魔界決戦編 第十三試合 解放された最後の力
目標であった転移魔方陣の封印に成功した拓真達
これで全ては解決するのか・・・
その場にいた全員が巨大な魔方陣が消え去った空間を見つめていた
しんと静まり返った室内に後から追いかけてきた
魔族軍の兵達も押しかけて来たが
何も無くなった空間を見るなり動きを止めた
「・・・殺せ」
羽交い絞めにしていた魔王ベルリムがぼそりと呟く
ぎょっとして思わず拓真はその手を放してしまう
すとんと力なくそのまま座り込む魔王
「最早これまで・・・私にはもう何も出来ない・・・する事も無い」
ぽつぽつと言葉を話す魔王
「いいや、お前さんにはまだやってもらわなきゃならない事がある」
拓真はうなだれる魔王にそう言葉をかけると
妖刀ムラマサを腹部で掴んだままの獣人ホークアイに近づく
「ホークアイ・・・」
その顔を覗き込むと微かに反応がある
「か・・・か・・・」
拓真の存在を感じたのか
にやりと笑うとそのまま動かなくなった
「無茶しやがって・・・」
周りを見渡すと騎士団団長サリオは膝をつき首筋を押さえている
傷が痛むのだろうか
その横で炎の3騎士のミースが支えている
魔方陣の封印魔法を発動した魔導士ズンダは
体力の消耗が激しかったのかぶっ倒れている
それを馴染みの深かった炎の3騎士のソーネが介抱していた
皆が入って来た出入り口には炎の3騎士のセイムが睨みを利かせていた
その視線の先には呆然と立ち尽くす魔族軍の兵達が居並ぶ
「終わった、か・・・」
拓真の口からそのセリフがこぼれる
拓真達は戦闘の終わったランチ前に集合していた
ランチの中には既に動かぬ屍と化した
元四天王ユウゼス
獣人ホークアイ
二人の仲間が安置されている
先刻まで激しい戦闘があったとは思えない程
辺りの喧騒は無い
だが、遠巻きに魔族軍の兵達が此方の様子を伺っている
それもその筈
ランチ前に集合した拓真達の中心には
捕縛された魔王ベルリムがいるからだ
力なく後ろ手に拘束されたままの姿
用意した全ての罠を突破され、頼みの魔方陣も封印された今
魔王ベルリムこと元勇者であったカナコの
行動原理が全て失われたと言う事なのか
動く素振りの無い魔王に注がれる視線
「・・・どうするのだ?」
皆が思っている事をサリオが口にする
「ん・・・」
拓真はその言葉を受けて魔王から目を離し
その場にいる全員を見渡す
ユウゼスの娘である獣人ティピレッグは
魔王から憎しみのこもった目を離そうとはしない
夫である獣人アイゼンレッグもそんな娘を複雑な思いで見つめている
炎の3騎士はサリオの言葉の答えが知りたいのか
3人全員が拓真を見つめる
魔導士ズンダはおどおどした様子で交互に様子を伺っている
おつきの騎士団員達は奇跡的に欠員が出るわけでもなく
10人全員が健在で、同様に此方を伺うように視線をよこしていた
それらの様子を一巡した後で拓真は口を開く
「封印した魔方陣、転移魔方陣だったか。アレと同じ物はもう二度と出来ないんだよな」
誰に聞く訳でも無く口にする
「・・・そうだ。アレは先代の魔王ベルリムが過去の魔王達の紡いできた計画によって完成させた物。同じ物を作ろうとするならば、向こう何百年かは必要になるだろう」
魔王ベルリムは自身に向けられた質問だと理解して返答した
「そうか、じゃ次の質問だ。あの魔方陣が封印された今、この地下にいる魔族達は地上に出る事は出来ないんだな?」
「そうだ。あの魔方陣が完成するまでは北にある大穴から、何かしらの方法を用いて地上へ出入りしたらしいのだが、相当なリスクを伴ったという。今の現状ではその技術の復活にも時間を要するだろう」
