魔界決戦編 第三試合 魔王ゆえに
その身に纏うは漆黒のマント、心の中身も同じ色に染め上げて
闘いの舞台に立つ元勇者は何を思うのか
天下無双、その手にかかれば全ての者が平伏する!
魔界の王にして異界の覇者、魔王ベルリム降臨!!
魔王ベルリムことカナコ
「吉崎 加奈子」は時々昔を思い出す
昔といっても、それは初めて自分が
この異世界”フェルメール”に召喚された日だ
真っ白な異空間で、世界管理者機構の”メノン”とかいう人物に
この世界を救って欲しいと懇願されたあの日
まさか自分が冒険譚の主人公になろうとは思いもしなかった
そしてそれからの冒険の日々
勇者として成り上がり、仲間を集め
世の中の混沌を支配する魔王を倒す!
・・・筈だった
どこで歯車が狂ったのか・・・
実際に初めて出会った魔王ベルリムは
自分より少し年下の年齢の、あどけない少年だったのだ
しかも最初は気付かなかった
魔族の王と気付かず、接してしまっていたのだった
年下らしからぬ彼の言動と行動
初めて知るドキドキの時間
後から思い出すとあれが噂に聞く”恋”だったのかと
今でも心が淡い思いで一杯になる
彼の口から発せられる理想の数々
その思いには説得力があった
そしてその理想に燃える彼の瞳は
何にも増して美しかった
あの日、夕日に映えた彼の顔は
一生、忘れないだろう・・・
・・・そう、彼が魔王ベルリムだったと知ってしまった後でも・・・
「リム・・・」
思わず、彼が自分と初めて出会った時に名乗った偽名を口にする
そう今でも”彼”は私の中では”リム”という少年のままなのだ
「魔王様、お時間です」
無粋にもこの一時を邪魔する声がかかる
仕方が無い
今日は四年に一度開催される魔族の祭典
”魔界武道大会”なるものの開催日なのだから
この大会の覇者には特典として
魔王軍の要職への仕官が待っている
しかも目立った活躍をすれば魔王軍への登用も開けるのだ
魔族の掟とも言うべき本能”闘いに勝つ”
その衝動を幾許かでも抑えるべく
こうした大会を開き、ガス抜きをする必要があるのだ
先代の魔王ベルリムがこの魔界を統治する以前は
三つの勢力が覇権を競っていたと言うから
魔族も人族も根本は変わらないのだなと
少々呆れた事もあった
だが今は
上の世界・・・フェルメールとか抜かしている
あの忌まわしい世界を
根本から破壊しつくすという目的がある
その為の戦力増強
その為の武道大会
そういった趣がある
さあ
存分にその力を我に見せよ
そして
破壊の尖兵となれ!
案内人に促されて貴賓席に向かう魔王ベルリム
そう、今は我が魔王なのだから・・・
すでに大会は始まっていて
今は上位4名を決めるトーナメントの真っ最中だった
「さてどんな強者がでてるのかな」
そんな事を側近に聞きながら貴賓席につく
「は、今の所不思議な体術を使う者と剣術を使う者が目立っております」
「ほう、体術と剣術ね」
側近からその様な報告を受け眼下で行われている大会に目を移す
「魔術を駆使する者は目立ってないのか?」
「は!今大会は主に武術系が目立っております」
「ふぅむ」
報告を聞きつつ眼下の試合を眺める
本当は魔術系の配下が欲しい所だったのだが
等と考えを巡らせていると
試合が決着したらしい
これで上位4名が決定したのだ
「どれどれ・・・どんなヤツが残ったのだ?」
眼下に上位4名が整列するようだ
側近の1人が飲み物を勧めてくる
それを受け取りこっそりと成分を鑑定する
・・・どうやら毒物などは仕込まれてない、普通の果実酒のようだ
魔王になってから、というかこの世界に来てからは
常にこうして飲食物等を鑑定する癖がついた
いつ何時、誰に命を狙われているか判らないからだ
「・・・嫌な癖だな・・・」
そう呟き、飲み物を口にする
その間に上位4名が闘技場に現れ魔王への謁見と称して紹介される
ぶっはーーーーーーーっ
盛大に、吹いた
上位4名、その中にどう見ても
転生者である”救世主・拓真”の変装した人物が居たからである
「ど、どうなさいましたか魔王様・・・!」
飲み物を勧めた側近がおろおろしている
恐らく進めた飲み物に不備があったのではと、勘違いしているようだ
違う違う、そうじゃない
懐かしい歌謡曲のフレーズが頭の中でリフレインする中
ここに居並ぶ魔族の側近共を整列させて
どういう事かと問い詰めたかった
見ると、整列している拓真も拓真で若干挙動不審だ
ドリンク・シャワーを目撃した事で、正体がバレたのかと慌てているようだ
違う違う、そうじゃない
再び歌謡曲のフレーズがリフレインする
取って付けた様な包帯で顔と体全体を覆ってはいるが
そんなんバレバレですやん、と関西弁で罵りたかった
どうしてこんな幼稚な変装も見破れないのか?
