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禁忌の魔剣と平凡剣士  作者: 遊霧
転がり出す運命
4/20

活気

喋る剣による過酷な訓練。

カイはとにかく、がむしゃらだった。

無茶な鍛錬が始まって5日が経った。

筋肉痛の嵐に見舞われ、剣…ゼルシオを持ち上げるのもやっとな状態で、今日も素振り一万回からこなしている。


(まだ半分も行ってないぞー。拍を崩すなよー)

気の抜けた声で指導が入る。振るのさえ結構辛いのに、一定の速度で振らなければならない。しかもゼルシオは普通の剣より重いのだ。


声にならない声を出しながら、俺の鍛錬は続いた。


(よし、今日の分は終わったな)

「お前…ちょっと…厳しす…すぎないか…」


(仕方ない。今日から二日は休め。依頼も受けるなよ?)

「分かった…とにかく…休ませて、くれ」


まだ夕食も済ませないうちに、倒れるように眠った。とにかく眠った。自分が声を出して話している事には、全く気付かなかった。


起きたのは翌日の昼前だった。宿の店主が心配して、起こしに来たらしかった。

昨日の夕食と、今日の朝食も摂っておらず、昼食だけでは足りなかった。


「チクショー、腹減ったな…」

(ここ最近鍛錬で宿に篭りっきりだったろ。外に出て飯でも食えばいいじゃないか)


確かに。たまにはいい事を言うらしい。



という訳で、街へと繰り出してきた。

こんな機会でもなければ、普段は顔を見られたくないため外には出ない。宿の主人も大層驚いていた。


「飯屋か…何年か行ってないな…」

(そんな貧相な暮らしでよく生きてたな、お前)


貧相で悪かったな。階級が低いから報酬も少ないんだ。

(何はともあれ、外食できる生活にしてやった俺に感謝するんだな)

感謝ならしてるさ。鬱陶しいヤツを助けたせいで、気持ち半分、形半分だが。


取り留めのない話をしながら、この街に来て間もない頃、よく通っていた店へ向かった。

少しだけ古びた看板には、洒落た字体で「クレオ」と書かれている。


扉を開けると、気持ちのいい鐘の音が鳴る。それが懐かしい音だと思うほど、長らくここに来ていなかった。

("クレオ"か…いい店だ)


以前と変わらず、飯時は多くの客で賑わっている。

「いらっしゃい!」


軽く会釈をして、店主の声に応えた。もう何年も来ていないので、忘れられているだろうと思っていたのだが、そうでもなかったようだ。


「おお?兄ちゃん久しぶりだな!顔を出さなくなった時ゃ心配したぜ!ほら、座んなよ!」

と、まくし立てられるままに席に座らされた。出している料理に変わりはないようで、馴染みの料理も残っていた。


「いつものだろ?すぐ作ってやるよ!ちょっと待ってな!」

と、俺が声を発することも無いまま奥へ行ってしまった。相変わらず嵐のような、太陽のような、眩しい笑顔と大きすぎる声だ。


(俺が昔仲良くしてたヤツに似てるな。ああいう人間は嫌いじゃないぜ)

誰にでも優しく、明るい人。とてもいい人なのだ。


(こういうヤツとは、何があっても関わりを断っちゃいけないぜ。損得勘定じゃなく、お前自身の心のために)

ここへ来れなくなった時、とても辛い思いをした。二度とあんな思いだけはしたくない。


(金欠か?)

その通り。空腹感と、罪悪感でいっぱいだった。

「よーし!お待ちどうさん!今日は再会の記念だ、超大盛りだぜ!」


「ありがとう、オヤジさん」

「いいってことよ!久しぶりにお前の顔が見れて、俺ァ心底安心したんだ…」


「金が無くってさ…生活が厳しくて、来れなかったんだ」

「んなもん、稼いできた時に払えばいいんだよ。ウチはツケ払いでもいいんだぞ?」


『おやっさん!酒二杯くれ!』

「あいよ!ちょっと待ってな!」


会話の途中だが、あくまで店だ。酒を取りに再び奥へ消えていく。

「ツケ払いできる余裕があったら良かったんだけどな…」


(そんなにデカい度胸も財布もなかったってか)

以前より味付けに繊細さが増して、料理の腕を上げているのが分かる。


(お前…間違えて声に出したな?)

誤魔化しても、ゼルシオにはすぐ分かるようだ。



超大盛り飯を食べ終わり、会計を済ませると、店主に呼び止められた。

「積もる話もあるんだろ?今日の七度目の鐘が鳴ったらまた来な。話し相手になるからさ」


「え、いいんですか?」

「おう、じゃあ待ってるぜ!」


(…何事もないといいが)

どういう事だ?


(いいや、なんでもない)



店主に見送られながら店を後にして、七度目の鐘までは時間が有り余っていたので、少し遠くの武具店に足を運ぶことにした。


「聞いた限り、いい感じの距離だな」

(なんか買う物でもあるのか?)


「お前の代わりになる剣と、今までのよりちょっと重くて頑丈な防具だな」

(防具は分かるが、なんで俺の代わりがいるんだよ)


「お前が多少なりとも派手だからだ」

(そんなに派手かなァ…)


「派手だと誰かに見られた時に困るだろ」

(まあ、それはそうだな。ところで…普通に声出して会話してて大丈夫か?)


「大丈夫さ、街の喧騒で大して目立っちゃいない」

(どうだか…)


組合での冷たい視線に慣れすぎて、少し見られるぐらいでは全く気にしないだけなのだが。


街の人々に道を聞きながら、武具店へと向かった。

カイの生活水準は結構低いです。弱いので。

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