勘違いの俺、ドヤ顔の俺
「フゥハハハー!人間どもはみなごろしだぁーーー!」
ひと際響く大声で、魔族軍の先頭集団にいた魔族の男が叫ぶ
その周りには槍や長剣、盾などで武装したゴブリンや得体の知れないモンスターが立ち並ぶ
その隊列の背後に遠目からも目立つ御輿の様なものに、これまた玉座とおぼしき椅子に座る魔族がいた
「くっ・・・!長老、奴ら今迄の斥候隊とは違う、それなりの大部隊みたいです!」
集落の入り口を、横倒しにした荷車で即席のバリケードを築いた中、リーダー格の男が叫ぶ
「ぬぅ・・・他の集落からの協力を取り付ける前に攻めてきおったか、無念じゃ」
魔族軍はざっと見ても100を超える集まりに見える。実際はもっと多いのだろう。対するこちらの集落の陣営は、30が精々といったところか。数の上ではもはや絶望的である
「・・・なぁ、魔族ってなんなんだい?」
格子の懲罰部屋の床で壁に背を預けていた拓真はキラッセに問いかける
「はぁ!?お前、魔族もしらねぇのかよ?」
遠くまで見えない小さな格子窓から外の様子をうかがっていたキラッセは何言ってんだとばかりにあきれ顔でこちらを向く
「知らないものはしょうがない。教えてくれ。それとも”閃光のキラッセ”さんも、知らないのかい?」
わざとキラッセの二つ名(自称だが)を口に出して挑発してみる
「て、てめぇ!・・・いいだろ、教えてやらぁ!魔族ってのはな、この世界の人族と敵対してる奴らのこった!」
「ふぅん、敵対、ねぇ・・・魔族っていうからには人族とどこか違うのかい?」
「か~~~~!ほんっとに、な~~んも知らねぇのな!いいか、よーくきけ、いいか、よーくきけ」
まるでこちらが知らないのが悪いみたいな言い方でキラッセが説明してくる
「まず、人族ってのは大きく分けて5種族あるんだ。俺達みたいなヒュム、背が低いホビット、力自慢のドワーフ、精霊とつながってるエルフ、二本足で生活する獣人だ」
へぇ、エルフとかは見てみたいな、獣人つったらケモミミかな、と考えていると
「聞いてんのかよ!?そんでそのどれにも属さないのが魔族、今攻めてきてるあいつらだ!」
思い出したように壁を拳で叩くと、キラッセは吐き出すように叫んだ
「奴らは人族に仇名す天敵だ!モンスター共を操って人族を殺して回るんだ!」
「そっか・・・じゃこの世界では、悪い奴、ってことだな」
そこまで聞いてゆらりと立ち上がった拓真は、格子の前に移動する
「そ、そうだけどよ・・・何すんだよ?」
急に格子の前に仁王立ちになった拓真を見て、何事か感じたキラッセは背中から声をかける
「・・・この世界にきて、少し解ったことがある。俺は、強い・・・!」
「・・・へ・・・?」
格子の前に仁王立ちになった拓真は、そう言い放つと両手で格子をしっか、と掴んだ
「俺はこの世界を救う為にやってきた救世主だ。まぁ見てろ、こんな格子、俺の前じゃただの紙細工だ」
言うな否や拓真は両手に力を込めて、引きちぎろうとする
「ぬぅぉおおおおおおおおおおおお!」
めりめりめり
格子が突然にかかった負荷に耐え切れず、悲鳴を上げる
「ま、まじ、かよ・・・」
キラッセが茫然とその光景を見つめる
「ふんぬぐぉぉぉぉぅぅおぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおっほげっほげほげほ!!」
めりめりと音を立てたまでは良かったが、結局それ以上は何も起きず、力負けした拓真はむせてしまった
「ぶぅーーーーーーーーー、くすくすくす、なんだぁそれ?壊せると思ったの!?」
げらげらと笑い転げるキラッセを背に、真っ赤な顔をして仁王立ちする拓真
「うううう、うるっさい!壊せるはずだったんだよッ!」
想定外の出来事に、そう叫ぶのが精一杯だった拓真は心の中で自問自答する
