旅情編 第八幕 チャリオットレース
~前回までのあらすじぃ~
エルフの都で魔法省の事務次官、マーナに会った拓真達。目当ての魔法スクロールはチャリオットレースの景品になっていると言う。一体、何が起こっているのか・・・
拓真は巨大な円形状の競技会場を見渡していた
明日はここで”チャリオットレース”が開催されるのだ
「この俺が古代ローマ帝国で開催されていたレースを体験するとは・・・」
エルフの都、魔法省事務次官である”マーナ”から説明を受けた拓真
魔族軍との争い中にも関わらず、エルフの民衆は
娯楽である”チャリオットレース”に夢中なのだとか
詳細は簡単
巨大な円形状の競技場を馬2頭に牽引させた荷車”戦車”を操り
何週か回って順位を競う
それだけだ
おまけにレース中の進路妨害や攻撃もある程度認められていて
さながらちょっとした”チ○チキマシー○猛レース”らしい
ただ、その戦車を操る人間にはチームがつき、スポンサーまで居ると言う
そして、順位をめぐって賭け事まで成立しているのだそうだ
贔屓のチームにはファンがついており、ファン同士の争いも起きているとか
賭けが成立しているという事は裏で巨額な資金が動くという事
そこで生まれる利益は何処へ行くのか・・・
レースでは必然、フィジカル(肉体的強さ)が求められる為
参加者はマッチョ化していったという
その影響でエルフ種全体がマッチョ化していったそうだ
肉弾戦闘民族に舵取りが向かう中、魔法省の力は弱まり
資金難に喘ぐ魔法省は、所蔵の魔法スクロールを景品として売り払う事で
財政難を乗り越えたのだと言う
そのスクロールを奪還するにはレースに出場し優勝するしかない
そう言う訳で諸々の手配はマーナが行い
拓真達は魔法省から特別参加という形で明日のレースに参加する事になった
もちろん、拓真達は”戦車”等を持ち合わせてはいなかったのだが
見てくれや重量等決まった取り決めはほとんど無く
”馬2頭に牽引されていて人が1名で操作する事”
であれば、何でも良いと言う盲点を付き
”スモルガー・マークⅡ”を馬2頭で牽引し参戦するという
かなりの”ズル”をして参加する事になったのだ
拓真の脳裏にマーナの言葉が蘇る
『いいですか、こちらがズルを出来るという事は相手側もズルが出来るという事です』
その言葉を思い出し、拓真は溜息をつく
「娯楽とは言え賭けも成立している競技だからなぁ」
街中での”マッチョエルフ”の殴り合いも
”チャリオットレース”のファン同士の揉め事だとマーナが言っていたのを思い出す
エルフの都の上空に浮かんでいる巨大な飛行船もどきは
そのレースに出場するチームの”スポンサー”が乗っているらしい
「つまり飛行船の数だけスポンサーがいて、チームが存在するわけだ」
拓真は空を見上げて、飛行船の数を数える
「・・・・・うへ、20以上あんじゃねぇか。どうなってんだ」
1レースにつき、5チーム参加で競うらしいから
少なくても4レースは開催されるという事だ
「20以上いるって事はプラス数レース・・・その中から勝ち抜いて・・・か~~、めんどくせぇ」
拓真は頭を掻くと競技場を後にする事にする
競技場から階段を降りて通路を歩いていると、前方に人の気配がする
フードを被った見るからに怪しい人物・・・
「・・・・・魔法省から出場するヤツだな?」
近くまで来ると、急に話し掛けられる
「ん?誰だお前は・・・」
