童貞が大賢者に至るには理由がある
10年が経った頃、老人に訓練は終わりだと告げられ、旅に出ることになった。
そしてある街のギルドで自分が異質な存在であることを知る。
マシスの適性は全ての魔法において平均だったが、訓練によって圧倒的な力へと昇華された。その力は当然なのだが、最も異質なのは全ての魔法が使えるということだ。
それからマシスは、使う魔法をいくつかに制限することで全ての魔法が使えることを隠しながら様々な依頼をこなしていった。
掃除や荷物運びから強力な魔物の討伐など、ランクに関係なくこなす。それは身につけた力を少しでも役立てようと思ってのことであり、アニシアのように人に優しくできる人でありたいと思ったからだった。
とても充実した日々を送っていたある日、街に強力な魔物の大群が攻めてきているという情報が入ってきた。どうやっても勝つことのできない状況に街の人々は早急に避難を始め、日に日に人がいなくなった。だが、老人や身体的障害がある者、経済的にこの街以外では生活ができないなどの事情がある人々は街に残っていた。
その人々の中にはマシスが世話になったり世話したり、助けてもらったり助けたりとするうちに仲良くなった関係の深い人々がいた。
だから、戦うことにした。
マシスが第一に考えることは生きること。それがアニシアとの約束だから。次に強くなること。そうなれば大切なものを守れるから。次に力を隠すこと。異質な力は不安と恐怖を与えるから。
だから、大切なものを守るために強くなった力を隠さず、全力で使うことにした。恐れられたら、次の街に行けばいいと割り切って。
結果、街は救われ、マシスの力のことは世界に拡散していった。
そして、『救いの夢』という組織から常にその身を狙われることになる。
さらにその組織から逃がすために山奥へ捨てられたこと、その直後に両親は組織の襲撃によって殺されていたことを知った。
30歳になる頃、組織に追われては戦い、身を隠す生活に疲れた。
そんな生活から逃れるためになんとか追跡されないように田舎の村で暮らし、恋人ができた。ようやく幸せを掴みかかったその時、村は組織により襲撃され、マシスが壊滅させるも恋人は殺されていた。
己の弱さを再び思い知ったマシスは一人、世界を旅する。
極力誰とも関わらず、強くなって組織を世界から消滅させるための孤独な旅をした。
40歳になる頃、通りすがりに村や街を救い、いくつもの組織の拠点を破壊したマシスは『破壊の救世主』という少し痛い二つ名で呼ばれるようになっていた。
だが、その二つ名の裏に守れなかった人々がいることを知っているマシスはさらなる強さを求めた。
50歳になる頃、ようやく組織の本拠地を掴み、旅する内に知り合った強者を集って消滅させるために動きだした。王国の裏で蠢いていた組織を表に影響が出ないように壊滅していった。
60歳になる頃、組織が多くの子どもを犠牲にすることで全ての魔法適性を持った子どもを作ることに成功した。それによって悪魔の封印が解かれ、組織を消滅することはできたが大量の悪魔が世界に溢れた。
それから毎日のように悪魔と戦う旅が始まった。
70歳になる頃、世界を旅して悪魔を消滅していた時、悪魔が王国の人々を生贄に魔王を復活させようとしていることを知り、それを阻止する戦いが始まった。
80歳になる頃、魔王の復活をなんとか阻止することに成功し、悪魔を封印した。『大賢者』と呼ばれるようになったマシスは隠居生活をしようと思った。しかしずっと旅をしていたため家も何もなかった。そこで王国から名誉貴族の地位を貰い、マシス=オディニス=グランチャードとなった。
そして89歳。もうすぐ90歳になる頃、平和な光景を目に焼き付けて穏やかに永い眠りにつき、俺が転生した。
来週は更新できるかわかりません。