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禁忌の魔剣と平凡剣士  作者: 遊霧
次なる一歩
19/20

秘められた力

人影を追う大型魔物を、その後ろから追うカイ。

その時、ゼルシオの力を再び見る事になるのだった。

魔物を追って、森だった場所を走り続けていた。

木々は倒され、地面は足跡の形に潰され、周りが捲れ上がっている。


「これ、追いつけるかなぁ」

(お前が魔法をもっと上手く使えりゃ追いつけるだろうが、無理だな)


「じゃあ、お前ならどうするんだ?」

(簡単な話だ。まずは俺の力を使えるようにしな)


力自慢をしたいだけじゃないのか、と思ったが、この際それは考えない事にした。


「任せるぞ。ゼルシオ!」

(よゥし、任せときなァ!『風』『岩』『吹き飛べ』!)


「は?」

そんな初級魔法で何が...


(まあ黙ってしがみつく準備でもしてろ)


足元の捲れた地面から、突如、人の背丈以上の大岩が浮き上がった。

そしてそれは、魔物が作った道に沿って、唸りを上げながら飛び出した。


「(しがみつくってのは...このためか!)」

(ご名答ゥ)


小さくなっていた魔物の背中は、あっという間に大きくなった。

目一杯見上げる程に大きいその体に、岩は直撃して砕け散った。


「お前は俺を吹き飛ばさないようには出来ないのかぁ!?」

(仕方ねェだろ。吹き飛ばす魔法なんだからァ)


ついでに、俺も吹き飛ばされていたのは言うまでもない。


大型魔物の頭を上から見下ろす経験をするなんて、思い浮かべた事すら無かった。

巻き角に飛び出た鼻が目立つ...悪魔型の、強力な種族だ。


魔物はこちらを見て身を翻し、雄叫びを上げた。



食われるか?薙ぎ払われるか?

どちらにしても...死ぬだろう。



(どっちでもねェよ。ほら、もう一回やるぞ)


「...!ゼルシオッ!」

体が空中で振り回されている最中に声を出す事など、これが初めてだった。


(この程度なら...これでいいか。『火』『強く』『纏まれ』『落ちろ』)


『火』という単語以外は何を言っているか分からなかったが、強力な魔法である事は見て分かった。

だがこれは...熱の塊の様な物だった。


(ほら、どけェ)


熱塊が魔物の背中に突き刺さると、肉を溶かし、体を燃やした。

そして断末魔を上げる間も無く、魔物は黒焦げになっていた。


これを軽々しくやっていたのを見て、これは世界を揺るがす力なのだと、俺の脳裏に焼き付けられた。


(なんでもいいけどよォ、俺が何とかしないと地面に打ち付けられて死ぬだろォ?)

「あ...ゼルシオ」


(『風』『巻け』『上がれ』)


ゼルシオが風の魔法を詠唱すると、落ちて来た俺の体が優しく受け止められた。


「助かった。ありがとう」

(一々名前を呼ばれないと魔法を使えないのは、なかなか不便なもんだなァ...)


ゼルシオぐらいに魔法を使えると、連発も出来たりするのだろう。

そうなると、一度力を解放しても一度しか魔法を使えないのでは、確かに不便なのかもしれない。


(さて、さっきの人影は誰だったんだろうなァ?)

「お前なら、探知魔法とやらで分かるもんなんじゃないのか?」


(これは生物やなんかに内包されてる魔力を感じ取る魔法だ。個体ごとの認識は出来ねェよ)

「ふーん、そんなもんか」


(そんなもんだが、あると便利なのさ。人間には使えねェけどな)

「そうなのか...」



「さっきから、何を一人で喋っているんだ?」



魔物に追いかけられていた人物が、こちらに話し掛けてきた。

外套に顔が隠れてはいるが、その声、赤茶の髪色、それはまさしくエレノアであった。


「エレノア...!?どうしてここに居る?ここは今、俺が受けた任務で封鎖されているはずだぞ?」

「...」


「大型魔物...か。つまり、昇級に関わる事なんだな?」

「ああ...そうだ。無断で来ている」


どうした物か。

本来なら、俺が聖騎士団に報告するべき事だ。


しかし、それではアインスさんの顔に泥を塗りかねない。

悪い考え方だが、今の俺に出来る事は...


