はじめてのクリスマス・プレゼント ~前編~
メリー・クリスマス!!
今年もこの季節がやってきましたね(o^―^o)
ニコラがみなさんのもとにも訪れますように♪♪
フィンランドのある田舎町。
一年を通して曇り空の多いこの町に、今日も雪が降る。
降った雪は地表に積もり、溶けることなくそこに留まり続けている。
そして、家々の庭先には煌びやかな飾りつけをされたモミの木が出され、扉にはクリスマス・リースが掲げられていた。
だが、去年までのアダにとって、それはそんなに輝かしい景観ではなかった。
アダは、街はずれにある崩れかけの小さな家に住む十五歳の少女だ。
去年まで、アダの目にはこの銀世界が灰色一色に見えていたし、クリスマスに賑わう街の雰囲気もどこか遠くに感じていた。
しかし、今年は違う。
一面に広がる雪景色も、クリスマスに賑わう街も、人々も、みなきらきらと輝いて見えていた。
「アダ」
呼ばれて振り返る。イルマだ。
彼女とは去年の今頃に出会った。黒色人種のような肌色をした、アダよりもふたつ年上の少女だ。ちなみに、彼女の左腕はからくり仕掛けの義手である。
去年、同じく孤児であったイルマをアダは家へと引き入れた。そして、それ以降、二人は一緒に暮らしているのだった。
「私はそろそろ出かけるぜ」
「こんな早くに?」
「今日は屋根の修理を頼まれているんだ。できるだけ早くやって欲しいんだとさ」
「屋根の修理って……。こんなに雪が降っているのに。危険よ」
「だから金になるんじゃないか。雪ならいつだって降っているし、降らないことの方が珍しいぜ」
「でも、イルマは無茶しすぎよ。この間だって怪我して帰ってきて……。その時の捻挫も、まだ完治したわけじゃないのでしょう? あんまり危ないことはして欲しくないわ。他の仕事を探しましょうよ」
「他の仕事なんて、そうそう見つかるものじゃないんだ……」
「イルマ……」
「誰もやりたがらない危険な仕事だから、私みたいな奴を使ってもらえているんだよ」
そう言うと、夜が明けて間もなく、イルマはアダが止めるのも聞かずに家を発ったのだった。
アダは、イルマから一時間遅れで家を出た。
イルマのことは気がかりであったが、彼女はこれまでにも散々危うい仕事をこなしてきたし、アダの忠告を聞くはずがないこともわかっていたからだ。
「イルマ……どこで仕事をしているのかしら」
道端に店を構えてから二時間が経った。いまだに一人の客も訪れない。よくあることなので、それ自体は特に気に留めるようなことでもなかった。ただ、何もすることがないと、余計にイルマのことが気にかかって仕方がない。
「こんな日に屋根の修繕の仕事を受けるだなんて……」
言い知れぬ不安感に溜め息がもれる。その時だった。
「……イルマ?」
路地の向こうを駆けて行く黒い人影が目にとまり、アダは立ち上がった。
「イルマ……っ」
とっさに呼んでみたが、アダの声は届かなかったようだ。人影は、あっという間にずっと先へと走り去ってしまった。
アダは商売道具を片付ける。そして、それらを手に人影のあとを追っていった。
人影を探して路地を彷徨っていると、見知った姿を見つけた。イルマだ。イルマが、ある民家の屋根の修繕をしていた。やはり、先程見かけた影は彼女だったらしい。
アダは、イルマに声をかけようとして口を開きかけたが、やめた。
――気を抜いて落下でもしたらたいへんだわ。
イルマの身を案じてここまで追ってきたアダだったが、彼女の仕事ぶりを見て安堵した。
――さすがに身軽ね。
イルマは、足を怪我していることなど感じさせない、まるで平地に立っているかのような身のこなしだった。
イルマの無事を確認したアダは、自分の仕事に戻るためその場をあとにしようとした。しかし、ふと、目の端に入り込んだ数人の男たちが気にかかり、足を止める。
しばらく見ていると、男の一人が、手にした拳大の雪玉を屋根に向かって放り投げたのだ。
「あ……っ」
思わず声を上げる。屋根の上からも、息を呑む声が伝わってくる。
「イルマ……っ」
アダは叫んだ。雪玉に足をとられたイルマの体が宙に浮く。男たちの下卑た笑い声が耳に届く。転がり落ちたイルマの体は、ついに屋根から放り出されてしまった。
――いやっ、だめ……っ。
そう思った刹那、アダは右手に力が流れてくるのを感じた。
――これは……。
その瞬間、すべての動きが止まって見えた。ポケットに入れていた右手を取り出すと、そこには金時計が握られている。
ニコラからもらった、あの金時計だ。
――時計が、光っている……。
それを見たアダは知った。思いがけず、今年も時計の力を解放してしまったのだと。
ニコラの金時計は、クリスマス・イヴの日に一度だけその力を解放することができる。
ニコラを信じる心が、一度だけ、どんな願いも聞き届けてくれるのだ。
「願いが……叶ったんだ……」
アダの願い。それは、きっと、イルマが助かること。その願いが、これから叶うのだろう。
チチチチチチチチ……。
時計の針が高速に回り、時を戻していく。
どんどんどんどん、遡っていく。
そして、光の扉が、アダの前に現れた。
――これを抜けたら、イルマが屋根から落ちる前に戻れるのかしら。
そう思いながら、アダはその扉に手をかざす。すると、扉は開かれ、アダの体はまばゆいばかりの光に包まれたのだった。




