ!ゼルシオ!」
《いいだろう…お前の思い、しかと受け取ったァ!》
あまりにも眩い光が、全員の視界を奪った。
ゼルシオはあれでも随分とハードルを下げたつもりです。
彼なら2人が出てくる前に3人が消し炭です。