拓真の問いに淡々と答える魔王
「ではこれでほぼ完全に魔族の地上侵攻は無くなったと考えていい訳だな?」
「そうだ。少なくても我々の時代では無理と言う事だ」
「我々の時代では、か・・・」
拓真はその言葉を聞いて腕を組んで目を瞑る
「し、質問がありますぅ!」
突然ズンダが割って入って来た
「し、お師匠様、先代の魔導士ズンダ!彼女を殺めたのは、アナタ、なんです、か?」
それを聞いた拓真は
宰相ペッスムから聞いた話をしてなかったかと思い出す
「違う。あの日の夜、バルコニーで襲撃してきた黒装束の一団がいたのだ。その時に私をかばって致命傷を負ったのだ。その時に胸に突き立てられた武器を抜こうとした所でも見たのか?」
視線を落としたまま淡々と答える魔王
その返事を聞いてズンダはグッと両手を胸に押し当てる
「あー、ズンダ。その襲撃犯な。ペッスムが雇った連中なんだわ」
「・・・えっ?!」
拓真からの思わぬ回答に驚くズンダ
他のメンバーも驚いている
「そういや誰にも言って無かったな?俺はペッスムから直接聞いたんだ」
「ど、どういう・・・」
状況が掴みかねるズンダが口ごもる
「恐らく、私が唱えていた魔族との共存共栄論が気に食わなかったのであろう。私だけを暗殺するつもりが間違ってズンダを殺害してしまった、という所だろう」
「まぁその通りだな。もう死んじまったがペッスムはペッスムなりに人族の将来を見据えていたって訳だ」
話を繋げてくれた魔王に感謝しつつ拓真は補足する
「ッ!そんな・・・!」
ズンダはまだ心の整理がつかない様子だ
真相を聞いたほかのメンバー達も複雑な表情だ
「・・・それでも」
ティピレッグが口を開く
「かあちゃんを斬ったアナタを許せない!」
ティピレッグの放った一言にその場が一瞬で凍り付いた
そうなのだ
過去にどんな経緯があろうと
実際に目の前で殺戮を行ったのは
ここにいる魔王ベルリムことカナコ自身なのだ
涙目で睨みつける娘をアイゼンレッグが抱き寄せる
だがその視線は離れない
「ふ・・・その通りだ。勇者であった頃の私が掲げた共存共栄。それが夢幻だったと悟った時から、私は修羅となったのだ」
魔王ベルリムは淡々とした口調から激しい口調に変じた
「愛するものを失ったのはお前等だけではない。この地下に暮らす魔族達もまた、この地下に追いやられるまでに沢山の愛する者を奪われたのだ」
「だからって・・・」
サリオが口を挟む
「だから!この二つの種族の和解などはあり得ぬ!どちらかが滅ぶか、全てが滅ぶか!そうしなければ、この怨嗟の鎖は、切れぬのだッ!」
かっと、サリオに向けて顔を上げる魔王
その目は血走っている
「む、ぐ・・・」
その迫力にたじろぐサリオ
「・・・私は・・・この手で愛する者の首を刎ねたのだ・・・」
全員がハッとする
「それは、先代の魔王ベルリムの事か」
拓真が尋ねる
「そうだ。私達はお互いが立場を知らずして出会い、そして立場を知ってしまった後も惹かれ合ったのだ」
拓真の問いに魔王ベルリム、いや元勇者カナコはそう語りだす
「最後の戦いの時、彼は私に全てを託し、そして私に討たれた。だが城塞都市に戻った私を待っていたのは怨嗟の鎖がもたらす罠だった」
再び視線を落とすカナコ
「だから私は魔族になることにした。魔族となり魔族軍を率い、全てを無に帰す事にしたのだ」
その話を聞いた皆が押し黙る
「私に賛同したptメンバーは私と一緒に魔界の果実を口にした。二度と帰れぬ片道切符と知りながら・・・」
「獣人ホークアイには声をかけなかったのか?」
