旅情編 第十幕 勝者と敗者
~前回までのあらすじぃ~
決勝レースに進んだ拓真であったが、防衛省のダールが画策するキナ臭い陰謀を感じ取っていた。暗雲立ち込めるレース会場。そしてレースの火蓋が切って落とされるのだが・・・
拓真は決勝のレースのスタートラインに並んでいた
決勝レースなので予選を勝ち上がった拓真以下、全5台の紹介がされている
だがそんな説明など耳に入って来ない程、拓真に緊張が走っていた
それは横並びの右側にいて、此方を見てニヤニヤしている防衛省のお抱え騎手でなく
左側に並んでいる騎手から放たれる殺気であった
「・・・・・・」
無言で此方に殺気を放ってくる存在
「・・・ヤーン、か」
その横顔には見覚えがあった
魔族軍四天王の1人、”ヤーン”である
顔の上半分をマスクで隠しているが見間違えようが無い
だが、左側の騎手はその問いに答える訳でなく無言で口角を上げただけだ
騎手紹介では良く分からない名前で呼ばれていたがそんな事はどうでもいい
どうやって潜り込んだのか定かでは無いが
現状では最も警戒すべき相手だ
「それでは決勝レース、スタートです!!」
「レディ・セット・ハット!!・・・・・・・・ゴーーーーーーーッ!!!」
どおおおん
またも謎のアメフト風掛け声と共に花火が打ち上げられた
観客が一斉に雄たけびを上げる
早速、右側の防衛省の戦車が幅寄せをして来たが無視して加速する
かいん
相手の騎馬に付けられた刃物が”スモルガー・マークⅡ”のボディに当たる
問題ないので、そのまま加速して左側の戦車
ヤーンであろう騎手が操っている戦車に幅寄せする
「まさか魔族がこのレースに参加するとはな!」
戦車の横に並ぶと拓真は大声でヤーンに話しかける
「・・・・この時を待っていたのよ!ハァーーーッ!!」
ようやく口を開いたヤーンはそう叫ぶと馬に鞭を入れる
追い抜き様、戦車の車輪を拓真の馬に当てようとする
「っと、あぶねぇ!」
咄嗟に手綱を引き馬を寄せて回避する
「ほーっほほほほほ」
高笑いと共に加速したヤーンの戦車は拓真を置いていく
「くそっ此処まで来てアイツに負けたんじゃ話しにならねぇ!!」
拓真は馬を立て直すと鞭を入れて加速する
「イイヤァーーッ!!」
その隙を突いて防衛省の戦車が再び襲い掛かってきた
「今はテメェの相手をしてる暇はねーーっつぅの!」
悪態をつくと拓真はボディを滑らせて相手の戦車にぶち当てる
相手は決勝まで来た猛者であるようでバランスを崩しただけで立て直した
「くそっ簡単にはいかねぇかぁ!」
ヤーンの操る戦車を追いかけつつ、背後からスキを狙う敵も牽制する
レースは膠着状態のまま終盤に向かって行った
チャンスは不意にやってきた
デット・ヒートを続ける拓真とヤーン、そして防衛省の戦車が突出しすぎて
周回遅れの戦車が出てしまったのである
前方を走る周回遅れの戦車
それを抜き去るべく、ヤーンの戦車が横にずれる
「今だぁ!」
その隙を逃さず拓真は加速し、強引に間に割り込む
「何ィッ!?」
「ひぃぃ!!」
ヤーンの驚きの声と周回遅れの騎手が同時に叫ぶ
バランスを崩した周回遅れの戦車をかすめて、拓真は2台を抜き去る
それと同時に防衛省の戦車も後を突いて来て2番手に躍り出る
「くっ、ちっくしょう!!」
ヤーンの悪態を後ろに聞きつつ、拓真はトップに躍り出る
大歓声に沸く競技場
「やったー!!」「タクマーー!!」「素敵ーー!!」「きゃーきゃー!!」
ピットインもどきではキラッセ以下、女性陣が大騒ぎだ
「やったぜ!!」
拓真も目論見が成功して得意げだ
だが油断出来ない
レースが終わるまで、同じ場面が起きる可能性があるという事
「後何週だっけ?」
そう考えながら手綱を握る拓真
そしてその時は来た
レースも最終回、後1周すれば勝敗が決すると言う周回
前方には周回遅れの戦車が2台、並んでしまっていたのだ
「よりによってここでか・・・」
トップをキープしいていた拓真であったが、ここが勝負所だ
並んでいる2台を抜くには間を抜くか内側を抜くしかない
外側を選んではロスが多すぎるしスキが大きすぎる
さて、どうするか?
