旅情編 第十一幕 魔界の穴
~前回までのあらすじぃ~
チャリオットレースで優勝はした物の、魔族軍四天王ヤーンの乱入によりズルが発覚して失格になってしまう。だが、魔法省事務次官マーナとコーディの活躍により防衛省のダールは失脚し、敵の優勝も無くなったのだった・・・
拓真は”ビッグ・ダイン”の操船室の椅子に座っていた
現在、北を目指して空中を航行中である
昨日までのエルフの都での出来事を思い出す
防衛省のダールは捕縛された
過去の悪事や今回のレースの裏で暗躍した事が明らかにされたからだ
優勝景品の魔法スクロールを欲していた事も
魔族の手の者から手引きがあった為と暴露された
つまり、魔族側も魔法スクロールを狙っていたという事だ
「そう言えばホビットの集落でも魔族四天王のヨーディが来てたな」
拓真はその事と今回エルフの都で同じく魔族四天王のヤーンが絡んだ事
全くの無関係では無いと考えていた
「魔族の狙いも魔法スクロール、か」
捕縛されたダールは無期限の禁固刑だそうだ
そして新生なった防衛省のトップには副次官だったカールが就いた
魔法省の事務次官マーナとは仲が良いそうだから今後は上手く回るだろう
チャリオットレースも規模は縮小されて健全な運営になるそうだ
息抜きは必要だからね
そして狙い通り、繰上げ優勝になった4位のチームから
魔法スクロールを買い取った
・・・資金はコーディが当てたレースの賞金からだが
全てが解決し、勇躍、拓真達はエルフの都を後にしたのだった・・・
「んで、何で北に向かってるんだっけ?」
拓真は操船室にいる案内ロボット”ピグロン”に問いかける
『はイ。現在、魔力探知機のセンサーを最大にした所、北の地に反応ガ』
「北の地、ね・・・なんだっけ、でっかい山脈があるんだっけか?」
『ウルトゥラ山脈でス』
なんだか何処かからお叱りを受けそうな名前であるが問題ないだろうか?
大気圏外に打ち上げた衛星から電送された写真がある
そこには北の地を覆いつくす山脈が写っており、その中央にモヤがかかっている
「こういうの、なんて言うんだっけか?」
『スモーカーマウンテンと呼ぶらしいでス』
「ふうん・・・タバコ好きの山ってか・・・」
拓真はモヤのかかった山脈の中央を凝視する
「まさか、ね・・・」
かすかな記憶の片隅に
地球の北極にある大穴から地下に行ける話”地球空洞説”が浮かぶ
「この星は・・・星、だよな・・・そういう説とか、あるのかな?」
記憶の片隅に思い出した眉唾な説を思い出した拓真は
しかし、剣と魔法の世界ならありうるかも?と考えていた
所変わって”ビッグ・ダイン”内にある施設の一つ、運動場である
騎士団団長サリオの指導の下、炎の3騎士のミース、セイム、ソーネ
そして選抜された10名の騎士団員達が、訓練で汗を流している
持ち込んだ模擬用木剣を使い、剣術の稽古の最中だ
「よいか貴様等!普段の訓練の積み重ねが、いざという時に役に立つのだ!」
サリオが全員にはっぱをかける
「窮地に陥った時にこそ、積み重ねた訓練の量が支えになるのだ!」
「はい!!!!!」
団員全員が声を揃えて団長の指示に従う
そんな流れるような訓練を横にキラッセがエアーバイクを漕いでいた
自転車等無かった世界だが、拓真が持ち込んだ異世界設備により
キラッセやペッスム等は身体を鍛えるのに異世界設備を好んで使用していた
ペッスムは何故かウェイトリフティングに夢中だ
マッチョに憧れでもあるのだろうか?