「仕方ない。黙っておくよ」

「...なぜ?」


「他人の不幸を見たい訳でも無いし、俺の秘密も知られちまったからな。そっちの秘密だけ報告するのも、何か後味悪いだろ?」

「...ありがとう。済まない。この恩は...必ず返す」


「いいよ、そんな仰々しい事は」

「しかし!それでは示しが...」


《諦めな。こいつはそうと決めたら、全く曲げようとしねェ奴なんだ》


「...誰だ?」

「おい、ゼルシオ。なんで出て来た?」


《見られちまったからには、最低限の説明は必要だろォ》


何が起こっているのか、まるで分からない様子だった。

いきなり頭の中に声が聞こえるのだから、無理もないだろう。


そのあと一通り事情を説明し、お互いに時間差を付けて帰る事にした。



「はぁ、お前と居ると問題が多くなってる気がするよ」

(仕方ねェだろ。力ある所に問題は舞い込むモンだ)


それが本当なのか、俺には分からない。

拾ってしまったのが運の尽き...という事にしよう。


(全くもって、失礼な奴だ)

「ところで、さっきの単元魔法だよな?」


(そうだが...それがどうした?)

「あのさ、クレオの時なんて、大型魔物に比べたらもっと簡単に出来たよな...と思ったんだ」


(何百年ぶりにド派手に魔法を使う訳だからな。どれくらい出来るのか、試したかったのさ)

「そういう事にしておいてやるか」



その夜、聖騎士団宿舎の一部屋では─


「(今日は...色々な事があり過ぎたな...)」

エレノアは、毛布に包まって取り留めのない考えを巡らせていた。


「(遺物の剣が、かつての英雄...そしてそれを、カイが持っている)」


「(それでいて、カイはそれを隠そうとしている...どうしてだ?大型魔物を一撃で、軽々と屠る力を持っているのに...)」


何かが引っかかって、取れないでいた。


「...分からない」

「なーにが?」


相部屋の騎士が、エレノアの独り言に反応した。

もちろん、女性である。


「...分からないんだ」

「だから何が?言ってみなさいよ」


「...今日また、外に出ていた」

「アンタまたやったのね...それで?何かあったの?」


「第一師団長に頼まれて、ある冒険者の面倒を見る事になったのは話しただろう?」

「うん。聞いたよ」


「今日は、その冒険者に助けられたんだ」

「良かったじゃない。命あっての物種よね」


「私よりも、ずっと強かった。そして...謙虚だった。私の秘密を守ってくれると、そう言って立ち去って行ったんだ」

「立派な人ね。何はともあれ、助かって良かったじゃない?」


「...ああ」

「まだ何かあるの?」


「...それが、分からないんだ」

「ふーん、そう...分からないのね」


「分かるのか?アイラには」

「もちろん。でも教えてあげない」


「どうしてだ?」

「だって、自分で気付くべきだもの。...あ、そろそろ私も寝るね。おやすみ」


「ちょ、ちょっと...待ってくれ...」

「もうこの話はおしまい。明かり消すわよ」


「教えてくれても...」


困惑するエレノアを後目に、部屋の明かりは消されてしまった。

頭の中、胸の中のもやは、その日の内に消える事は無かった。


冒険者の事を話すエレノアの顔が綻んでいたのを、アイラ以外に知る者は居ない。

単元魔法の連発には、『連続』を意味する単語を組み込む事と『数』を明確にイメージする必要があります。

別の魔法とを連発する時は、別の詠唱が必要です。

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