表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
禁忌の魔剣と平凡剣士  作者: 遊霧
転がり出す運命
14/20

生存確認

失踪した冒険者の手掛かりを探すべく、冒険者組合の各支部長を集合させた中央支部。

そこに舞い込んできたのはひとつの手紙─

冒険者組合中央支部は、ある話題で持ち切りになっていた。

その話題と言うのも、青銅級冒険者「カイ・ステイルス」が、ここ二週間は姿を見せていない事だった。


階級の低い冒険者は、任務の達成報酬の額面が少ないので、数日を生きていくにも苦労する。

そうであるにも関わらず、彼は顔も見せず、任務を受けた形跡もない。

他の支部に確認をとっても、彼はこの二週間でたったひとつの任務も受けてはいないと言う。


通常、この事実を前に考えられる事は、生きる事を放棄したか、裏の世界へ堕ちたか、その二つである。

しかし、彼だけでなくこの国の冒険者組合において、誰も例外無く、金銭的な利益を得る可能性があった出来事が一つだけある。


聖騎士団からの依頼であった、とある洞窟…もとい、遺跡の探索任務だ。

ほとんど何も見つからなかったが、協力料として、多数の冒険者に現金で報酬が支払われている。


そこで誰もが疑った点が、彼だけは一日遅れて、国内へ戻ってきていたという事だった。

何かを見つけ、独占し、金銭を得て雲隠れしたのだと、まことしやかに囁かれた。



そして、青銅級冒険者「カイ=ステイルス」の処分について、中央支部の会議室にて、冒険者組合の会合が行われていた。


「件の冒険者の生死に関する処分だが…我々中央支部の調査では、確実な情報は得られていない。何か、情報があれば伝えて欲しい。彼が中央所属である以上、情報を得る権利はある」