改めて魔王ベルリムは自分の側近を睨みつける
飲み物を勧めた側近は既に青ざめて今にも倒れそうだ
他にも数人魔族の側近がいるが、そいつらもガクブルしている
・・・ダメだこりゃ
内心諦めた魔王ベルリムは考えを切り替える
どうしてこの大会に転生者・拓真が紛れ込んできたのか?
上の世界から来た連中は四天王がそれぞれ分担して各地に足止めし
時間稼ぎをしている間に魔族軍の戦力を増強するという作戦だった筈
・・・だったのだが・・・
・・・誰かが裏切ったか・・・
最初に思い浮かんだのがその考えだった
この大会が開催されている事は魔族しか知らない筈
それがわざわざ危険をお冒してまで潜入してくる等
この大会に顔を出す自分を狙って来たとしか思えない
そしてそれを手引きしたのは他でもない
「そうそう、このボクだよ~~~」
魔王ベルリムの思考に割って入ってきたのは
魔族四天王の1人、ヨーディだった
「ヨーディ・・・」
横にしれっと現れたヨーディを冷めた目つきで睨み
魔王ベルリムは呟く
「まぁまぁ、怒らない怒らない~」
相変わらずのテンションで陽気に話すヨーディ
「それよりもホラ~~、上位4名が出揃ったよ!凄いね~~」
けらけらと笑いながら眼下に整列した4名を見下ろすヨーディ
「その中に転生者が居るのは貴様の差し金か?」
核心を突く発言をヨーディの背中越しにぶつける魔王ベルリム
「・・・うん、そうだよ」
「何故だ?」
やや間があって返事を返したヨーディに更に質問をする
その問いに首を捻って横顔だけを此方に向けるヨーディ
「最後のチャンスだよ」
「・・・何の?」
「転生者を此方側に勧誘する、さ」
あぁ、そうなのか
その回答を聞き、魔王ベルリムは全てを理解した
一度は此方側、魔族側への転身を断られたが
あの時はまだ世情を全て理解していなかった筈だ
あれから何度か邂逅はあったが全て敵対していた時だった
命を奪う寸前まで行った
・・・そうか
・・・まだ
・・・チャンスを狙っていたのか
ヨーディの横顔を見ながら魔王ベルリムは微笑んだ
「・・・任せる、ヨーディ」
「ありがと~」
そう答えるとニカっと笑って正面に向き直った
「だが」
それでも
「これが最後だぞ」
念を押す
もはや時間をかけて説得する機会は無い
此方も本気だが
向こうも本気なのだ
先代魔王ベルリム・・・リムの遺志を継ぎ
この魔界と人界を繋げようとしたが
全てが徒労に終わったと理解したあの日
全てを破壊し無の世界に戻そうと誓ったあの日
そう・・・もう後には引けないのだ・・・
だから・・・
「最後だぞ・・・」
ヨーディの背後から更に念を押す
それには答えずにヨーディはそこから闘技場へ飛び降りた
いきなり目の前の魔王が飲み物を吹き出した
多分、自分を見たからであろう
拓真はそう理解していた
四天王のヨーディからこの武道大会の開催を聞き
下手な変装をしてまで潜り込んだまでは良かったが
いざ魔王の目の前に立つと流石に緊張した
だが一目見られた途端、吹き出されたのだ
そんなに変装のセンスが無かったか?
