童貞は転生しても童貞
ふと、目覚めると視界が霞むが、見たことのない豪華な部屋だとわかった。
高そうな絵画が壁に掛けられ、金や銀色、見たことのない宝石の装飾品が棚に飾られている。
これは裕福な貴族の家の子どもに転生したパターンか?子どもの頃からとんでもない才能発揮しちゃって、モテちゃうパターンか?ふっ王道だな。だが、それでいい!それがいい!!
それにしてもあれだ。なんでだろう、節々が痛い。関節痛ってやつか?子どもの頃ってこんなことあるっけ?
いや、そうか。きっと一度死んでしまった身体に俺の魂が入ったから、一時的に身体が硬直してしまってたことが原因だろう。
……子どもにしては身体が大きい気がする。これは子どもじゃない?ということは青年とか?
あの神が俺が死んだ年齢に合わせて18歳の身体に転生させてくれたんだろう。18ならいろんなこともできるし。意外と優しいところがあるな、見直したぞ。
節々の痛みを感じながら、自身の姿を確認しようとベッドから立ち上がり、大きな姿見の前に歩いていく。
そしてそこには、それはそれは凛々しくも渋い爺さんが映っていた。
「な、な……なんじゃこりゃあぁぁ!!!??」
そこで俺は気づいた。姿見に映る爺さんが俺だと。
どうやら転生したのは貴族も貴族、富と名声を手にした大貴族だった。しかも世界最強の大賢者!
何の苦労も知らず、人生勝ち組でスタート。最高っ!!
最高のはずだった……。
だが実際は──
89歳で童貞…。ムスコに元気なく垂れ下がり、ピクリとも反応しないただの排泄器官となっている。
そして一番の問題が年齢だ。70歳でも長寿といわれるこの世界で89歳とか、いつぽっくりいっても不思議じゃない!
おいおい、これは無理だろ……。
唯一の救いは大貴族で大賢者、渋くてカッコいい外見なこと。
あの神、やってくれたな。これじゃせっかく転生したのに、童貞卒業できないじゃねえか!
いや、待てよ。この爺さんが童貞なんてことはないだろう、外見的に。ということは間接的に俺も童貞を卒業できているのでは……。
──ってそんなわけねえじゃん、肉体的に卒業できてたとしても俺の精神的には卒業できてない!
……何考えているんだろ俺。悲しくなってきた。
しかもだんだんこの爺さんの記憶が混ざってきたからわかったけど、爺さんも童貞だった。仲間だった。
それにしても、この爺さんって凄い人物だったらしい。