冒険者の失踪、及び死亡などの状況判断を正確に行わなかった場合、国から厳重処分が行われる様になっている。

処分が重ければ数年間活動停止となり、所属冒険者は他の支部へ流れて行く事になる。


ましてや可愛がっている冒険者ともなれば、中央支部長の焦りが隠れる事は無かった。


「そうは言われても、こっちにも情報はないね」

「同じく」

「こちらも同じく」


北部、東部、西部支部長はそれぞれ答える。

南部支部長は、欠席していた。


「これだけ情報が見つからないのなら、もう生きてると考えるのは諦めた方が良いんじゃないのか?」

「軽率な発言は慎め。だから北部は荒いんだ」


「初心冒険者の集まりだけあって、東部は緩いんだな?そんなんじゃ、ウチで人は纏められないな」

「まあまあ、今はそんな話をしている場合ではないんですから…ね?中央さん?」


冒険者組合は、所属冒険者の任務達成などによる功績に伴って、国から活動支援金が割り振られている。

そのせいか、お互いの仲は険悪であった。


「そうだ。こちらは急を要する話をしている。お前達のつまらない喧嘩に付き合っている時間は無い」


「とは言ってもよ、情報が無いんじゃ話が始まらないぜ?」

「またの機会に南部支部にも話を聞くとして、今日は解散しましょう。情報が無くては、それこそ時間の無駄になる」


ふと、部屋の扉が勢い良く開いた。

中央支部の職員が、慌てた様子で駆け込んで来たのだ。

「支部長!例の冒険者の居所が分かりました!」


「何だと!?一体どこに?」

「そ、それが…聖騎士団本部だと…しかも、第一師団長からの情報です。聖騎士団長の署名もあり、確かな情報かと思われます」


「第一師団長からの直々の情報か…ともすれば、すぐに確認に向かう必要があるな」

「すぐにでも、陸竜を手配します」


「ああ、頼むぞ」

職員は頷くと、部屋を後にした。


「と、言う訳なら…俺達は帰っていいんだな?」

「情報が入ったのなら、我々は必要ないだろう」

「とにかく、見つかって良かったですね」


「ああ、時間を取らせてすまなかった。幾つか、階級の高い任務を各支部へ回そう。協力に感謝する」


そうして会合が終わり、支部長達はそれぞれ帰っていった。


「一体あの少年に、第一師団長とどんな関係があるのだ?ただの冒険者に、そこまでの者との接点があるとは思えないが…」


「第一師団長とコネのある奴か…階級が低くても、こっちに引っ張りゃ得があるな」


「全く…中央は早とちりが多い。こちらは新人の育成に手一杯だと言うのに」


「中央支部との提携を結ぶ為には、こういう会合には参加しておかないとね。それにしても、どうでもいい会合だったわ…」


4人はそれぞれの思惑を抱いて、竜車へと乗り込んだ。



その頃、エリストル共和国聖騎士団本部では、第一師団長にまつわる噂が飛び交っていた。


と言うのも、第一師団長が個人的に訓練所を借用している事と、その場所を使っているのが本人でない事が、噂を広めるのに拍車をかけていた。


第一師団長が借りたのは、解体された第七師団が使用していた、それ故に、今は使用されていない訓練所だった。

その近くに残っていた兵舎の一部屋も借りており、訓練所を利用する者と同一の人物が利用していた。


そして、そこでたった一人訓練に励む男は、聖騎士団員でさえ身を引く様な、恐ろしい量と質の訓練を行っていた。

第一師団長が様子を見に来る事はあまり無く、三日置きに一度程度といった頻度であった。


その為、あれは第一師団長の隠し子だとか、直々に招待した実力者だとか、または兄弟だとか…

憶測の域を出ない、しようもない噂ばかりが広がっていた。



そんな聖騎士団本部に、冒険者組合中央支部長が、失踪していた冒険者の所在について詳しく知る為、己の足を運んでいた。


「ここに来るのも、あまり気が乗らなかったが…彼の為だ。行ってくる」

「支部長。くれぐれも無礼の無いように気を付けて下さい」


その言葉を背に、中央支部長は脚を踏み入れた。

まずは、玄関広間の正面にいる受付に、送られてきた手紙を見せた。


少し待たされてから奥へと案内されていくと、二階へ登った所にある、訓練所が見える廊下に、聖騎士団第一師団長が立っていた。

少し微笑んだ様な顔で、訓練所の方を見ている。


「師団長!冒険者組合の者をお連れ致しました!」

「ああ、彼が…忙しい中ありがとう。持ち場へ戻りたまえ」


「はっ!」


案内役が戻っていく。

その様子を見てから、こちらへと視線を戻し、第一師団長は話を始めた。


「初めまして。聖騎士団第一師団長を務めている、アインス=シグ=レインフォードです」

「冒険者組合中央支部長、クライグ=ランバルドだ。こちらこそ、初めまして」


挨拶の握手を交わす。

そしてすぐに、冒険者の話が始まった。


「貴方の探している冒険者と言うのは、彼で間違いないでしょうか?ほら、そこで訓練を続けている…」

そう言われ、訓練所へと目を向けると、確かにそこに居たのは、「カイ=ステイルス」だった。


「ああ!彼だ!良かった、生きていたか…」

凄まじい気迫で剣を振るっている姿は、以前とはまるで別人の様だったが、息子と瓜二つのその顔を、見紛うはずも無かった。


「私と彼は、浅からぬ縁がありまして…彼の強い希望に応えて、この様に訓練所を貸し出しているのです」

「二人は、一体どこで出会ったのですか?青銅の冒険者では、貴方の様な人とは会う事は無いはずだ」


「彼の実家は名のある農耕一族でしてね。私の実家の事業の一端を担っていたのですよ。家ぐるみの付き合いがあり、彼とは特に仲良くしているのです」

「ほう…そんな話は、彼からは聞いた事が無い…」


「なるべく、私を頼りたくは無かったのでしょう。彼は、自尊心を高く持てる人間です。それ故に、つまづく事も多いでしょうが…」

「なるほど。確かに彼には、そういう嫌いはある。…ところで、彼は一体どんな訓練をしているのですか?しかも、たった一人で」


「まずは夜明けに起きて、準備運動にはこの訓練所の外周を50周走っています。その後は肉体の鍛錬、実践的な動きを意識した素振りなど…日が暮れるまで行っている様です」

「それなら、以前と比べて体付きが見違える程変わる訳だ。しかし一体、どんな切っ掛けで、そこまで厳しい訓練を行っているのだろうか?」


「それについては、少し説明しづらいですが…今の所、彼は鉄級どころか、銅級まで上がる事を目標にしていますよ」

「銅級へ?彼の実力では、二階級も上げるのは決して楽な道では無いが…」


「今までの彼とは違うと、そう考えた方が良いと思います。彼は変わろうとしている。変わり始めている」

「ああ。それだけは私にも分かる。何より、以前より活き活きとしている…」


「貴方にそう見えるのなら、間違いないのでしょう。…今日は、わざわざ足を運んで頂きありがとうございます。しかし本来なら、我々が陸竜を用意すべきでした」

「構いませんよ。私はこの目で、彼が生きているのを見れただけでも満足なのですから」


ふと、鐘が鳴った。

今日の六度目の鐘だった。


「では、私も業務に戻ります。お忙しい中、ありがとうございました」

「こちらこそ」


握手をして、二人はそれぞれ訓練所の傍を離れた。


件の冒険者「カイ=ステイルス」はと言うと、鐘が鳴っても訓練を止める事は無く、八度目の鐘が鳴るまで訓練を続けていた。

陸竜は、馬みたいなものだと考えてもらえれば良いです。

人間が長年かけて飼育に成功させました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