奇妙な出会い
遺跡の奥には秘密があった。
その奥に潜む物にしか分からない秘密が、確かにあった。
意識が戻った時、周りがやけに騒がしかった。「起きろ」、「起きないと許さない」、「後悔しても知らない」、様々な言葉が浴びせられた。
あまりにもうるさい。誰も居ないはずの洞窟で、何故こんなに騒がしいのか。怒りが沸点に達し、俺は起きながら叫んだ!
「うるせええええええええええ!!!!!!!」
自分の声が反響する。勝手に耳鳴りを起こしていると、どこからともなく声がする。
(おいお前!起きたなら俺の話を聞け!)
随分厚かましい人間のようだった。眠りを妨げておいて、偉そうな物言いだ。
(いいかよく聞け!お前が寝てるその壁、仕掛があるんだ。奥には宝がある。俺がその仕掛の解き方を教えてやる。そっちからじゃないと動かないんだよ。人助けついでに宝が手に入る、うまい話だろ?)
うるさくされて眠りを妨げられた上、相手は横暴な人間のようだ。助けられる側なのに、上からものを言う。
(うるさくて悪いな。こっちも必死なんだ!)
どうせこのまま宿へ帰ったところで何もないのだから、何かしらの見返りがある以上はやる価値がある。
渋々だが、言うことを聞いてみることにした。
(話のわかるやつで助かるぜ、そういうやつは嫌いじゃない。)
いちいち癪に障る言い方をする。さっさと教えてくれ、とだけ答える。
(わかったわかった。じゃあまずは…お前から見て右手側の出っ張った岩を左に回せ。)
そこで、思わぬことが起こった。なんと、言われるままにやってみると、本当に動くのだ。
えも言われぬ高揚感が沸き立ち、楽しさまで感じながら、仕掛を動かしていった。
しばらくして、仕掛も大詰めに入る。
(そう、そことそこを同時に回して…よし、そしたらそこをだな…そこは上に滑らすんだ。いいぞ、その調子だ!)
ここまで動いているのを目の当たりにすると、壁の向こう側の人間のことが気になった。なぜ仕掛の解き方がわかるのか、なぜここにいるのか。一体何者なのか、知りたかった。
(最後だ。真ん中の岩を引っ張れ、思いっきりだ!)
ズルッ!
思いっきり引っ張って、岩が抜けた。俺の体と一緒に、後ろへすっ飛んで行った。
頭と壁からゴン、と鈍い音がして、歪んだ視界の中では、ゆっくりと壁が左右に開いている。
なぜか胸が高鳴っていた。こんな感情を抱くのは、久しぶりだった。冒険者になるために街へ繰り出して来た時のような興奮が、そこにはあった。
何もかもかなぐり捨てて、やけくそになったことが久しぶりなんだと気付いて、胸の中の引っかかったものが取れたような気がした。
(何勝手にすっきりしてんだよ、俺の事を忘れてんじゃねえ!早く入れ!)
言われるがまま、壁の向こう側へと足を運ぶ。そこは今までの洞窟とは違い小綺麗で、古びた台座に刺さった、妙に状態のいい剣が佇んでいた。周りには壁画と、なぜか状態のいい金銀財宝もある。
(よう。いや、久しぶりに人の顔を見たぜ。)
そこには、剣と財宝。喋るものは無いはずだ。意味がわからない。
(お前の目の前の剣だよ、剣)
剣が喋るだって?余計に分からない。
(こういうのは初めて見るって顔だな。よし、ここは俺の丁寧な解説で教えてやる。)
頭が混乱したまま、剣の話を聞くことになった。
(俺は魔剣。その中でも、人に魔剣にされた魔族だ。その昔はかなり名の通った魔族だったんだぜ?まあ何百年と経ってるだろうから、俺なんておとぎ話の存在なんだろう。)
聞いたこともない…もう抜いていいのだろうか?
(待て待て待て待て!軽い気持ちで抜こうとするんじゃない!とんでもない魔力を秘めてるんだからな、俺は!)
妙に自尊心の高い剣だ。剣のくせに。
(くそ、面倒くさいって顔しやがって…まあいい、どうせ名前も知らんだろうから、この際教えといてやる。俺の名は「ゼルシオ」ってんだ。ついでと言ってはなんだが、ここから出してくれるんだろ?その礼として、俺の力を使わせてやるよ。)
怪しい話だ。さっさと抜いて出てしまおう。
(まあ待てよ、話をちゃんと聞け。モノは試しだ。お前が望むなら力を貸してやるってんだぜ。悪い話じゃないだろ?)
