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禁忌の魔剣と平凡剣士  作者: 遊霧
転がり出す運命
12/20

頼み事

アインスに連れられ、彼の部屋へと向かう。

再会を喜び合う中、アインスは自らの思いを打ち明ける。

思ったよりも、長く待つ事になっていた。

お茶を何度か飲み干してしまった頃、アインスさんが待合室へ顔を見せた。


「やあ、随分と待たせてしまって、すまない。色々と業務が立て込んでいてね…君の件もあるが、最近魔物の活動が活発化しているのもあって、報告書が山のように積まれているんだ…さて、着いてきてくれるかい?」

「はい!」

(やけにデカい返事だ…)


言われるがままに待合室を出て、アインスさんの後ろを歩く。

お互いの近況を話しながら歩いている時、とても嬉しそうな顔を見せてくれていたのが、また自分にとっても嬉しかった。


「さあ、もうすぐ着くよ。師団長になった事で、この本部に寝泊まりする部屋が与えられたんだ。まあ、仕事が多いせいでもあるから、良し悪し、と言ったところかな…どうぞ、入ってくれたまえ」

「失礼します…」


やけに緊張しながら、アインスさんの部屋へ入ると、団長の部屋ほど地味でもなく、また派手過ぎず、高級感のある空間が広がっていた。

「すごい部屋だ…1人で住むには大きそうですね」

「ああ、奥にも部屋があるのだが、私には使いきれなくてね。物置になってしまっているよ」

(偉くなると、やっぱこういうのがあるもんなんだな)


部屋を眺めていると、アインスさんはお茶を淹れに、奥へと向かっていった。


(師団長ともあろう者がわざわざ部屋に招くなんて、まるで国賓みたいだな)

「(あんまりにも身の丈に合ってない。そんな事が、最近多すぎやしないか?)」


「カイくん、そこの長椅子に座っていてくれて構わないよ。ゆっくりしていてくれたまえ」

「あ、はい。ありがとうございます」

(優しい奴だなァ、お前には勿体ない)


「(いちいち癪に障るような言い方するなよ。さっきの話で、よほど機嫌を損ねたみたいだな)」

(そんな事はない、断じて。うん)

たとえ誤魔化しても、機嫌を損ねている事だけは明らかだった。


「やあ、待たせたね。待合室のお茶とは違う種類の物だよ。どうにもこれが無いと落ち着かないので、家にあったのを、全て持ってきたんだ」

「…そんな事して大丈夫なんですか?」


「さあね…父上方が怒っていようと、関係ないからいいのさ。元々、レインフォードの事業における茶葉の仕入れは私が管理していたのだから、私がその茶葉をどうしようと問題ないはずさ」

「それ、職権濫用なんじゃ…」


「はは、言えている。しかし、仕入れについてのあれこれは、書き置きで残しておいた。今は困っていないだろうね。文句の手紙は、ひとつも来ていないから」

「それならいいんでしょうけど…じゃあ、頂きます」


「私のこだわりが詰まった配合だ。でも、率直な意見を言ってくれて構わないよ」

一口含むと、香草のような味と香りの中から、果実感のある甘みと香りが弾けるような、体験した事の無い味わいが広がった。


そして、これはとても…

「美味しい…こんなお茶は初めて飲みました」


「ああ、良かった。飲んだ事が無いのも仕方ないだろうね。それは、貴族家に納めるための品なのだから」

「そんな物を、俺が飲んでいいんですか!?」


「君だからいいのさ。今この場では、君は客人ではあるが、私は君を家族のように思っている。本当さ」


そうして屈託のない微笑みを向けられると、俺はこの人に大切にされていると、改めて実感させられる。

(随分とお前にだけは優しいヤツだ。呆れるぐらいに)


