夢と希望を追いかけて
のんびり書いている話です。どうぞ見て行ってください。出来たら最後まで読んでくれると嬉しいです。
エリストル共和国─境壁内部
高くそびえる外壁の中に大小様々な建物が並び、中央地域には国会と聖騎士団本部が背を向けあって建っている。
そこからしばらく離れた所にある賑やかな繁華街で、一人の少年が肩を落として歩いていた。
髪は黒く、目は深い青。平凡な身長、体格。しかし顔は、そこそこ整っている。
冒険者証を首に下げていて、等級は下から二番目の「青銅」で、端的に言えば─「弱い」。
昇級対象の「鉄」等級の依頼に失敗した帰り道なのだ。
それも、1度や2度では済まない数の失敗を重ねている。
これ以上失敗が続けば、冒険者資格の剥奪も免れられない。そんな状況に、彼は焦っていた。
彼、「カイ=ステイルス」はエリストル共和国の片隅にある、小さな農村の出身であった。代々村長を務める家系の長男として生まれたが、彼は家系の農業や村長の任を継ぐのを断固拒否し、それは弟に押し付けて冒険者になるため街に繰り出したのだ。
しかしまるで腕は上がらず、いつまで経っても昇級出来ないでいるので、自分の不甲斐なさ、家族への申し訳なさなどが、彼の背中には重くのしかかっていた。
「はぁ…また失敗しちまったよ…」
1人で歩きながら、ため息混じりに弱音を吐く。やっぱり何度やっても、一人で成功させられる気がしない。こんなことなら、編隊申請を出しておくべきだった。いっその事、今から出すべきだろうか?
いや、それは俺の誇りと拘りが許さない…なんて、言ってる場合ではないのかもしれない。
強くなって国で最強の冒険者になる。そう夢を見て頑張ってみたものの、俺には無理なのかもしれない。何せ未だに「鉄」にも届いていない。
単独で「鉄」級にもになれないようなら、最強を名乗ろうとしたって小っ恥ずかしいだけだろう。そういう考えが、誰かと隊を組むのを躊躇わせていた。
これで失敗報告をするのは何度目だろうか…受付にも顔を覚えられて、冷たい目つきで見られ始めているのがまた心に来る。
気がつけば、もう冒険者組合の施設の目の前にいた。正面の扉がやけに重たい。使い込まれたその扉は、大きな音を立てて開いて行く。そして振り返る冒険者達…嘲笑うような顔つきで俺を見る。
そして「鉄」級の冒険者証を提げた男が罵声を浴びせかけてきた。周りも次々に便乗する。
もう、慣れたものだった。2度目の失敗から言われ始めていることだから、今更悔しがることなんてない。
端的に報告を済ませ、俺は組合を後にした。
組合長は優しい人だ。まだ、俺の冒険者資格の剥奪はしないと言っているらしい。直接会うことはないが、その優しさが身に染みる。それは心に痛みをもたらすが、暖かくもあった。
「鉄」級昇格用の依頼は、小型の飛竜種を討伐するものだ。複数人でも一人でも、1人1体分の個体数を討伐する必要がある。
飛竜種は賢い。剣士の個人戦闘ではまず討伐できないとされ、俺自身もその壁に突き当たっていた。
近接戦闘を試みれば空を飛び、遠距離戦闘を試みれば接近し低空飛行で攻撃してくる。それゆえに、隊を組んで討伐するのが前提のようなものなのだ。
しかし、俺のような雑魚と隊を組んでくれるような冒険者はいない。悪い意味でその名が組合に知れ渡っている今、新人にさえ避けられているのだから。
これからどうするか、悩んでいた。
故郷へ帰ることは出来ないし、これ以上冒険者を続けることも出来ない。
そんな所へ、全階級参加可能な依頼がギルドに飛び込んだ。
古代遺跡の発掘作業、全階級参加可、報酬は出土品から出来高払いとのことだった。
もちろん俺はこれに参加することにした。藁にもすがる思いで、何かを期待するように。
当日、多くの冒険者が集まっていた。
聞いたところによると、「金」階級の冒険者もいるらしい。遺物には、それほどの価値があるのだということを知った。
複数の捜索隊が結成され、俺は1人溢れる形で単独作業に当たることになった。まあ当然なのだが。
周りが隅々まで捜索している中、俺はひたすらに奥を目指した。誰も止める者がいないので、ただ一人突き進んでいく感覚には、震えるような興奮があった。
しかし、意外に浅かった。すぐに突き当たってしまったのだ。やはり元は迷宮なのか、まっすぐ来ただけではそう簡単に財宝は見つからないということなのだろう。
そして捜索終了の報せが入ってきた。何も見つけられないまま終わって、呆然と最奥で立ち尽くしていた。
案内板が設置され、日が落ちる前に帰れと念を押されたが、俺はその日を浅い迷宮の中で過ごした。
悲しいことだが、希望も夢ない。そう思って、眠りについた。
1話というには微妙な気がするものの、解説回ということでお許しください。