思案する拓真に背後から防衛省の戦車が迫る
ヤーンの戦車も併走して来ている
先に行かせるか?
少し弱気な考えが頭をよぎるがそれを振り払うと
「漢は度胸だ!いっくぜぇぇ!!」
意を決した拓真は咆哮する
「うおぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」
自分でも驚く位の大声を放ち、拓真は馬に鞭を入れた
「ひぃぃぃぃ!!」「ぬっっくくく!!」
前方の2台の戦車の騎手はそれぞれの反応をした
片方は最初に周回遅れで抜き去った騎手
もう片方は今、周回遅れとして抜き去ろうとしている騎手
お互いがそれぞれ違う反応をした為、偶然にも戦車同士がぶつかった
「!!」
そして一瞬だが2台の間に隙間が出来る
「そこ、だぁぁあああああああっ!!!」
拓真は馬に鞭を入れその隙間に自身の馬をねじ込んだ
だが、間は狭い
馬二頭はすり抜けられたが”スモルガー・マークⅡ”は横幅が広い
このままでは2台の戦車にぶち当たってしまう
「ずりゃぁぁぁぁぁっ!!」
拓真は思い切って車体を縦に引き起こした!
バイクの2輪が地面から離れ、ボディだけで地面に接地してしまう
このままでは摩擦の関係で拓真の馬は後方に引っ張られ、失速してしまう
「悪い!ズルさせてもらうぜ!!」
拓真は小声で口走りながら、”スモルガー・マークⅡ”の変形機構を起動させる
地面に接地している部分から、ちょこっとだけ変形させた”腕”を伸ばす
その”腕”で地面を数回、前方に向けて”飛ぶ”ように叩き付けた
丁度、水面に投げつけた石が水面を跳ねる”水切り”のように地面を跳ねる
すり抜けた後、車体を元に戻して拓真は吼える
「っだぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああっ!!!」
成功!拓真は見事に周回遅れをかわし、トップの座を守ったのだった!
だが、このままで終わらなかった!
・・・魔族四天王の”ヤーン”が参戦している時点で予測はしていたのだが・・・
丁度最終のカーブを曲がりきった所で反対側のレーンから中央分離帯を横切って
ヤーンの戦車が此方のレーンに飛び込んできたのだ
「うおっ!?ヤーン、そりゃあダメだろっ!!」
「何を言うか!貴様の戦車は元からダメだろうがっ!!」
最もな事を言いつつ、横並びになったヤーンの戦車は激しく体当たりをしてきた
「ここで貴様を、コロス!!」
言うや否やヤーンの操る馬も戦車も、異形の形に変わって行く
「なんだよっ、テメェも大概ダメだろ、そりゃぁ!」
魔獣に変わった馬と”いくさぐるま”と化した戦車を操りヤーンは吼える
「私の味わった屈辱!決して忘れぬ!死ねッ!転生者ァァァァ!!!」
「くっそったれぇぇ!」
ヤーンの操る魔獣戦車の体当たりを受けながら、拓真達はゴールになだれ込む
ゴールラインはほぼ同体だったが、ショートカットしたヤーンは失格だろう
だが
「死ねェェェェェェェッ!!」
最早レースなぞお構い無しにヤーンは襲い掛かってくる
「ちぃ、仕方ねぇ!」
拓真はゴールラインを過ぎた後”スモルガー・マークⅡ”を
ロボット・モードにチェンジさせて迎え討つ
「おうらぁ!!」
いかに魔獣といえど拓真の敵では無かった
あっさりと二体の魔獣は首をへし折られ絶命する
その隙にヤーンは逃亡した様だ。姿が見えない
「・・・く・・・ヤツめ・・・」
怒号と歓声渦巻く競技場に、仁王立ちする”スモルガー・マークⅡ”
「これじゃズルしたの、バレちゃってるよな・・・」
拓真はコックピットで溜息をついた
「ぶわはははは、魔法省さんの優勝はナシですな、ぶわははは!!」
耳障りな高笑いをしているのは防衛省のダールだ
レース終了後のヤーンの襲撃により、拓真のズルが発覚してしまった