やたらと不機嫌だ。こいつはこっちの心を見ているので、会話をしようとしなくても、会話が成り立ってしまうのが非常に面倒だ。


「ところで、カイくん?」

「なんですか?」


「ウルティモア卿はやけに静かだが、寝ているのかい?」

「ああ、コイツなら、さっき待合室で話してたら機嫌悪くなったみたいで…」


《余計な事は言わんでいい》


「おっと、念話には余り慣れていないのでね…やる時は、カイくんの方からも言ってもらいたい」

「すみません、気まぐれなヤツなので…なんだ、さっきまでずーっと拗ねてたじゃないか。どうしたんだよ?」


《アインスとやらが、随分俺と話したそうにしてるもんだから出てきたのさ》

「素直じゃないやつだな。2人だけで喋ってるのが嫌だったんじゃないのか?」


《余計な事は言わんでいいと言ったはずだぞ》


「2人は仲がいいようだね。お互いに信頼しているようだ」

《信頼なんて出来るもんかよ…こんなへっぽこには…》


「俺しか使い手が居ないんじゃ無かったのか?」

《性格の問題だ。なんなら、アインスに変わってやってもいいんだぞ?》


「なっ、お前…」

《なんだよ。自分の力で強くなりたいなら、俺は要らないだろうが》


「フフッ、私の為と言いながら、私はそっちのけですね。ウルティモア卿?」

《ぐぬ…》


「まあ、ここで喧嘩してもアインスさんに失礼だよな…すみません。コイツがこんなんで」

「いいのさ。君が生き生きとしているのを見ると、私はとても嬉しいものだ」


《まあ、なんだ、アインスに免じて引いてやるよ》


と、喧嘩は終息し、俺とアインスさんはお茶を啜る。


「ところで、アインスさんの話したい事ってなんですか?」

「ああ、その事なんだが…君に頼みたい事があるのだが、とりあえず話を聞いてもらえるかい?」


「はい。俺に出来る事ならなんでもします」

《コイツになら何頼んだっていいぜ。青銅級だしな》


「ウルティモア卿にも関わる話ですので、貴方にも聞いて頂きたい」

《ム、そうか。分かった》


「では、話をさせて頂こう」



私は今、率直に言うと、聖騎士団長の座を目指している。

その為には大きな功績が欠かせない。現団長、ガリア殿ならば、他国の謀略による魔物の襲撃を、ほぼ単騎で食い止めた上、その後の和平協定において、相手を押さえ付けること無く、円満な関係を築いた事が挙げられている。


功績を第一とするこの国の聖騎士団において、師団長である事は既に大きな要素ではある。

しかし、団長がいつか引退なさる時、私がその座を次ぐに相応しい功績が欲しい。


詰まるところ、ライティエール卿の魔剣を手にし、魔族との戦いに参加したいのだ。

私は、ガリア殿のように民を守り、悪しきを挫き、人を正しく導く人間になりたい。



「その為に、2人の協力を仰ぎたい。頼めるだろうか?」


「俺は構いませんけど…ゼルシオ、お前は?」

《別にいいぜ。それに、寝坊してやがるラクリオサを、シバいてやらんといかんしな…》


「2人の協力が確保出来て、とても安心したよ。私は、師団の一部を率いて、国防作戦の一貫としてライティエール卿の探索を行いたい。それにあたってなのだが…」


少し間を置いて、アインスさんはこう告げた。


「カイくん、我々にも体裁という物がある。君には、早急に銅級冒険者へと昇級してもらいたいのだ」

「2階級も、ですか…」


「ああ。苦しいだろうが、頑張ってもらいたい」

《俺が居りゃあ楽勝よ。なァ?》


「うーん…そうだな…」


いくら急ぎとはいえ、ゼルシオの力を一方的に借りるのだけは嫌だ。しかし、それならば…


「よし、ゼルシオ。頼まれてくれ」

《なんだよ?》


「俺に、魔法を教えてくれるか?」


我ながら、これは名案だと思った。

アインスのキャラ付けが難しいのなんの。

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