「おかしい・・・さっきの男達に連れて来られた時も連れ出された時も、全く相手の力を感じなかったしそれどころか妙に俺自身が漲ってて、無敵感がハンパ無かったのに???」
口に出してつぶやくほどに自問自答するが、答えは出ない
「はぁはぁはぁ、いや~、おっさん面白いわ~~無知な上に馬鹿だったとはね!無知馬鹿、アハハハハ」
「やかましー!おっさんいうなし!ちくしょーー!」
何時までも笑い転げるキラッセを肩越しに見て、やるせない拓真
すると
「キラッセ、それと不審者、さん・・・?」
と格子外から声がかかる
みると、最初にこの懲罰部屋に水を持ってきてくれた女性、ケリスであった
「不審者じゃない、拓真だ」
いまだ、笑い転げてるキラッセを背に憮然と言い放つ拓真
「はい、タクマ、さん。今、お二人をここから出しますね」
「ん?どうした?無罪放免には早すぎだが?」
格子の施錠を外しながら、ケリスが言う
「魔族が信じられないくらいの軍勢で来てます。これまで小競り合いはあったけど、今回の様な本格的なのは初めて。もはや勝ち目は無いから、二人は逃げてください」
「おいおい、いいのか?勝手なことをしたらアンタの立場が」
「もうそれを咎めようにも、咎めるものがいなくなりますから」
施錠を外し終わったケリスがこちらを見て、ふぅっと微笑んだ
む、惚れた
そう思う間もなく
「あら・・・?この扉、開かないわ?どうしちゃったのかしら、歪んでる?」
そういいながら格子の扉を引っ張るケリス
・・・すんません、それさっき俺が壊そうとして歪めちゃいました・・・
心の中で謝罪していると、背後でぷっくくと含み笑いが聞こえる
「ちょ、ちょーーっと、離れててもらえますかねケリスさん?」
不思議そうな顔のケリスを下がらせると、おもむろに拓真は扉にキックを見舞った
ばっかん
変な擬音を立てて、格子の扉が開く
その扉をキラッセと共に、並んで外に出ると
「キラッセ、北側の抜け道は知ってるわね?そこを通って逃げなさい。先に集落の子供達と女性達が逃げているわ。後を追いなさい」
ケリスがそうキラッセに伝えつつ、手に持っていたヘルメットと硬貨の入った袋を拓真に手渡そうとする
「俺はいいけど、ケリスはどうすんだよ?」
キラッセがその様子を見ながら、ケリスに詰問する
「私は、いいの。子供も居ないし、結婚もしてないし、それに」
この土地が好きだから
そう言って柔らかい微笑みを浮かべた彼女は、拓真の中で今、ナンバー1になった
「それじゃ今度こそ、少しはやれるって所をお見せしましょう!」
誰に言うともなく拓真はそう言うと、懲罰部屋のある建物の前の道に仁王立ちした
「ま~~た、お笑いでもすんのかよ?何するか知らないけど、もう止めとけって」
北側に向かうのを止められた感じになったキラッセが、あきれ顔でそう言う
「今度こそは、期待に応えられる!・・・・(はずだ)」
最後のセリフは小声でボソッと言うと、拓真は右手を地面にかざした
「こい、スモルガーー!」
地面に魔法陣の様なモノが描かれ、中央から赤い物体がせり出してくる
「う、うわぁ・・・お、お前、魔法使い!?ゴーレム召喚士だったのか!?」
地面から現れた赤い大型バイク、スモルガーを見つめキラッセがそう叫ぶ
「ん、ゴーレム?そうか・・・剣と魔法の世界じゃ、こんな物でもゴーレム扱いか」
地面から湧き出してきたスモルガーを見ながら拓真はそうつぶやく
「・・・まだまだ、これからだ。チェンジ・スモルガースイッチオン!」
大型バイク形態だったスモルガーは、電子音とがきがき音を鳴らしながら変形していく
あっと言う間に5メーター程の高さを持つ、人型ロボットに変わったそれに片手をつき
「みてな、俺が、こいつで、魔族軍を蹴散らしてやるぜ!」
と、驚き顔の二人にドヤ顔で宣言するのであった
まずいな「俺、」ってタイトルつけていくと何時かあのセリフにぶち当たる気がする。一級フラグ建築士になった覚えは無いんだけどな・・・