旅情編 第一幕 ペッスムの野望
今回から”旅情編”スタートです
魔界への入り口を探して各地を捜索していく話になる予定です
拓真は自身の第三のシモベ、”ビッグ・ダイン”内部にあるラウンジの一席でペッスムと向かい合って座っていた
現在、魔族軍が過去に展開した魔方陣の位置関係図からおおよその方向決めをする為に、大陸上空を飛行中だ
そしてその間、今まで明かされてなかった魔王ベルリムこと転生勇者”カナコ”について、ペッスムに詰問する事となったのだ
「取り合えずまぁ、最初から話してもらおうかな」
拓真は向かい合ったテーブルに座っているペッスムに話しかける
「最初から、か・・・転生勇者”カナコ”がこの世界に来た辺りから・・・」
ぽつりぽつりと、ペッスムは話し出す
”カナコ”が城塞都市に現れたのは突然だった
人族と魔族の争いが顕著になり、魔王と呼ばれる存在が明らかになった辺りだ
城塞の冒険者ギルドに優秀な戦士が現れたと聞いた
最初は「ほう、そうか」位しか思わなかったが、やがて数々の武勇伝をあっと言う間に立てた
そして城塞の我々にも一報が届く
そのあまりにも突出した戦果に驚いたギルド長が、城主へお目通りを願い出てきたのだ
初めて見た”カナコ”は見た事も無い美しい黒髪と、幼い顔立ちをした少女であった
いや、黒髪は珍しくも無かったが、その美しさが目を引いたのだ
艶と輝きが違った。そして煌めく双眼に強い意志も感じた
その時思った。あぁ、こやつは選ばれた者なんだな、と・・・
”カナコ”はその日から城主お墨付きの勇者として認定され、その活躍が始まったのだ
まず彼女は仲間を増やしていった
城塞都市お抱えのヒュム唯一の魔道士”ズンダ”
冒険者ギルド所属のドワーフ戦士”ユウゼス”
放浪のエルフ格闘家”ヤーン”
希代のホビット魔道士”ヨーディ”
空飛ぶ獣人槍使い”ホークアイ”
人族5種の中でも突出した能力を持つメンバーを集めていった
そのパーティで城塞都市を基点に、魔族軍と熾烈な争いを展開していったのだ
何時の頃だったか”カナコ”に異変を感じる様になったのは
それまでは魔族許すまじ倒すべしを標榜していたのだが、急に平和共存を訴えだしたのだ
かと思えば人目もはばからず、物思いにふける姿が多く見られるようになった
それまで順調だった魔族軍討伐も、自然と滞るようになったのだ
私は怒りに震えた
何があったかは知らないが、ぽっと出の冒険者風情が城主様のお目こぼしで勇者に成ったにも拘らずその責務を全うしようとしない!
元々部外者であった転生者として認識された”カナコ”に良い印象を持っていなかった私は、その辺りから彼女に対して憎悪を燃やすようになった
この国に暮らす人々は多かれ少なかれ、魔族になにかしらの因縁があるのだ
かくいう私も両親を魔族に殺されたクチだ・・・良くある話だ
だから尚更、”カナコ”の説く平和共存が許せなかった!
私はチャンスを待った。彼女を勇者の座から引き摺り下ろし、再び魔族殲滅へと舵を切る為に!
