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X'mas 〜聖なる夜の奇跡〜  作者: 高山 由宇
★☆★第4夜★☆★   2019年
10/15

はじめてのクリスマス・プレゼント   ~前編~

メリー・クリスマス!!

今年もこの季節がやってきましたね(o^―^o)

ニコラがみなさんのもとにも訪れますように♪♪




挿絵(By みてみん)




 フィンランドのある田舎町。

 一年を通して曇り空の多いこの町に、今日も雪が降る。

 降った雪は地表に積もり、溶けることなくそこに留まり続けている。

 そして、家々の庭先には煌びやかな飾りつけをされたモミの木が出され、扉にはクリスマス・リースが掲げられていた。

 だが、去年までのアダにとって、それはそんなに輝かしい景観ではなかった。

 アダは、街はずれにある崩れかけの小さな家に住む十五歳の少女だ。

 去年まで、アダの目にはこの銀世界が灰色一色に見えていたし、クリスマスに賑わう街の雰囲気もどこか遠くに感じていた。

 しかし、今年は違う。

 一面に広がる雪景色も、クリスマスに賑わう街も、人々も、みなきらきらと輝いて見えていた。


「アダ」


 呼ばれて振り返る。イルマだ。

 彼女とは去年の今頃に出会った。黒色人種のような肌色をした、アダよりもふたつ年上の少女だ。ちなみに、彼女の左腕はからくり仕掛けの義手である。

 去年、同じく孤児であったイルマをアダは家へと引き入れた。そして、それ以降、二人は一緒に暮らしているのだった。


「私はそろそろ出かけるぜ」

「こんな早くに?」

「今日は屋根の修理を頼まれているんだ。できるだけ早くやって欲しいんだとさ」

「屋根の修理って……。こんなに雪が降っているのに。危険よ」

「だから金になるんじゃないか。雪ならいつだって降っているし、降らないことの方が珍しいぜ」

「でも、イルマは無茶しすぎよ。この間だって怪我して帰ってきて……。その時の捻挫も、まだ完治したわけじゃないのでしょう? あんまり危ないことはして欲しくないわ。他の仕事を探しましょうよ」

「他の仕事なんて、そうそう見つかるものじゃないんだ……」

「イルマ……」

「誰もやりたがらない危険な仕事だから、私みたいな奴を使ってもらえているんだよ」


 そう言うと、夜が明けて間もなく、イルマはアダが止めるのも聞かずに家を発ったのだった。


 アダは、イルマから一時間遅れで家を出た。

 イルマのことは気がかりであったが、彼女はこれまでにも散々危うい仕事をこなしてきたし、アダの忠告を聞くはずがないこともわかっていたからだ。


「イルマ……どこで仕事をしているのかしら」


 道端に店を構えてから二時間が経った。いまだに一人の客も訪れない。よくあることなので、それ自体は特に気に留めるようなことでもなかった。ただ、何もすることがないと、余計にイルマのことが気にかかって仕方がない。


「こんな日に屋根の修繕の仕事を受けるだなんて……」


 言い知れぬ不安感に溜め息がもれる。その時だった。


「……イルマ?」


 路地の向こうを駆けて行く黒い人影が目にとまり、アダは立ち上がった。


「イルマ……っ」


 とっさに呼んでみたが、アダの声は届かなかったようだ。人影は、あっという間にずっと先へと走り去ってしまった。

 アダは商売道具を片付ける。そして、それらを手に人影のあとを追っていった。




 人影を探して路地を彷徨っていると、見知った姿を見つけた。イルマだ。イルマが、ある民家の屋根の修繕をしていた。やはり、先程見かけた影は彼女だったらしい。


 アダは、イルマに声をかけようとして口を開きかけたが、やめた。


 ――気を抜いて落下でもしたらたいへんだわ。


 イルマの身を案じてここまで追ってきたアダだったが、彼女の仕事ぶりを見て安堵した。


 ――さすがに身軽ね。


 イルマは、足を怪我していることなど感じさせない、まるで平地に立っているかのような身のこなしだった。

 イルマの無事を確認したアダは、自分の仕事に戻るためその場をあとにしようとした。しかし、ふと、目の端に入り込んだ数人の男たちが気にかかり、足を止める。

 しばらく見ていると、男の一人が、手にした拳大の雪玉を屋根に向かって放り投げたのだ。


「あ……っ」


 思わず声を上げる。屋根の上からも、息を呑む声が伝わってくる。


「イルマ……っ」


 アダは叫んだ。雪玉に足をとられたイルマの体が宙に浮く。男たちの下卑た笑い声が耳に届く。転がり落ちたイルマの体は、ついに屋根から放り出されてしまった。


 ――いやっ、だめ……っ。


 そう思った刹那、アダは右手に力が流れてくるのを感じた。


 ――これは……。


 その瞬間、すべての動きが止まって見えた。ポケットに入れていた右手を取り出すと、そこには金時計が握られている。

 ニコラからもらった、あの金時計だ。


 ――時計が、光っている……。


 それを見たアダは知った。思いがけず、今年も時計の力を解放してしまったのだと。

 ニコラの金時計は、クリスマス・イヴの日に一度だけその力を解放することができる。

 ニコラを信じる心が、一度だけ、どんな願いも聞き届けてくれるのだ。


「願いが……叶ったんだ……」


 アダの願い。それは、きっと、イルマが助かること。その願いが、これから叶うのだろう。


 チチチチチチチチ……。


 時計の針が高速に回り、時を戻していく。

 どんどんどんどん、遡っていく。

 そして、光の扉が、アダの前に現れた。


 ――これを抜けたら、イルマが屋根から落ちる前に戻れるのかしら。


 そう思いながら、アダはその扉に手をかざす。すると、扉は開かれ、アダの体はまばゆいばかりの光に包まれたのだった。


挿絵(By みてみん)

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