魔法という物
強くなる為に、剣の扱いだけでは足りないと思ったカイは、魔法の特訓もしたいと伝える。
しかし彼は、魔法がどんな物か全く知らなかった。
《魔法を教えろだとォ?》
「ああ、なるべく早く強くなるには、こっちの方が都合がいいんじゃないかと思ってさ」
至極真っ当な意見だと思うのだが、ゼルシオはあまり乗り気では無さそうだ。
《うーむ、まあ、魔法についてよく知らないなら、そう言っても仕方ないのかもしれんなァ…》
「どういう事なんだ?」
《魔法ってのはな、世界中何処にでも自然にある「魔元素」と、自分の精神力やら体力やらを融合して初めて使える、古代文明の叡智のひとつだ。お前は体力が無いから、魔法を覚えるにはまだ早いんだよ》
「…もうちょっと簡単に言ってくれ」
「私が説明しよう。いいですね、ウルティモア卿?」
《俺よりお前の方が、人間に教えるには向いてそうだ》
「ありがとうございます。では、カイくん。魔法という物について、分かりやすく教えよう」
「お願いします」
魔法は、先程説明された通り「魔元素」と「詠唱者の体力、精神力」を素にして発動する、この世界の理のひとつだ。
古代文明の叡智といったように、魔元素が何なのかという事は判明していないし、それを人工的に生み出す事は出来ていない。
なぜなら、魔元素と言う存在の根幹について、古代文明に生きた者達が書き残さなかったからだ。
それが所謂「神」というべき存在に触れてしまう為なのか、もしくは、力を誤って使うのを恐れたのか…
どちらにせよ、彼らの意図は分からない。
ただ、魔元素という物があり、体力や精神力を消耗させる事で「魔法」を放てる。
それだけがハッキリしている。
そこで重要になるのは、魔法を唱える際には「体力」が優先的に消費される様になっている事だ。
ましてや君や私は剣士であるから、剣を振るいながら魔法を唱えるという事は、どちらにも使う体力が不足しやすいという事なんだ。
そして精神力を使うという話だが、これは人類が命懸けで検証を行った事で判明した。
魔族は体力が人間の比ではないから、この領域に辿り着く事は無かったんだ。
ここでいう精神力は、記憶や感情の事だ。体力の限界を超えて魔法を使用すると、精神力が消費されていく。
精神力を使う魔法は極めて強力で、何者に対しても脅威になりうる様な力を持つ。
しかしそれでは、人間として欠けていく物が大きすぎるだろう?
それを危惧して、ウルティモア卿は現状での魔法の使用について、苦言を呈しているのさ。
「話を纏めると、魔力とは『戦闘行動において、魔法に回しても問題のない体力』の事だ。体力がないのに魔法を使っては、精神力を削りかねないんだ」
「なるほど…」
《今までよりもさらに厳しい特訓に耐えるってんなら、話は別だがな》
「それはどれくらいの量なんだ…?」
《今までの3倍は軽くこなしてくれないと、魔法は教えらんねェわな》
「嘘…じゃ、ないんだろうけどさ…」
《アインスの為でもあるんだぞ?》
「それを言われると、何とも言えない…」
「無理は禁物だよ、カイくん。だが、出来るだけ早く昇級する方がいいのは確かだ。君にとっても、昇級出来るのは悪い話では無いだろう」
「そうですね…銅級まで上がるのなら、結局はやらなきゃいけない事だ…」
《やるか、やらねェか、どっちだ?》
「…やる。絶対やり遂げる!」
《よし、よく言った。そこでアインス、ひとつ頼まれてくれるか?》
「私に出来る事なら、何でも致します」
《ありがとよ。なら…こいつが特訓する間に寝泊まりする場所と、特訓する場所を、格安で用意してくれ》
「それでしたら、空いている特訓所と、団員専用の個室を用意させます」
《いいねェ、特別待遇だァ》
「聖騎士団の今後に係わる事です。これぐらいはさせて頂かないと、こちらの顔も上がりません」
《…という訳だ、カイ。ぶっ倒れない程度にしてやるが、ぶっ倒れたら無理矢理起こすからな。やるって決めたんなら、キッチリ着いてこいよ》
「分かった…やってやるさ!」
こうして、あの地獄の日々が比べ物にならないような、恐ろしい特訓の日々が幕を開けたのだった。
その頃、冒険者組合中央支部では─
「あのへっぽこ、最近全く顔を見せないな」
「なんだよ、寂しいのか?」
「ンなわけあるかよ。ただ、アイツが居ねぇと、ここの空気がピリピリしてて嫌なんだ」
「確かになぁ。アイツが笑い者にされてたから、皆表面上でも、ある程度足並み揃ってたからな」
「今はどうだ?ここ数日間アイツが居なかっただけで、級位の高い奴らが威張り散らして来やがる。特に銀の奴らなんて、ヒデェもんだぜ」
「金はもちろん白金なんて、そんな些細な事には動かないからな。まさに、やりたい放題だよ」
「アイツ以外の青銅なんて、ほとんど東部に行っちまったからな。代わりにいびりがいのある奴も居やしない」
「日銭稼ぎもしないって事は、この前の探索任務でなんか見つけたんじゃねぇか?」
「どうだろうな…何も無かったぜ?」
「そうだよな、それはないか…俺達も、いつまでも鉄に居ないで、級位上げないとな」
二人の冒険者が、現状に不満を募らせていた。
アインスは魔法も使えます。
そうでなければ、第一師団長に選ばれたりしてません。
そしてゼルシオも、魔法を扱う剣士でした。