そのチャンスは以外に早く訪れた
なんと魔族軍の長である魔王ベルリムが所在の解らぬ”魔界”から出て来ていると言うのだ
その情報をキャッチした私は”カナコ”に討伐を命じた
断ればそれを理由にその座から追い落とし、受けても魔王を亡き者に出来る
私にとってはどっちに転んでも良い話だった
予想外に”カナコ”は魔王討伐を引き受けた
そして何故か魔王の方も報告のあった場所から動こうとはしなかった
まるで”カナコ”に討伐してくれと言わんばかりに
数日の戦いの後、魔王が討伐されその首をはねたと言う報告が入った
凱旋式典が盛大に催された
魔族の長である魔王が討伐されたのだ
これで長きに渡る魔族との争いが終結に向かうと誰もが思った
華やかな式典の影で、私は最後のツメをするべく準備に入った
筋書きはこうだ
「魔王を討伐された魔族軍の残党によって勇者が暗殺された」
なんという筋の通った話であろう
これで誰はばかることなく、あの忌々しい勇者を亡き者に出来る
魔王まで倒してくれたのだ、後は我々だけでもどうとでもなる
・・・その時はそう思っていたのだ。本当に、そう、な
手を下すのは密かに話をつけた野党崩れの暗殺者共
なぁに事が終わればクチを封じる予定の輩だ。心が痛む事もない
式典の影で粛々と作戦を遂行しつつあった私だが不安もあった
油断しているとはいえ勇者である。討ち損じはないか、と
その場合も考えていた
勇者パーティの誰かを1人、殺せば良いと
後はそれを仲間割れと称して責任をなすりつけて話を進めようと
だが予想外な出来事が起きてしまった
ヒュム唯一の魔道士、”ズンダ”を殺害してしまったのだ
よりにもよって唯一の魔道士を殺害してしまうとは
馬鹿な実行犯は即座に消した。痕跡も残さずに
だが、ここで意外な副産物も出来た
なんと殺害した”ズンダ”は、勇者”カナコ”が剣を突き刺し、殺した事になっていたのだ!
なんという僥倖。恐らくは突き刺さった剣を引き抜こうとした辺りを目撃されたか?
これでこちらの思惑通りに事が運べる
だが”カナコ”はその夜から城塞都市から、我々の前から姿を消した
私は姿を消した”カナコ”を即座に探し出し捕縛すべしと城主ガデムに進言した
だが返ってきた答えは「静観せよ」だった
なんという愚行!今を於いて”カナコ”を追い詰める機会は無いというのに!
その時から城主ガデムも私の憎悪の対象になった
コイツではダメだ。私が王と成り、民を導かねば
だがそう思うまもなく、もっと深刻な事態が起こった
勇者”カナコ”が魔王ベルリムを襲名して”魔王”になったと言うのだ
この事は城塞都市の上層部だけの極秘事項となり事実は隠蔽された
程なく魔族軍の勢いは回復し1年を経たずにこの大陸の勢力図は大きく変わり
魔族の支配域が増大した
打開策も無いまま、無為に時が過ぎていった
その時だ、新たな”転生者”としてお前、タクマがこの世界に現れたのは
私はそこでまた思案した
必ずまた大きな”うねり”が起きる。その時こそ私が立つ時だと
密かに私兵を補強し、城塞内での諸々な特権を手中に収めた。いざというときの為だ
そして新たな”転生者”のチカラを目にし、確認した時に私に閃きがあった
捕虜の魔族を利用し、魔族とパイプを作り向こうの足元を崩す
同時にこちら側の主導権を私が握り、勢いで全てを私の支配下に置く
魔道士ズンダの弟子であった今代”ズンダ”が協力を申し出て来たのはまさにそのタイミング
実に申し分なかった
魔族の捕虜を連れ出し、ズンダを配下に従え、私は私の計画の成功を確信した
だが、実際はそうはならなかった
予想を超えた魔王のチカラ、その大きさに私は圧倒されてしまったのだ
元勇者パーティの一部の者が、魔族に鞍替えしていた事なぞどうでも良い事だった
そして私はお前に助けられてしまった
いや、正確には騎士団の隠密作戦による物だったか
密かに私の私兵に紛れ込んでいたとはな
そしてお前の新たなこのチカラ・・・もはや脱帽するしかない
異世界の食べ物も飲み物もその他の品々も、私を篭絡するには充分過ぎた
魔族は今でも憎い。そしてそれを助長する奴等も同様だ
その点に関しては譲れないし譲る気も無い
