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城塞都市編 第六撃 元勇者の苦悩

”人族”が”魔族”になる条件とは・・・闇落ち、悪落ち、寝返り、変心、憑依

例えは色々あるけれど、”人”ではなく”魔”に魅入られれば、さもありなん


              ~ナンジャー・ソリャ・ヘリクツ 格言集より~

微妙な空模様の午後。昨日の魔族襲撃から一日経った今日の約束の時間。指定された丘の上に向かう拓真たくまの姿があった

「いいですか、タクマさん。相手は元勇者パーティの一員だったエルフの”ヤーン”です。が、今は魔族軍四天王の1人になっています。この意味が解りますね?」

「わーってるよ。決して油断はしない。さっきから何度も言ってるじゃねぇか」

騎士団員の”煉獄のソーネ”からしつこい位念押しされた会話を思い出す

「タクマさん。これは私からです。万が一、の場合これを地面に投げつけて下さい!」

怪しい水晶の玉を手渡して、そう言ってきたのはズンダだ

「万が一、って・・・こりゃぁ、なんだぃ?」

「聞かない方が幸せです!」

んじゃ寄越すなよ!と心の中で思った拓真であったが、取り合えず持って行く事にした。手札は多いほど良いと思ったからである

「えっと・・・俺は何もねーや。ほっぺにチューしてあげようか?」

「いらん」

キラッセは下から見上げるようにして言って来たが軽くあしらっておいた。ちぇ、とか聞こえたが

そんなこんなで日が変わり、拓真は1人で約束の時間に指定された場所に到着した


「あら、時間ぴったりぃ。約束を守るオトコは嫌いじゃないわよぉ?」

先に丘の上にテーブルとイスを用意して、片足を組みながら座っていたヤーンがうそぶく

「別に急ぎの用事も無かったしな。コレ位は普通だろ」

「その普通、が出来ないオトコが多いのよぉ?・・・いや、マジで・・・」

ヤーンの返事を聞きながら、拓真は反対側のイスを手にしたが、一瞬ためらって座るのを躊躇した

「フフフ・・・何も仕掛けなんてしてないわよぉ?」

ヤーンの言葉を聞きながら、拓真は最後にホークアイから言われた言葉を思い出す

”ヤーンは感情が高ぶると別人のように豹変する。気をつけよ”

別人、ね。拓真は心の中で反復するとイスを引き、どっかと座った

「あらぁダイナミックな座り方。アナタ、タイプよぉ?」

ヤーンはくふふ、と笑いながらテーブルに肘を突き、そこに顔を乗せて此方を伺う

「別に好かれる為にやってる訳じゃない。さっさと本題に移るぞ」

「いけずねぇ~・・・そんなんじゃもてないわよ?」

最後の言葉はハッキリと言いやがった。でっかいお世話だ、と拓真は思いながら無視して話を切り出す

「まず最初に聞く。お前は何故、魔族になった?カナコもだ。他のメンバーはどうした?」

「色々、聞きすぎぃーーー!」

拓真の質問に、ヤーンは伸びをして上体を反らす。豊かな胸が上下に弾む

「早く答えろ」

そんな事より真実だ、とばかり拓真はせっつく。その様子に、ぴた、と動きを止めて拓真を見やるヤーン

「・・・そうね・・・それじゃ結論から。アナタ、タクマ、って言うんだっけ?アナタも魔族になりなさいな」

「・・・なんでそうなる。質問の答えになってないぞ」

ヤーンも開口一番、魔族への勧誘をしてきた。想像していた一手の内だ。と拓真は思う

「そもそも、”人族”が”魔族”になれるのか?お前は見た目、確かに”魔族”の特徴が見えるがどうすればそうなれるのだ?」

拓真はヤーンの額から突き出た、2本の角を見ながら問う。それに気付いたヤーンはその角を手で触りながら答える

「・・・まずはそこからね」

そう言いつつ、今度は真剣な眼差しを拓真に向けてくる


「”魔族”になるのはカンタン。”魔界”にある”魔樹”と呼ばれる木に実る、果実を口にするだけ。ね、カンタンでしょ?」

「・・・それだけのはずが無いだろう?」

ヤーンの答えには不足している部分がある。そこを問い詰める拓真

「やぁねぇ、知ってたの?」

「知らないが、その方法だと魔樹の果実を何かに混ぜたりして人族に与えれば、全ての人族がカンタンに魔族になれるだろう。そうならないということは、他にも条件があるはずだ」

