高過ぎたもの
食事の次いでに武具を買いに向かったカイだったが、そこに待っていたのは…
「ここか…」
(案外でかい店だな)
辿り着いたその店は、たかが街の武具店とは言い難い雰囲気を放っていた。店の規模は明らかに大きく、品揃えも、普通の店には置かれないような物が多く取り揃えられていた。
何より、気品さえ感じるような店だった。無骨な品物を取り扱う店であるにも関わらず、店内は妙に綺麗で、店の奥に工房がある様子もない。
明らかに身分と釣り合わない感じで、嫌な予感がする。
(なんだよ、いい店じゃないか)
1人で勝手に苦い顔をしていると、店員が気付いて声をかけてきた。店員の衣服は庶民の物とは素材から違うのが見て取れるほど、美しい表面で、素晴らしい仕立てが成されている。
まるで親父が貴族階級へ卸しに行く時の正装のような…それと同等か、より格が上の物だろう。
「いらっしゃいませ、お客様。当店のご利用は初めてでいらっしゃいますでしょうか?」
「あ…はい。街の人の紹介というか、ここが一番の店だと聞いて…」
(いかにも庶民、って受け答えだな)
「左様でございますか、では、身分のご確認だけさせていただきます。何かそういった物はお持ちでしょうか?」
「一応、こういう者です」
(あちゃー、こいつ下から二番目だぜ。終わったな)
店員は驚き、落胆したのを悟られぬように、笑顔を見せて応対した。
「ありがとうございます。では、軽くご案内をさせていただきます。」
そう言うと、店内の陳列についての説明を始めた。一通り聞き終わり、今日の資金と相談しながら、体に合うものを探し始めた。
さすがに店内では、思考を読み取ってもらう事にした。
「一応金貨が十枚はある…」
(それ、お前の身分に合ってない額だろ…幾ら人間の通貨に疎くても分かるぞ)
「失敗したなぁ…」
(せいぜい、1枚だけで支払える金額で買うんだな…それも、金貨1枚未満のモノをな)
防具はそこそこに、エルシオの代わりになりそうな重めの剣をまず決めることにした。最悪、防具くらいはギルド直営の店で探せばいい。
(ん…?)
俺の物を探しに来てるのに、こいつが何か気になりだしたらしい。腕も足もありはしないのに。
(いやな、そこの棚の上から二番目の剣に見覚えがあって…どこで見たっけな…)
俺は知らない。こういう店には縁がないのだから。
(あ…そうか、昔使ってた俺の剣だ。あれ。)
そんな事があるのか?お前の頭の中の作り話じゃないか?
(かすかに魔力痕があるが、それが完璧に俺の物だ。いや、驚いた…数百年は前の代物だが、まあ錆なんて出来るわけがない。値段によってはあれを買うといい。)
値段は…
「金貨5枚!?」
(バーカ。でけぇ声出しやがって)
静かな店内において声を聞き逃すはずはなく、また驚いた様子を見逃すはずもない店員が足早にこちらへと向かってくる。
「お客様、あの剣が気になっておいでのようですね」
「いや、あの…」
「あちらは、かつての魔族領から出土した物です。歴史的価値も去ることながら、剣としての出来は申し分ありません。」
(たりめぇよ、俺が魔族一の鍛治職人に打たせたんだ。申し分ないなんてもんじゃないぜ)
「さらに、魔力を帯びているため、何らかの魔剣であることは確かなのです。よって、これだけのお値段とさせていただいております。」
(魔剣なわけあるか。探知魔術の質も下がったもんだな…ポンコツ魔導師まみれのようだ)
「さあ、分割でもよろしいのですよ?この素晴らしい剣を、どうなさいますか?」
どう考えても、足元を見られている。
(俺の剣なら、5枚じゃ安いもんだろ。ほら、買えよ)
「(1枚だけで買えだの、5枚なら安いだの、なんなんだよ!)」
分かりきっていながら、財布の中身を確認する。…ちゃんと10枚入っているのだが。
「えーと、年払いの分割でお願いします…」
と言うと、店員は明らかに驚いた顔をした。
少々お待ちください、と言って、そのまま奥へと駆け込んで行った。
いくら年単位でも、1年に金貨1枚では驚かれてしまった。何せ、「青銅」の冒険者だからだと言うことは明白だった。
「今日のうちに鎧を買うのは、ひとまず諦めるか…」
(1年で金貨1枚を用意出来るなら、今まで何してたんだろうなァ、「青銅」がなァ…)
店を出ると、ゼルシオが随分と呆れ返った様子だった。
(あーあ、目ェ付けられちまったなァ)
さすがに、身の丈にあっていない高い買い物をしたと思う。素直に反省しなければならない事だ。
(こりゃギルドにも知れ渡るかもな…)
なぜギルドが出てくる?関係ないだろう。
(気付かなかったか?この店、聖騎士団とか言う所の契約店のようだぜ)
なんでそんな事が分かるんだ?
(昔と比べて、言語体型がそれほど変わってないみたいだからな。俺でも文字くらいは読める)
一番近い店を聞いたのが間違いだったらしい。久しぶりの大失敗だ。
ギルドに知られるのは非常にまずい。最近は任務を受けてすらいないのに、こんな高い買い物をしたと知れたらどうなるか…
しかも聖騎士団には、実家にいた頃に知り合った人がいる。当時でさえそこそこの階級だったから、今頃はもう少し上の階級になっているかもしれないし、今日のことを知られてしまうかもしれない。
そうなれば、実家に戻される可能性だってある。それだけは何としても避けたい所だ。
新たな悩みに頭を抱えながら、再びクレオを訪れるために歩き出した。
派手な剣を二振も腰に提げて…
金貨1枚は聖騎士団の部隊長の半年の収入で、冒険者で言うと、カイの「青銅」の級位では10年はかかるような額面です。