言い掛けると同時に相手が突然、フードの下から刃物を抜き放った
「わっと、あぶねぇ」
拓真は警戒していた事もあって、素早く避ける
「なんだよいきなり?」
「・・・死ね・・・」
テンプレな台詞を吐き、フードの人物は襲い掛かってきた
「冗談じゃ・・・ねぇ!」
刃物をかわし、振り向き様に蹴りを放つ
どかっ
足応えは、あった
拓真自身襲われる事自体は初めての体験?だったが
上手い事、身体が動いてくれた
「ごっはぁ!」
偶然にも”入った”ようだ。相手が苦しむ
距離を取り、空手の構えを取る
苦しむ相手は此方の様子を伺っていたが、じりじりと距離を取ると逃げ出した
追って捕まえようかとも考えたが、無駄だろうな、と思いそのまま見逃した
「ふぅ・・・空手の構え・・・まだ覚えていたな」
先程放った蹴りも幼少の頃習った空手の技
後ろ回し蹴り、バックスピンキックである
拓真は現在、過去に起きた不具合を生じさせる記憶を消された状態である
例えば、自身が失敗した事や恐怖を感じた事
あるいは他人の失敗を見て萎縮してしまう事等である
普通はブレーキとなりうる記憶を意図的に消された事で
身体能力を強化された拓真はその能力をブレーキをかけずに奮うことが出来るのだ
ただそれは、諸刃の剣でもあるのだが・・・
競技場の外に出ると”スモルガー・マークⅡ”の横にキラッセとコーディが待っていた
「タクマー!後で皆も来るってさ」
キラッセが屈託無く笑って話してくる
「どうじゃった競技場は?明日のレースの感触を掴めたか」
コーディもそんな言葉をかけてくる
「あぁ、まずまずだな」
そんな返事を返しながら、刺客が襲ってきた事は後で話そうと考えていた
見上げると空を埋め尽くさんばかりの飛行船が集まって来ていた
「どいつかな、殺し屋送ってきたのは」
小声で呟き目線を配る拓真
すでに戦いは始まっていた様だった
当日のレース会場
日差しが強く暑い。競技場も集まったマッチョ軍団でむんむんだ
「タクマ、一応馬は繋げたが大丈夫か?」
騎士団長サリオが話しかけてくる
「おうサンキュー。まぁ何とか成るだろうさ」
オフロード・バイク用のプロテクターを身に纏い
ごついグローブをはめた拓真は、その手をぱんぱんと打ち付ける
拓真が出場するのは第一レース。5組で争う予選の一回戦目だ
「おほん。ワシがこのチームの総監督を勤めるペッスムじゃ。宜しくのう」
ペッスムが隣のチームの監督らしき人物に挨拶をしている
こういう交渉事に関してはペッスムは実に役に立つ
「タクマ、”スモルガー・マークⅡ”の整備、終わったよ!」
威勢よく声をかけてきたのは3騎士のミース。お前、整備なんて出来たっけ?
「燃料も満タンですわ!」
合わせる3騎士のセイム。だからそういう事、キミタチ出来ないよね?
「馬の手綱は確認しましたわ!」
3騎士のソーネ。だからそういう事は・・・それは出来るか、有難う!
「ところでタクマ・・・この格好はその、なんだ。少し恥ずかしいのだが」
サリオが少しもじもじしている
それもそのはず、サリオ以下3騎士とキラッセには
レースクイーンもどきの衣装を着せてあるのだ
「ん、その格好はな、絶対に、必要なんだよ!特にレースをする時にはだな!」
レースクイーンの必要性を昨日の夜に口をすっぱくして説明し
案内ロボットのピグロンに俺の世界のレース映像を出させてそれを見せて説得し
ようやく納得させて衣装を着させたのに、まだそんな事を!