ペッスムの私兵6名はマシントレーニングがお気に入りのようだ
各人思い思いのマシンを動かしている
獣人のホークアイはそんな彼らを眺めながらバランスボールに座っていた
「カカカ・・・各々、異世界設備がお気に入りの様だの」
そんな軽口を叩きながらバランスボールをふにふに動かしている
それを聞いたサリオが団員から離れてホークアイに近寄る
「ホークアイ殿、我が騎士団は異世界設備にばかり頼ってませぬが?」
どうやら自分の教える団員はこっちの世界の訓練だけですよと言いたげだ
「カカカ・・・気を悪くされるな。全体的にそう見えただけじゃ」
ホークアイは気にするそぶりを見せずにボールの上でゆらゆらしている
サリオはふん、と鼻息を荒くすると無言でその場を離れた
その後姿を見て勝気な女子じゃのう、と心の中で思うホークアイだった
何故みんなトレーニング等をしているのかというと
目的地に着くまでに三日程かかる上に
皆の心にいよいよ決戦が近いか、という気持ちが出来た為であるが
兎に角じっとしていられないというのが本音であろうと思われる
実際問題、魔族との戦いになれば拓真の操る三つのシモベ
”スモルガー・マークⅡ”、”ミドルオー”、”ビッグ・ダイン”の
3体がメインになると考えられるが
ではその間、自分達は何を?という話になるのだ
”ビッグ・ダイン”に乗ったまま観戦でもしていれば危険はないのだが
それではわざわざ同行した意味が無い
では戦場に出て戦う?にしても恐らく足手纏いにしかならないのでは?
という不安が頭をもたげるのである
その不安を払拭する為のトレーニング、という話になるのだ
短い期間で結果を出すのは難しいのだが・・・
さてトレーニング施設に顔を出していない登場人物で残っているのは
カイムとケリスの2人とコーディである
カイムとケリスは”ミドルオー”の操縦担当になっている為
身体的トレーニングよりも操縦方法や仕組みについて勉強中である
拓真の指示である程度自動で行動出来るのだが
やはり細かな動作は人の手によると格段に差が出るのだ
という訳でヒマさえあれば2人は”ミドルオー”のコックピットに入り浸り
シミュレーションをやりまくっているのだ
・・・シミュレーションを、ね・・・
最後にコーディだが
二つの魔法スクロール、”移動魔方陣”、”封印魔法”の2本を携え
持ち込んだ魔法の古書とにらめっこの真っ最中だった
この二本の使い所は”魔界”のエリアで”移動魔法陣”が展開している場所で
新しい”移動魔方陣”を使い、その上から”封印魔法”を使うのだ
そうする事により魔方陣の上に封印をする事が出来て
二度と”移動魔方陣”が使えなくなるのだそうだ
コーディはこの方法を確実にする為に古書を読み込んでチェックしているのだ
・・・うむ、ちゃんとマジメな事をしてた!
そんなこんなで、三日が過ぎ去っていく・・・
”ビッグ・ダイン”の操船室に全員が集まっていた
間もなく”ウルトゥラ山脈”に差し掛かるのだ
「見えてきたね・・・」
キラッセが皆の静寂を破るように言葉を発する
「あぁ・・・あの山脈の頂上に目指す”魔界”の入り口があるはず、だが」
「だが?」
拓真の歯切れの悪い言葉尻にサリオが反応する
「ピグロン、魔力探知機の方はどうだ?」
それには答えずに拓真はピグロンに確認する
『はイ、探知機反応大、でス。”魔界”の入り口である可能性90%でス』
それを聞いた全員から、おぉ、と声があがる
「・・・っふ、なんか寒くなってきたね?」
ミースが両腕を組み、ぶるっと震える
『申し訳ありまセン。只今ダンボウを入れまス』
ピグロンがくるくると頭を回転させなながらミースに伝える
見ると山脈の上には薄っすらと白い物が見える
「雪、か・・・・」
拓真が呟く
「あれが雪・・・」
セイムがぽつりと呟く
「カカカ・・・この世界の住人は温暖な土地にしか住まないからの」
「言われて見れば寒い所の出身者って、あまり聞きませんわね?」
ソーネがまだ温まっていない身体をさすりながら答える
「・・・それでは、あそこに見えるのは何かね?」
ペッスムがモニターの下側に見える明かりを指差した
「アレは・・・人がいる、のか?」