この”ビッグ・ダイン”とかいう代物から供出された食料品やその他の支援物資
それによって一時的にではあるが城塞都市の人々に笑顔が戻った
そこは感謝している
だからこそ私はこの旅に同行する決心をした
お前の行く末を、未来を確かめる為に
「転生者”タクマ”よ。お前はどっちだ?」
長々とペッスムの話を聞いていた拓真だったが、この問いには考え込む
「どっちだ、なんて言われてもな」
腕を組み、目を瞑る
「正直、なんとも言えんというのが現状だ」
「ならば・・・」
「まぁ、話はまだある」
そう言うと拓真は目を見開き腕組みを解く
「最終的には、魔族は居なくなった方が良いとは思う」
「おぉ・・・」
「だから、話は最後まで聞けって・・・」
そう言うと拓真は立ち上がり壁のモニターを点灯させる。外の風景がそこに映し出される
「これは今の外の映像だ。綺麗なもんだな、この世界の風景は」
そしておもむろにペッスムに向き合うと再び座る
「雄大な風景を見ていると、自分がちっぽけな存在に思えてくる。お前はそうはならんか?」
ペッスムを覗き込む拓真。ペッスムは無言でモニターを見つめる
「・・・人族と魔族、双方には深い溝が刻まれてしまっている。共生は難しいだろう」
「うむ」
「故に、俺はこの2種族を切り離した状態に持っていきたいと考えている」
ペッスムがモニターから拓真に視線を移す
「具体的には、転移魔方陣の廃止と魔族軍の解体だ」
ペッスムは拓真を見つめ続ける
「だがそれには障害がある。ひとつは魔王の存在。もうひとつはその周辺の奴等だ」
「全員殺すのか?」
「それは・・・まだ解らん」
拓真は再び腕を組み、思案顔になる
「魔王は強すぎる。タイマン張ったとして勝てるかどうか保証は無い」
そこは前回対峙した本人がよく知っている事柄だ
「出来れば穏便に済ませたいのだがな」
「・・・出来るのか?」
「相手次第なんだよなぁ」
拓真は首をかくん、と横にして溜息をつく
「そんな訳で結構出たとこ勝負なんだ。スマンな」
「そうか」
ペッスムもそこで視線を外し目を閉じる
「ペッスム、お前さんのやった事は許せん事も多々ある。だが、それも人族を思っての事、と俺は考える」
「だから、許す、と?」
「許す許さないじゃなくってだな・・・どうしてハッキリと区分けしたがるんだかな・・・」
頭をがりがりと掻きながら、拓真はポケットからタバコを取り出した
この船”ビッグ・ダイン”内のショップから手に入れた物だ
「あぁ、こいつはタバコっていうんだ。悪いが吸わせて貰うぜ」
ラッキーストライクの銘柄の蓋を開けると一本銜えた拓真はジッポーを点火させる
「ほう・・・珍しいな、そんなカタチの火付け道具があるとは。いや、当然か」
ペッスムは興味を示すがすぐに頭を振った。もはやなんでもありのこの”船”である
拓真は火をつけたタバコを吸うと真上に煙を吐き出した
「おっと、怪我人はこういうの吸っちゃイカンのだったな。うっかりだ」
そう言いながらもタバコを消す気はないようだ。更にタバコを吸う拓真
「取り合えず暫くは俺達と行動を共にしてもらうぜ。監視つきだがある程度の自由は約束しよう」
何時の間にか用意されていた灰皿にタバコをもみ消した拓真はそう言うと立ちがる
「その中で判断してくれ。俺がしようとしている事への評価ってやつをさ」
「良いのか?」
「好いも悪いも、もう一緒の”船”に乗っちまってるんだ。一蓮托生ってやつさ」
拓真はその席を離れかける。最後にもう一度振り返り
「だからさ、もう少し肩の力抜けよ。センパイ」
人生の先輩に対してのセンパイなのか、暗に揶揄しての発言なのか
意図はつかめなかったペッスムだがその去り行く後姿を見送ると
「よかろう。この旅と言ったか。見極めさせて貰うぞ”転生者”」
ラウンジの出口でキラッセが待っていて「話、終わった?」等と話している姿を見つめつつペッスムも踵を返す
その足取りは軽かったが、その瞳はぎらぎらと輝いていた
次回予告ゥ 城塞都市テンペロストを旅立った拓真達一行だったが、魔界への道程は今だ見えず苦難の連続かと思えた。だが、魔力探知機が早くも威力を発揮。一路反応があった場所へと向かうのだが・・・”旅情編 第二幕 魔法の国” でお会い致しましょう