「あらそうねぇ。私とした事が」

拓真の指摘に、てへぺろ、と頭をこつんとやり、舌を出すヤーン

「で、他の条件はなんだ?魔樹の果実を摂取する他に?」

「魔樹の果実は、魔界でしか食べれないの。魔界から外に出すとすぐに腐って崩れ落ちちゃうのよねぇ」

ふぅ、と溜息をつき、ざぁんねん、とこぼすヤーン

「てことは、カナコもお前も”魔界”に行き、”魔樹の果実”を口にした訳だ」

「二人だけじゃないわよ」

ヤーンの言葉にドキリとする拓真。想像していたが真実ではあって欲しくない答え。それは・・・

「他の二人・・・”残りのパーティメンバー”も”魔族”になってるわよぉ」

そう言うと、ヤーンはテーブルにセットされていた瓶から、液体をコップに二つ、注いだ

「どうぞ?」

「・・・飲むと思うのか?」

進められたコップを前に、腕を組む拓真。それを見てヤーンが笑いながらコップを手に取り、飲み干す

「・・・っぷぅ・・・美味しいのに?」

そう言うと空になったコップにもう一度、瓶から液体を注ぎ拓真に進める。最初に進めたコップは自分の元に引き寄せて、口をつける

「・・・ね?毒なんて入ってないわよぉ?」

微笑むヤーン。だが、拓真はさらに質問を続ける

「他の二人・・・そいつらも魔族になったのか。・・・何故だ?カナコもそうだが何故、そうまでして魔族になった?」

ヤーンはその言葉に視線をずらすと、コップをいじりながら口を開く

「・・・カナコは・・・ずっと悩んでいたのよ」

舌っ足らずな喋りを止め、真剣な表情で語りだすヤーン


「カナコがこの世界に”勇者”として転生してきてから、彼女はずっと悩みを抱えながら戦っていた。魔族と人族。この二つの種族が争う事の不毛さに」

その言葉に心臓がどくん、と脈打つ。拓真自身もそう考えているからだ

「そんな心の内とは裏腹に、周りはどんどんと彼女を打倒魔族の旗印として押し上げて行く。そして彼女はそんな周りの状況と、自分自身の内側の疑問に葛藤していくの」

やばい、聞き入っている。拓真はそう感じていたが、会話を止める事が出来ない

「そんな時だったわ、カナコが彼、そう”魔王ベルリム”と出会ったのは」

「先代、の”魔王ベルリム”か・・・」

拓真は息を呑む。まさかまさか・・・この展開、よくあるパターンだよね、と更に聞き入る拓真

「最初は彼、変身していたの。魔王と気付かれない様に。見た目は少年だったわ。12、13才くらいの、ね。そして偶然だった。その姿でカナコと出会ったのは」

うむむ、と身を乗り出してしまう拓真。すっかりハマってしまっている

「そして、お互いがお互いを知らないまま、二人はやがて引かれ合って行くの」

すっと、目線を引くヤーン。乗り出す拓真。・・・感情移入しすぎである

「・・・最悪の結末が待っているとも知らずに」

はぁーーーっ!と息を吐き、拓真は思わずコップの液体を飲み干してしまった

飲み、干して・・・しまった・・・

「・・・ぷっぅ、飲んだわねぇ?その水、飲んじゃったわねぇ!?」

ヤーンが吹き出し、言葉遣いが元に戻る。その言葉に内心焦る拓真。吐き出そうにも・・・

「っぐ・・・が、ぁ・・・・・」

喉の奥から、胃にかけて液体が通った後が、熱い

あまりの激痛にイスから転げ落ちる拓真。かろうじて出せる言葉でヤーンに問い掛ける

「ど、く・・・じゃ無かった・・はず・・・だ」

