夢見る俺、現実を知る・・・
異世界での激動の一日が終わり、質素だがそこそこのベッドの上で拓真は目覚めた
「ぬーんむ・・・朝、か・・・」
軽く伸びをし首をこきこきと鳴らすと、部屋の中を見渡す
「何もないな・・・あたりまえか」
昨夜の集落会議によってこの地への逗留と、開拓班への参加は認められた。その見返りとして集落の護衛と生活出来る環境を求めたのだが、何分遅い時間だった為昨夜は集落にある長老の屋敷のゲストルームで就寝したのであった
「何時頃かな・・・時間の感覚が分からない」
さすがに何時までも寝てるわけにもいかないと思いつつ、ベッドから起きて日差しの漏れる窓を開けた
窓の外から見える風景は田園風景とも言えるのどかなものだった。日差しの高さからまだ昼前だな、と思った拓真は窓の外の下に目をやる。2階部屋だったので階下の様子がよく見える。気が付かなかったが、表に止めっぱなしだったスモルガーに小さな子供達が群がって騒いでるのが見えた
「ま、珍しいわな」
ふっと、笑うと簡単な身支度をして、部屋を出て階下へ向かおうとする。扉のドアに手をかけた時、ふと壁にかけてある鏡に気が付いた
「鏡、か・・・文明レベルが良くわからないな。こんなものがあったり昨日入った懲罰部屋は木の格子だったり・・・異世界ってことでいいのかね」
鏡の中に映る自分の顔を見つめながらそうつぶやくと、この鏡に映っている男の顔は果たして本当に自分の顔だったのか?という疑問が湧いてきた
「若返りと整形が出来なかったってことは、これが俺の元の顔でいいんだよな?」
うっすら伸びていた顎鬚に手をやり、撫でる。自分の感覚では不細工でもなければ俗にいうイケメンでもないこの顔。30代くらいと判断したが、果たしてあっているのかどうか
「まぁ、いっか・・・今んとこあまり意味は無い」
深く考えてもモヤのかかった記憶では分かるはずもない、と判断した拓真はすっぱり諦めて扉を開けた
「よく眠れたかな、タクマ」
階下に降りて広間らしき場所に顔を出すと、すでに起きてテーブルの前に座っていた長老のコウズに声をかけられた
「はぁ、まぁ。おかげさんで」
軽く会釈をする拓真。すると奥の部屋からケリスが現れた
「紹介しておこう。知っているとは思うがケリスじゃ。身寄りがなく、わしの家で住込みで色々と作業をしてもらっておる」
「改めまして、ケリスといいます。タクマさん」
いかにも家事手伝いといった風体のケリスは、そういって丁寧にお辞儀をした
「こちらも、改めて。拓真です。昨日は色々と、お世話になりました」
いくらか気取った感じでこちらも自己紹介を返す
「さてタクマよ。朝食は終わってしまったが、何か食べるかね?簡単なものしかないが」
「あぁ、お構いなく。腹に入れば何でもいけますんで」
長老のねぎらいに、慌てて返事を返す拓真。気取り屋を装ってはいるが、根はお人よしなのがバレバレだ
「ほっほっほ・・ケリス、タクマに食事を用意して差し上げなさい」
コウズはそんな拓真の反応に笑いながら傍らのケリスに声をかける
はい、承知いたしました、と広間の奥に消えていったケリスを見送ると向き直ったコウズは拓真をみやり
「アレはここで仕事をしてもらう傍ら、昨日の様に懲罰部屋の監視等もさせておる。この集落で生活する上では特別扱いは出来んのじゃ」
何がしかの念押しの様な言い方をする
「は、はぁ・・・特別扱い、ですか」
何か気圧された感じがして曖昧な返事をする拓真に、更にコウズは続ける
「そんな訳でじゃ。昨夜の話の続きじゃが、この集落で生活してもらうからにはお主にも、特別扱いはせん、ということじゃ」
あぁ、俺に言い聞かせようとしてたのか、と拓真は納得し
「えぇ、そりゃぁ、まぁ・・そのようにしてもらって問題ないです」
と頷きながら答えた
「ふむ。分かってくれればよろしい」
確実にクギを刺した、と納得したコウズは目をつむり、椅子の背もたれに体を預けた
ケリスの用意してくれた簡単な食事をとった拓真は、コウズの屋敷からスモルガーの停車してある表通りに姿を現した。スモルガーに群がっていた子供達は、一斉にどこかへ散っていく
「珍しいものなので。許してくださいね?」
外まで見送りに来てくれたケリスが拓真にそう話し掛けてくる
「あぁ、気にしてないですよ。いくら触られたからって、キズなんかつきませんしね」
自分にも珍しい車やバイクがあると、側に行って見たり触ったりした記憶がある拓真は理解を示す。おもむろにスモルガーのシートに跨ると、ケリスが手に持っていたヘルメットを拓真に手渡す
「開拓班の作業している場所は、さっきの説明で分かった。現地にはカイム、だっけか。彼が指揮してる集団がいるんだっけな」
「そうです、作業指示は現地で彼から受けてくだされば」
「了解。ケリスさんは、開拓班にいったりはしないです?」
「いえ私は、今日はそちらには行きません。こちらで作業がありますので」
「そうですか・・・」
あわよくば、ケリスを誘ってタンデムシートに座らせようと考えていた拓真だったがアテが外れて少々がっかりした。無論、それを表には出さなかったのだが
すると
「よーーし!そんじゃあーしゅっぱーーつ!」
ぼすん、と背後からシートに飛び乗る音が聞こえると共に、紅いショートヘアのキラッセが座り込んでいた
「あ、お前、勝手に」
「いいっていいって、俺も今日から開拓班だからー!一緒にいこうぜーー?」
背後で拓真の背中にしがみつくキラッセに困惑していると
「タクマさん、キラッセをお願いしますね」
とくすくす笑うケリスが後押しをする。ケリスの手前、乱暴にキラッセを扱う訳にもいかず、しょうがないといった感じで諦めると、背後にあるカバーをぽこん、と開ける
「ほら、これ被ってろ」
スペアのメットを中から取り出し、キラッセに被らせる
「わ。これ、案外と軽いんだな」
そんなことを言いながら初めて被るであろうヘルメットに目を輝かせる
「それじゃぁ、行ってきます」
言いながら自分もヘルメットを被ると、エンジンをスタートさせる
「はい、行ってらっしゃい」
にこにこと微笑むケリスを見つつ、なんか新婚家庭の出勤風景みたいだなぁ、と思っていると
「早くいこうぜーー!」
と背後からエンジン音にも負けない声で、キラッセが雰囲気をぶち壊してくる
折角の淡い気分を台無しにされた拓真は、つかまってろよ、と声をかけわざとウィリーをして前輪を上げるとバイクを走らせた
突然暴れだしたバイクの躍動に驚いたキラッセは、よほど怖かったのかおもいきり背中にしがみついてきた
と
・・・おや、背中に何か弾力のある、ゴムまりが二個、あたってますよ・・・
「おい!」
「えー、なにーー?」
「お前、もしかして!」
「もしかしてー?」
「おんなかぁーーーー!」
「そうだよーーーーーーー!」
そうなのか。キラッセは少年ではなく、少女だったようである
はい、テンプレー