拓真は気にしていた事を尋ねる
「あの馬鹿は、あの夜さっさと寝てしまっていたしな。察しのいい他のメンバーが気を利かせただけだ」
苦笑しながらいきさつを話すカナコ
「・・・アイツは、気にしていたんだぜ」
「・・・そうか。悪い事をしたな・・・」
些細な事だがそういう所が仲違いの始まりなんだよな、と拓真は考える
「で、救世主タクマ。これからどうする気だ?」
カナコが拓真に尋ねる
「転移魔方陣が封印された今、地上に出る方法はないぞ?その乗り物は狭すぎて北の穴から移動するにはリスクが伴うのだろう?」
カナコが言うのはもっともで
実は拓真もその事に関しては多少の心配はあった
「まぁ、時間は掛かるが全員地上には戻れるさ」
うそぶく拓真
「私の身柄はどうする。地上に連れて行って公開処刑でもするか?」
「そんなアホなことはしない」
拓真がそう言うとカナコが意外そうに顔を上げる
「お前さんには今一度、魔族の長に立ってもらう」
その場にいる全員がどよめく
「そいでもって、この地下で再度魔族を再興してもらいたい」
「バカな!」
サリオが真っ先に声を荒げる
「そんな事をしたら、何時かまた争いが起きるぞ!」
「そうかもしれん、が」
拓真が肯定しつつ言葉を選ぶ
「それが起きるのは俺達が居なくなってからだな」
あっけらかんと言い放つ拓真に全員が唖然とする
「後の事は後の奴らに任せるさ」
暫くの静寂の後、サリオが苦笑する
「全く、お前って奴は・・・」
「底抜けのお人よしですかね?」
「そういうの、考えなしっていうんだよ?」
「解せませぬ・・・」
「タクマ・・・」
「ぷぅ・・・」
「複雑ですぅ・・・」
ざわざわと皆が口々に文句やら何やらこぼす中
今迄黙っていたキラッセが拓真の腕を引っ張る
「ん、なんだ?」
「さっきからスモルガーの”もにたぁ”が光ってるんだけど」
「なんだって?」
引かれるまま、スモルガー・マークⅡに向かう拓真
すると確かにハンドル中央部分にあるモニターが点滅している
「これは一体・・・」
不思議に思いながらタッチすると懐かしき音声が響く
「オメデトウゴザイマス。サイシュウノルマタッセイシマシタ」
「最終ノルマだって?」
三つのシモベ解放の”カルマ値”が終わった後
ノルマがあること自体知らなかった拓真はオウム返しに聞き返す
「タッセイホウシュウ、マホウスクロールノエイショウイッカイブン」
「一回分?ケッチぃな!」
思わず悪態をついてしまった
だが魔法スクロールの詠唱か、と拓真は考える
モノによっては失われた人や物が返ってくる可能性も・・・
そこまで考えた時、ハタと気が付く
「ズンダ」
「ふぁぃ?」
唐突に呼ばれたズンダは気の抜けた返事をする
「お師匠様、先代ズンダの残した魔法のスクロールあったろ?」
「あ、あぁ、はいはい、大事に持ってますです」
そう言うと懐からスクロールを取り出す
「そのスクロールか。残念ながら私にも使えなかった。どうやら特殊なスクロールらしいな」
カナコがそれを見て言う
「そうなんですぅ。結局、これは誰にも・・・」
ズンダもそのスクロールを手にして肩を落とす
「そのスクロール、使わせてもらっていいかな?」
その言葉に全員が驚いて拓真を見つめた
「まぁなんだ。どうやらラストチャンス、って奴があったらしい」
拓真も若干複雑な表情でニヤリとしてみせた
次回予告!!
最後の報酬として先代ズンダの残した魔法スクロールを使う拓真
その先に見えるのは光か闇か、はたまた・・・
次回、最終回
”俺の、結末”
転生者、救世主拓真の物語、ここに完結!