「そうよぉ!私達、”魔族”にとっては、ね!だけど、”人族”であるアナタ達にはちょっと、合わなかったみたいねぇ!」

熱い。喉をかきむしりながら拓真はもがく

「い・・・ったい、な、何を・・・」

「さっき、いったわよねぇ?”魔界の魔樹”その果実を使ったジュースよ!美味しいでしょう!?」

ヤーンの口からとんでもない一言が飛び出した。魔界から持ち出したら、腐って崩れ落ちるはずじゃ・・・拓真の考えに合わせた様に、ヤーンが言葉を続ける

「魔界で果実を絞ってジュースにすれば、魔界から持ち出せる事に気付いたのよぉ!果実じゃないから、魔族にはなれないけど、その代わり地獄の苦しみを味わいなさい!」

イスから立ち上がり、高笑いをするヤーン

「他にもね、魔族になる為には条件があるのだけれど・・・取り合えず、そのジュースは魔族には無害でも人族にとっては劇薬のようね?気分はどうぉ?」

苦しむ拓真を見下ろし、ヤーンが問い掛ける。虚ろな眼差しで、拓真はふらふらと立ち上がり、後ずさる

「カナコが辿った運命の話は、大体ホンモノ、合ってるわよ?これで知りたい事は全部かしら?ア・ナ・タ」

ヤーンがゆっくりと歩きながら近ずいてくる。拓真はそれを避けるように後ずさる。そして丘の上から転げ落ちた

「くふふ、どうやら”転生者”も中身までは超人、って訳じゃなさそうね?”3倍のチカラ”ってやつで、切り抜けたらぁ?」

丘の上から、更に挑発し続けるヤーン。まずい。拓真は残る意識と力を振り絞り、立ち上がる

「が~んばるわねぇ・・・」

そう言いながら、両手の爪を鋭利な刃物の如く尖らせたヤーンが迫ってくる。拓真は懐に手を入れ、ズンダから渡された水晶を取り出した

「?・・・それって・・・」

ヤーンがそれを確認する間に、地面に叩きつける。瞬間、閃光と共に周囲が炸裂する

「きゃっ!?」

ヤーンがそれを察知して、飛び跳ねて回避しようとする。だが、炸裂した爆風が身体ごと遠くへ弾き飛ばした。回転しながらも、なんとか足場を確保して四つん這いになり、周囲を見渡すと

「っく!ヤツは!?」

光を放った当の拓真を探す。と、遥か上空に弾道ロケットよろしく、尾を引いて飛び上がっていく拓真を発見した

「あ、あんなトコロに・・・!」

驚くヤーンの視界に、その打ち上げロケットになった拓真に急接近する影が写った

「ホークアイ!」

打ち上げられた拓真を、空中キャッチよろしく抱きかかえたホークアイは、そのまま旋回して集落”ヘローン”の方角へ引き返していく

「ちっくしょう!あんな逃げ方があるなんて!」

恐らく飛び上がった拓真も無事では済むまいと感じていたが、確認する術が無い

だが

「まぁ、いいわぁ。あれで命を落とすようなら、それまでのオトコ、ってことねぇ」

ヤーンはそう呟くと右手の人差し指を唇に当てて、くふふ、と笑うのであった

「カカカ・・・ワシじゃ、ホークアイじゃ。ズンダの万が一の切り札によって、絶体絶命の危機から脱したタクマだったが、ヤーンの策略により魔界の毒をその身に受けてしまった!その隙を狙って魔族は再び襲撃してきた!立ち上がれタクマ、頑張れタクマ!皆がお前を待っているのだ!次回、城塞都市編 第七撃 拓真死す!で再び会おう!ナニ?拓真が死んだら、またボッチって?カーーッツ!」

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