明確な規定は無い物の、さすがに単独行動が出来る”戦車”はイカンだろうという話だ
拓真とヤーンのゴールの後、こっそりとゴールして3位になっていた防衛省の戦車
ショートカットしたヤーンは失格、戦車もどきを使用した拓真も失格、としたいようだ
「ぶわはははは、それでワシの所が繰り上げ優勝、ぶわははは!」
「とはいきませんようで」
「んが!?」
高笑いのダールの背後から衛兵を伴った細身のエルフが声をかける
「誰?」「さぁ?」「知ってる?」「知らないよ・・・」
不思議がる拓真達の面々
「あぁ、申し遅れました。私、防衛省副次官を勤めますカールと申します」
流麗に挨拶をしたカールはそのままダールに向かい合う
「事務次官ダール様、いやダール。貴殿には資産横領の嫌疑がある」
「んがっ、なななな・・・・」
口をぱくぱくさせながら、ダールが言葉を出せないでいると
「それだけではない。今回のレースに関しても様々な疑いがある」
「な、何を証拠に・・・」
「貴殿が使役していた”影”とやらはすでに捕縛して取調べ中である」
「ぎぇぇぇぇーーーーーッ!!!!!」
そこまで聞くとダールは絶叫してその場にぶっ倒れた
「ひったてぃ」
冷酷な言葉と共に配下の衛兵がぶっ倒れたダールを重そうに引きずっていった
その光景を目が点になった拓真達は見つめている
「お疲れ様。上手く事が運んだようですね?」
声がする方を見ると、魔法省事務次官のマーナがすまし顔で立っている
その横にはコーディがにやついて並んでいる
「マーナ様。おかげさまで防衛省の大掃除が出来ました。感謝致します」
「それは何より。これからはお互いに協力して行きましょう」
「えぇ、こちらも宜しく御願い致します」
そう言って微笑みあう二人
何この茶番・・・
拓真が呆然としているとコーディがつついてくる
「大丈夫か?実は全ては内々に進めていた出来事でのう」
「・・・何時からだよ・・・」
「んー?ダールの内偵については前々から、話を聞いたのはこないだ、かの?」
すっとぼけた感じで話すコーディにイラっとする拓真
「んでー、優勝商品の魔法スクロールはどうすんだよ?」
「ぁ、そうだ!どうなるの?」
拓真の問いにキラッセも思い出したように聞いてくる
サリオやミース、セイム、ソーネも顔を寄せてふんふんと頷く
「んー、優勝は4位になったチームになるかの」
「んじゃスクロール、どうすんだよ!?」
「それな、買い取る事で話がついとる」
「買い取る?そんな資金、どっから出てきた!?」
拓真がわなわなとコーディに問いただす
「実はな・・・ずーっと賭けレースに賭けておっての」
コーディがにやりと笑う
「決勝前まではお前さんに賭けておったんじゃが」
そう言いながら懐を探る
「決勝レースは穴を狙ったんじゃ、ほれ」
その手には賭けレースの的中札が握られていたがもはやどうでも良かった
「なんで・・・決勝で穴狙いに、したんだ・・・?」
こみ上げる怒りを隠しながら拓真は問いただす
「なんでって・・・魔族は紛れ込んでるし、お前さんはズルしてるし、ダールんとこは不正発覚で失格になると踏んでたんじゃ」
さも当然と言う様にコーディはすまし顔だ
「だったらぁ!レース前に教えてくれても、いいんじゃないかなぁぁぁぁ!?」
そう言うと拓真はコーディのこめかみを両手の拳でぐりぐりする
「あっ、イタタタタ、痛い、痛いッ!タクマよ、痛いぞぉ!!!!」
大声でわめき続けるコーディに拓真のこめかみぐりぐりは果てしなく続くのであった
次回予告ゥ チャリオットレースも無事に?終わり、なんとか魔法スクロールを手にした拓真達。二つのスクロールを手にして向かうは魔族の本拠地”魔界”なのだが、その入り口はどこに?・・・”旅情編 第十一幕 魔界の穴”でお会い致しましょう