「まーまーいいじゃないですか、サリオ様。これはこれでカッコいいしょ?」
ノリノリだったのは以外にも炎の3騎士全員で、率先して衣装を着てくれた
「そうは言うがミース・・・」
サリオが今だ照れくさそうに、上に羽織ったショートジャンパーのすそを引っ張る
「サリオ様、そんなの引っ張ったって隠れませんよ?」
セイムもサリオの右脇に付き、腕をとる
「そーそー、諦めが肝心ですよサリオ様」
ソーネが左脇に付き、セイムと一緒にサリオをはさむ形になる
「ちょ、2人とも・・・」
抗議の声をあげるサリオだったが、2人にはさまれてはどうにもならない
「ほら、観客も注目してるっしょ!?」
競技場内のレース場横に隣接された戦車の待機場所から
3騎士は観客席に向けてアピールを始める
手を振ったり、投げキッスをしたり。ホント、ノリノリだな
わぁわぁ
観客席は大盛り上がりだ
「ひゃー凄い盛り上がりだね~」
キラッセが拓真の横に来て話しかける
「おう、レースってのは盛り上がらないとなぁ!」
そう言うと拓真は”スモルガー・マークⅡ”に向かって歩き出す
すると
「貴公が魔法省の推薦で出場するタクマとやらか」
背後から野太い声がかけられる
振り向くと、ごつい身体に黒い革鎧を身につけた漢が立っていた
「アンタは?」
拓真がそう問いかける
「俺はこの”チャリオットレース”のチャンピオンになる漢、ダーナだ!覚えときな」
「そうか」
この手の輩は大体”かませ”だ。拓真はそう判断して踵を返す
「おっと、チャンピオンとは聞き捨てならねぇ」
反対側から更に野太い声がかかる
そちらを向くと青い革鎧に身を包んだ漢が立っている
「そうそう、チャンピオンになるのはこの俺様だよ」
更に逆側から甲高い声がかかる
そちらを向くと赤い革鎧に身を包んだ漢がニヒルに立っている
一触即発の空気が流れる中、拓真だけがこいつら全員”かませ”だな、と思っていた
「第一レース、開始致します!参加者はスタート位置へ!」
レースを仕切る係員が大声で叫んでいる
「よっしゃ、んじゃ行って来るわ」
拓真が睨みあう雑魚共を後にして、自分の持ち場に戻る
キラッセがとことこと横に張り付き、小声で話す
「アイツら、全員蹴散らしてね?」
「ふ・・・とーうぜん。狙うのは優勝だからな」
拓真も小声で応じる
そう、優勝しなければ魔法のスクロールが手に入らないのだ。やるしかない
拓真は最後に手に持ったヘルメットを被る
今回のはオフロード装備にあわせて、オフロードヘルメットだ
首に下げていたゴーグルを引き上げて装着する
「うっし」
気合を入れた拓真は”スモルガー・マークⅡ”に跨る
気を緩めたりはしない。昨日襲ってきた刺客の事は全員に話してある
ホークアイは競技場の観客席から様子を伺っている
カイムとケリスは”ミドルオー”で待機中だ
コーディは魔法省事務次官のマーナと観客席の貴賓席にいる
無論、出場チームである拓真の側には監督のペッスム以下
サリオ、ミース、セイム、ソーネが目を光らせキラッセの護衛も兼ねている
「さて、どう出る?」
”スモルガー・マークⅡ”に跨り、馬を操りながら拓真は思案する
一番効果的なのはレース中に事故に見せかけて消す事だ
拓真は馬を操りながら、”スモルガー・マークⅡ”を走らせなくてはならない
練習はしたが果たして上手く良くかどうか・・・
そんな中で刺客が紛れ込んでレース中に何かを仕掛けてきたら・・・
考えれば考えるほど、不安要素しかない
「ま、こまけぇこたぁいいんだよ、ってか・・・」
口癖のように呟いた拓真は”スモルガー・マークⅡ”を走らせた
スタート地点には先程の雑魚達がニヤニヤしながら待ち受けていた
「ふふふ、怖気ずによく来たな!」
「ここが貴様の墓場になるのだ!」
「身の程を教えてやる!」
「このレースに勝ったら、故郷に帰って結婚するんだ!」
フラグだらけの挑発を受けながらスタート地点に並ぶ拓真
当然、挑発はスルーだ
競技場の歓声がひと際高くなる。日差しも暑い。かげろうが立ち上る。汗も出る
「総員、構え!!」
中央分離帯にそびえるスタートラインの塔から係員の声がかかる
「レディ・セット・ハット!・・・・ゴーーーーーーーーーーッ!!!」
アメフトの掛け声みたいな開始に合わせて係員が叫び、旗を振る
どおん
と、花火の様なものも打ち上げられた
観客が一斉に声を張り上げる
”チャリオットレース”のスタートである
次回予告ゥ ついに”チャリオットレース”が始まった。拓真は不慣れなレースに挑む。そんな中、刺客を送り込んできたチームが発覚する。狙いは拓真達と同じく、魔法のスクロールなのか?謀略渦巻くレース会場に緊張が走る・・・”旅情編 第九幕 勝利を我が手に” でお会い致しましょう




