最悪の展開を免れた俺、拠点を得る・・・
「くっそー、また間違ったか俺!?どこで?何を?」
拓真は再び投獄された懲罰部屋の壁にもたれかかりながら、小声で悪態をついた
変形バイクロボ、スモルガーをあやつり、その性能で魔族軍を蹴散らし撤退させたまでは良かったが、その異能たる戦いぶりは現地住人から異端者としてみられ、逆に警戒心を抱かせてしまったのである
それで扱いは丁寧ではあったが、再びの懲罰部屋行となったのである
日が傾いて夕闇が迫ったころ、格子の外が数人の足音で騒がしくなる
「む・・・ようやく俺への対処策が決まったか」
流れからして今迄住人達で話し合いが行われていたのだろうと考えていた拓真は、展開通りだなと思っていた
まずい流れになったら逃げようか?スモルガーは外に出したままだし、ヘルメットはまぁ無くても困らないけど・・・また最初からどこかの集落にいくとこから始めるのか?めんどくさいなぁとか考えながら足音の方に顔を向けた
「・・・タクマとかいったな・・・出てくれ、長老から話がある」
何度か見た事のある顔の男が、そう言いながら格子の入り口に手をかける
「・・・む・・・きついな、これ・・・開かないぞ?」
格子の扉を開けようとして引っ張ったが、歪んでるせいで開きにくくなった扉を掴んで男が呟く
あー・・・そのネタ、まだ引っ張りますか・・・
「ちょ、ちょぉぉーっと、離れてくれないか」
そう言って男に扉から離れてもらうように言うと、男も何をするか察したようで格子から体を遠ざける
ばっかん
またもや間抜けな音をだして蹴りで開けた扉から、拓真は体を出す
「そんじゃよろしくよ、ほい」
そういって両手を前に出して、縛ってくれとジェスチャーで示すが男は首を振って答える
「いや、いいんだ、そのままついてきてくれ」
「およ?もうそういうのは、いいのか」
おどけていう拓真に対し、男はふぅと息を吐き軽く笑う
「あぁ。色々すまなかったな。俺はカイムというんだ」
「そうか」
特に感慨もなくそう答えると
「手荒な真似や不敬な態度を取ってしまったことを、詫びる。集落を救ってくれて感謝する」
そういって身体を90度位に折り曲げて感謝の礼をするカイム
「おいおい、いいっていいって。そんなことはよ~」
いきなり礼を言われたことで、反射的に照れる拓真にカイムは身体を起こして向き合った
「いや、それでも礼だけは言わせてくれ」
「だから、いいって、ホント、照れるから~」
気のないふりを装っていても、他人から感謝されたりすると妙に照れ臭く、これで色々考えてた最悪の展開は無くなっちゃったなぁ~と拓真は考えていた
「カイム、そろそろ行こう。長老が待っている」
カイムと一緒に来ていた何人かの男の一人から、そう声がかかると
「うむ、行こうかタクマ」
とカイムが促してくる
「おうよ、んじゃ~いきますかぁ~」
感謝の礼をされたことで、急に上機嫌になった拓真は足取りも軽く、先導するカイムの後に付いていくのだった
「タクマじゃったか、まずは名乗ろう。この集落の長を務める長老のコウズと言う。度々の無礼、すまなんだ。魔族を追い返し集落を救ってくれた事、改めて礼を言わせてもらうぞ」
束縛なく長老の部屋に通された拓真は、白髪ひげの長老の名乗りを受けるとともに感謝の礼も受け取った
「お、おう。いいってことよ、気にしなさんな」
照れも抜けず、思いがけなく丁寧な対応になってきた住人達に気をよくしたのか、横柄な態度で接してしまう
「・・・それで改めて聞くが、お主は一体何者じゃ?何処から来たのじゃ?答えてはくれまいか」
簡素ではあるが椅子をすすめられ、それに腰を掛けると同時に長老のコウズから質問が飛ぶ
「それに関しては前も話した通り。ただの放浪者だ。どこから来たのかは覚えていない」
「・・・そうか・・・」
やれやれといった感じで椅子に背を預けて目を閉じる長老のコウズ
「ところで相談なんだが」
「なんじゃ?」
それを見越したかのように身を乗り出して話をする拓真
「さっきも言ったが俺は放浪者だ。記憶もない。だがこのままじゃイカンと思っている」
「ふむ」
「そこでだ、俺をここの集落に住まわせてもらえないか?」
「・・・用心棒として、か?」
「それも要請を受ければ問題ないが、俺がやりたいのはこの集落の”開拓班”ってやつだ」
そこまで会話を進めて、ドヤ顔でニヤリと笑う拓真
「それはまた・・・なんでじゃ?」
「最終目標は魔族軍の魔王を倒す、なんだが」
そこまで話すと部屋にいた人員が一斉に騒めきだす
「魔王・・・!」
「魔族軍の魔王って・・・!」
「倒す?一人でか?」
「いや、あの赤いゴーレムなら出来るかもしれんが・・・!」
「まぁ話は最後まで聞いてくれ。魔王を倒すには、俺はまだ力不足だ」
騒めきの頃合いを見計らって拓真が再び話しをつなげる
「それと開拓班になんのつながりが?力仕事で体を鍛えるのか?」
「そう言う訳じゃないんだが・・・まぁそれはこちらの都合というか考えがあってだな」
カルマ値を貯める為に善行を行いたい、という真の目的は曖昧にし拓真は話を進める
「用心棒つっても、いつ来るか分からない魔族軍をぼけーっと待ってる間に、出来ることがあればやっておきたい、ってとこかな?」
そこまで一息に話すと、後は返事待ちだと言わんばかりに椅子の背もたれに体を預けた
再び騒めく室内。拓真の脳内ではすでに今後の計画が着々と整いつつあったがあくまで想像だ
「わかった。お主のゴーレムにはこの集落を守って貰いたい。魔族軍が攻めて来ぬ間は、開拓班で活動してもらうのも認めよう」
そう長老が結論付けると、騒めきがまた大きくなる
ようしこれで活動拠点が確保出来たぜ、と心の中でニヤリと笑った拓真は態度を崩さずに立ち上がり
「感謝する。細かい取り決めは、そっちで決めてくれ。任せる」
そう言い放ち周りを見渡すと、急に卑屈になった感じで話しかける
「今夜は懲罰部屋じゃない、ちゃんとした部屋で寝かせてもらえるんかね?」
そのあまりのギャップに周囲は静まり返るのであった
拓真の勘違いに関する話は次回にでも