悪い話ではないのだが、後が怖い。何をされるか分かったものではないのだ。
(話のわからんやつだな。よし、とりあえず抜いてここから出してくれ。話の続きはそれからだ。)
随分と軽々しく抜かれてくれるようだ。
(お前が俺の話を聞かないからだ)
柄を握り、力一杯引き抜こうとした。すると思いの外あっさりと抜け、そのせいでまた転んだ。今度は尻餅をついた。
ほとんど引っかかる感触もなかったので、拍子抜けだ。
(驚いたか?まあ無理もないだろう。これだけ自信過剰なくせにあっさり抜けるんだからな。)
話の続きをしてくれ、と頼んだ。しかし、こんな怪しい物品はとっとと売り払うのがいいだろう。
辺りに鞘になるような適当なモノはないだろうか…
(こいつめ、俺を売るだと?仕方ない。そのお粗末な頭にわざわざ説明してやる。いいか、ここには強固な結界が張られていたが、何百年も経ったせいでその効果が弱まっていたんだ。だからお前に声をかけられたし、そもそもの話、人にこの洞窟が見えるってことは封印が解けてるようなものなんだ。)
それは凄い。しかし誰がお粗末な頭だ。生意気な剣め。
…待て、なぜ売るという話を知っている?
(お前程度の魔術の素養のない人間の心なんて、俺にかかれば鍵どころか蓋のない箱のように中身が丸見えだぜ。)
ふと、重大な事に気付いた。なんと、財宝を運ぶための袋が何も無いのだ。
これでは調査隊を呼ぶしかない。しかし、そうすれば俺の分け前は階級が低いせいでほんの少しにされる…
(俺の話を無視したのは頂けないが…優しいこの俺が魔術を使わせてやろうか?楽だぜ。)
猫の手も借りたいとはまさにこの事だが、やっぱり怪しい力に手を染める気はない。
(まあ、そう疑ってくれるなよ。魔力もこっちに残ってるから、お前が命じるだけで魔術が発動するぞ。ただし、声を出さなきゃ命じたことにはならない。)
心の中を覗いている以上、そっちでやっておいてくれればいいはずだろう。伝説の魔剣が聞いて呆れる。
(そういう訳にも行かないんだよ。魔剣の構造上、使い手の声でしか発動できないようになってる。命じられないことには、俺の枷は緩まない。)
"枷が緩む"?
(簡単に言えば、俺の力ひとつひとつに掛けられた鍵を一時的に外す感じか?とにかく、お前が意志を持って命じることで、その鍵は外される。)
つまりこいつの力は俺のモノってことか。実に好都合な話だ。
「ツイてるな…」
(声が漏れてるぞ。まあ声に出す出さないは、俺には関係ない事だがな。)
心を覗いてるんだから、それが当たり前なのだろう。
しかしなぜだか、妙に気疲れしているので、早くここを出たいところだ。
(念話はお前の魔力も多少借りるから、魔力の扱いに慣れてないお前は疲れやすいんだろう。)
勝手に使ったっていうのか?なんて図々しいやつだ。
(仕方ないだろう?念話魔法はそういうものだ。)
仕方ないと言われても、よく分からないのだが…
(それより、本当に急いだ方がいいぜ。)
一体どうして?
(昨日、壁の向こうの人間一人一人に声を掛けようとしたんだ。その時に、お前以外にも一人だけ、一瞬反応した奴がいた…)
つまり、そいつが来るかもしれないという事か。
(そういう事だ。てなワケで、宝が欲しければ…俺の名前を…「ゼルシオ」と言ってみろ。使う魔法と難度はこっちでも調整するから、暴走はしない。)
財宝を抱えて出ようとしても、ひと握りしか持ち帰れないだろう。という事は、言うことを聞くしかない。
立ち上がって、なんとなく姿勢を整える。
「『ゼルシオ』!」
すると、「ゼルシオ」の刀身が光を放ちながら、辺りに風が吹き始め、財宝が浮かんでいく。
「おお…こいつはすげぇや…」
思わず声が出るくらいには、幻想的な光景だった。
(さて、とっととズラかるぞ!)
「確か…こっちだな」
(お前…ちゃんと出られるんだろうな?)
道はある程度覚えているから、多分出られるだろう。
(あ、そうそう。もし転がってる金銀財宝を隠しておきたいなら、扉を閉めていくことを勧めるぜ。)
どうせ売ってしまうのだから、隠しておく必要もないだろう。研究者にとってはたまったものではないだろうが…
(はは、そりゃそうだ。そういやお前、これらの出処について聞かれたらどうする?)
何も言わず、高値でなんでも買い取ってくれる店を知っているので、そこを当るつもりだ。
金のない時には随分世話になった…
(なるほど。首にかかってる板はショボイ人間なのを表してるわけだ…)
いちいち余計な事ばかり言いやがる。相手にする前にさっさと出てしまおう。
(おう、誰かに見つかったりするなよ。)
出来るだけ早く、周りに警戒しながら出口へと急いだ。
その頃、洞窟の一角─
「ちくしょー…何もない…」
「おい、ここまで来といて気のせいだなんて言ったら承知しねぇぞ!」
二人の冒険者達が、崩れかかった洞窟を進んでいた。
「たしかに聞こえたんだよ。一回だけ…」
「そりゃ気のせいだろ!もし本当に人が居たってんなら、助けて欲しくて何回でも叫ぶだろ…ったくよォ、帰るぞ!」
「そんなぁ、もうちょっとだけ…」
「明日も依頼受けてんだよ!こんなチンケな洞窟にいつまでも居られねぇっつーの…オラ、早くしろ」
「はぁ…」
特に成果もなく、2人は洞窟を後にした。
会話パートが多くなってすごく長い。削る事は出来なかったので、そのまま投下。