「カカッ!?」
ホークアイが驚く中、全員がジト目でホークアイを見る
その明かりは確かに、人が住む証でもあったのだ
「取り合えず情報収集だ。ちょっくら降りて挨拶に行って来る」
拓真がそう言うと外に出る準備を始める
寒そうなので、防寒対策を施した服装に着替えていく
「こんなもんか」
厚手のジャンパーに長靴、そしてボアの付いた耳当てをする
「ぷーっ、なんかタクマ、カワイイ!」
キラッセがその格好を見て笑い出す
「笑うな!寒さに耐える為の格好なんだぞ!」
「だってぇ、カワイイんだもン!!」
くすくす笑うキラッセを尻目に拓真は少しむくれる
トラクター・ビームの光に包まれて拓真は明かりのついた場所へと降りて行く
「さてさて、どんな人が住んでるのかな?」
「そうじゃのう。山脈の麓に住んでる種なんぞワシも初めてぢゃ」
「・・・」
1人で来たと思っていた拓真だが独り言に反応されて固まる
足元には拓真と似たような防寒対策をしたコーディが仁王立ちしていた
「・・・コーディ・・・何時の間に・・・」
「む?おうおう、古書とにらめっこは飽きたのじゃ!」
からからと笑うコーディに、呆れ顔の拓真
そんな2人をトラクター・ビームは静かに山脈の麓に降下させていった
「っと、結構地面が凍ってるな」
地面を両足で踏みしめた拓真はそんな感想を漏らす
「ふむ。ここまで北の土地に来たのはワシも初めてじゃ」
「お、おう・・・」
「・・・ギャグじゃないぞい?」
そんな戯言を言いながら二人は明かりの灯る方向へ歩いていく
目の前まで近づくと、地面から生えた感じの岩に掘られた住居のようだった
「なんか、凄い作りの住居?だな」
「ワシらも木をくりぬいて住居を作るからの」
「そっか・・・」
拓真は妙に納得してその住居の扉らしきものをノックしてみる
扉は木製だが、相当分厚くあつらえてあるようだ
扉の覗き穴らしき部分ががこん、と開いて中から鋭い眼光が光る
「・・・何者?」
「すんません。ちょっと聞きたい事があって尋ねました」
がこん、と覗き穴が閉じると施錠を外すがちゃがちゃ、という音が聞こえて来た
ぎごごご、と分厚い木の扉が開くと中から現れたのは巨躯を誇る人物だ
「こんな山奥に珍しい。ヒュム種と、ホビット種か。何用だ?」
そう話す巨躯の人物、見た目からすると熊型の獣人の様だった
「あぁ、この山、ウルトゥラ山脈の頂上について情報が欲しいんだが」
「・・・頂上?この山の頂上には穴がある。とても深い、穴だ」
「穴・・・その事をもっと詳しく聞きたいんだが話してもらえるかい?」
熊型の獣人は目を瞑って少し考えた後、目を開くと顎をしゃくった
「・・・いいだろう。中に入るといい」
「それは助かる。外は寒くてね」
「すまんのう」
拓真とコーディはほいほいと中に入っていった
中に入ると奥に暖炉らしきものがあり、かなり暖かかった
見た目と違いかなり友好的な態度で接してくれるので拓真はほっとした
「改めて自己紹介しよう。俺は拓真だ」
「ワシはコーディじゃ」
テーブルで対面になって話をする
「俺は熊型の獣人、アイゼンレッグだ」
アイゼンレッグの後ろから暖かい飲み物を持って来てくれた人物がお辞儀する
「この子は娘のティピレッグだ」
熊型獣人の女の子だ。拓真は初めて見たケモミミっ子に感動していた
「して、アイゼンレッグ殿。この山脈の上にある穴についてじゃが」
コーディが話を切り出す
「・・・この山脈に開いている穴、我々は”悪魔の穴”と呼んでいる」
「悪魔の、穴・・・か」
拓真がアテが外れたか?と思っているとアイゼンレッグから衝撃的な一言が
「”悪魔の穴”は”魔界の穴”とも呼ばれているのだ」
「なんだって!?」
「ビンゴ、か・・・」
窓の外が風でがたがたと揺れ始める中
拓真はその向こうにそびえたつ山脈に目を凝らすのであった
次回予告ゥ 辿り着いた”魔界の穴”は目指す”魔界”への入り口なのか?はやる気持ちを抑え、拓真達は頂上を目指す。だが、そこには頂上を守護する強敵が存在していた。それは獣人アイゼンレッグにとって因縁の相手でもあったのだ・・・”旅情編 第十二幕 山脈の主” でお会い致しましょう