拓真は思わず自分の格好を確認してしまった
一緒に変装して潜入した騎士団団長のサリオが
兜の奥の目力で”落ち着け”と合図してくる
まごまごしていると魔王の隣にひょっこりとヨーディが現れた
あ、と思う間もなく闘技場に降りて来たヨーディ
「やぁやぁ、約束どおり来てくれたんだね~」
人懐っこい笑顔で話しかけてくる
どう返事をしたものかと思案していると
「もうその下手糞な変装はいいよぉ~~バレバレだし」
くすくす笑いながら指摘してくる
そうか、そこまでいうのなら・・・
「ちぇ、やっぱりこの変装は下手糞だったか・・・」
そう言うと溜息をつく
その言葉に両隣に居た上位4名の内の2名が驚く
「き、貴様は一体・・・・!」
「何者!?」
そう言うと臨戦態勢に入る
それをもう1人のファイナリストになっていた全身鎧姿のサリオが制する
「何!」
「まさか貴様も!?」
2名の魔族は更に驚いて叫ぶ
4名の内2名が魔族では無いというかなりお粗末な内容だ
・・・いや、今回参加した拓真とサリオの実力が飛び抜けていた証拠でもある
「まぁまぁ。その辺でいいよ~」
ヨーディが会話に割って入り近づいて来る
「本題はここからさ」
ヨーディの顔から笑顔が消え、本気の眼差しを送ってくる
「前にも直接言われたと思うんだけど」
すっと手を差し伸べられる
「君さ、こっち側においでよ」
・・・また誘われた
これで3度目か?と拓真は思い返す
1度目は魔王ベルリムから
2度目は四天王のヤーンから
・・・だったよな・・・
前過ぎて他は覚えてないが、この二つは確実だった筈
だが・・・
「悪いな。答えはノーだ」
拓真は言い切る
「俺はこの不毛な争いを俺の考えで終わらせる方法を選んだ」
そう言って顔を覆っていた包帯を取る
「それはお前等が選んだ方法とは違うやり方だ」
体の包帯も取り去る
「だからそっち側の考えに賛同する気は無い」
何時ものスタイルに戻った拓真
手を差し伸べたヨーディは少し悲しそうな表情を見せる
だが
きっぱりと手を引くとにっこりと笑う
「ちぇ、ラストチャンス、だったのになぁ~~」
そう言うと両手を上に挙げた
「じゃあさ」
上空に何時の間にか禍々しい魔方陣が出来上がっていた
「ここで死んでね?」
恐らく強力な攻撃魔法なのであろう
その言葉と共に回りに乱気流の様な物が発生する
「ふっ・・・そうきたか」
拓真も怯む事無く身構える
その横にはサリオが寄り添う
他の魔族は何時の間にか距離を取って離れている
「お前の言葉に乗せられてここまで出張ってきたが」
拓真は指をぱちん、と鳴らす
「こうなる事も予想済みさ!」
闘技場全体が振動に包まれる
足元がひび割れ、地面の下から拓真達を包み込むように突起物が飛び出して来た
ばきばきと地面を突き破って現れたのは
”ビッグ・ダイン”の片腕だった
「地下から来てたのさ!生憎だったな!」
”ビッグ・ダイン”の拳の中に納まりながら拓真が叫ぶ
「くっそ~~~」
ヨーディが収まりのつかない攻撃魔法を発動させる
振り下ろされた攻撃魔法は”ビッグ・ダイン”の展開する障壁で霧散した
地面からせり出してきた巨大な”ビッグ・ダイン”は闘技場全体を破壊する
集まっていた魔族達はそれぞれが飛翔して回避したり
防御魔法等を展開したりしている
土煙にまみれた闘技場を後にした拓真とサリオ
「・・・結局、魔王には刃を向けられなかったな」
落ち着いた頃、兜を脱いでサリオが拓真に話しかけてきた
「あぁ・・・そうだな」
拓真はそういって武道大会の開かれていた闘技場を見下ろした
土煙にまみれた会場は既に眼下に遠くなっている
風を受けて拓真は何を思うのか・・・
「結局、無駄になったな」
魔王ベルリムはいち早く現場を離れていた
今は魔王城へ向かい移動をしている所だ
その横にはちゃっかりヨーディも戻って来ている
「でもさ、これで心置きなく、ね」
どうやらヨーディの中でも踏ん切りが付いたようだ
「そう、だな・・・」
その言葉を聞き魔王ベルリムは言葉を返す
そう、これで・・・
後は自分の、魔王となった責を果たすのみ
魔王ベルリムことカナコは思いも新たに
その瞳を前に見据えるのであった
次回予告!!
度重なる魔族軍への誘いを断った拓真!
もはや後は闘いによる決着のみなのか!?
そこへ最後の勝負とばかりに四天王のユウゼスが迫る!
”魔界決戦編 第四試合 家族の絆”
君はこの試合に何を見る!?




