さらば俺のナンバー1
「答えろ、タクマ!返答次第では只では済まんぞッ!」
魔族のラーセルスへの一撃を防がれた事もあって、騎士団団長サリオは物凄い剣幕で拓真にその剣先を突き付ける
「確かにあの赤いバイクは俺のシモベの一体だが、城塞都市の一件は誤解だぁ!」
今にも首元をえぐりかねない剣先にビビりながら答える拓真
「誤解だと!?」
なおも凄むサリオに対し、キラッセなどは顔が真っ青で動く事も出来ないで居る
「お待ちください、サリオ様!」
修羅場ラバンバに、強い口調で止めに入ったのは長老のコウズだ
「長老、返答次第ではこの集落全体の問題となるぞッ!」
厳しい態度を崩さないサリオに対し、諭すようにコウズは語り掛ける
「城塞都市での一件、双方に誤解が合った為と解釈しております。何せそこなタクマは”転生者”でしてな」
「なんだとッ!?」
初めてサリオの視線が外れ、コウズに向けられる
「あれ、長老、なんで、その事を・・・」
”放浪者”としてしか身の上を説明して無かった筈なのだが、コウズは拓真を”転生者”として断言したのだ
「よいタクマよ。お主が”放浪者”と名乗ったのは”転生者”である事を隠す為であろう」
そう言うとコウズはうんうんと頷く。この爺さすがだな、と拓真は思う
「・・・成る程、事情は概ね理解した。”転生者”であれば話が変わって来るな」
そう呟くとサリオは剣先を下ろし、腰の鞘に収めた。どうやらサリオも”転生者”については事情を知っているらしい。取り敢えず危機が去ってほっとした拓真。そこへ3人の騎士団員が近づいて来た
「団長!」
「大丈夫ですか」
「お怪我などは」
口々に団長のサリオへ声をかける。サリオがその三人に、片手を上げて制止を入れると
「紹介しておこう。この3人は私の直属の部下、”炎の3騎士”だ」
そう言ってサリオは3人を紹介する。3人は兜を脱ぎつつ自己紹介をして来た
「炎の3騎士が一人、”爆炎のミース”だ」
紅いセミロングの女性だ
「同じく”焦熱のセイム”」
銀髪のショートヘアーのこれまた女性だ
「”煉獄のソーネ”である」
黒髪ロングのこれまた女性である。・・・どうでもいいがその2つ名はなんとかならんか、と拓真が思っているとサリオがコウズに話し掛ける
「長老、今後について色々取り決めたい。すまないが休息と滞在の許可を頂きたい」
「それはもちろんですじゃ。それでは皆様、こちらへどうぞ」
コウズは騎士団員を監視所の小屋へ案内する。その間に、連れて来ていた他の団員達へ3騎士のミースが休息等の指示をだしている
「タクマといったな。貴殿にも話がある。一緒に来てもらおう」
サリオが一度立ち止まり、拓真を見やって声をかけた。先程の剣幕は大分収まってるようだ
「へい、へい・・・」
やれやれ、といった感じで後に続く拓真。すると後ろから脇腹をどつかれる感触がある
「綺麗な女の人ばっかで、にやけてる・・・!」
振り返ると、キラッセが物凄い顔つきで拓真を睨んでいた
「ナマいってんじゃないの」
そう言うと拓真はキラッセの頭をぽん、と叩いて後を追うのであった
「それでは今代の”魔王ベルリム”がここに現れて、タクマを仲間に勧誘したのだな」
昨夜の魔族軍の襲撃に関するあらましを具体的に聞き終えたサリオは、そう言って確認を取る
「そのようですじゃ。わしはその場におらなんだで、この話はまた聞きですのじゃが・・・」
そういってコウズは拓真を見やる。うんうんと頷く拓真。ふむ、と納得顔のサリオは話始める
「今代の”魔王ベルリム”、彼女は3年前にこの世界に現れた、”転生者”にして”勇者”の成れの果てだ」
やっぱりか。拓真は自身が想像していた結論が正しかった事を確認する。それが何故・・・
「詳しく話そう。この話は実は国内でも秘匿扱いになっているのだが・・・もはや隠す必要もあるまい」
そういってサリオは3年前にこの世界に現れた”元・勇者”=”現・魔王ベルリム”の話を始めた
「3年前、この世界に現れた”現・魔王ベルリム”・・・当時は”カナコ”と名乗っていたが。彼女は現れると同時に、城塞都市でめきめきと頭角を現し、あっと言う間にこの国の英雄”勇者”にまでに駆け上った」
以降サリオが語ったあらまし
○ 勇者まで上り詰めた”カナコ”は城塞都市”テンペロスト”に止まらず、周囲の5種の人族にも勇名を馳せる
○ 自身を核とし、人族5種からなる混成パーティを結成する
○ パーティ活動を主に、各地で猛威を振るっていた当時の魔族軍”先代魔王ベルリム”との戦いを始める
○ 2年程の戦いの果てに、”カナコ”は”先代魔王ベルリム”を打倒、魔族軍を崩壊させる
○ その後の凱旋式典の後、突如として”先代魔導士ズンダ”を殺害し、行方をくらませる
○ 半月もしないうちに崩壊したはずの魔族軍を再建し、今代の”魔王ベルリム”として姿をみせる
○ その後、再建した魔族軍を率いてたった1年でこの大陸の半分を手中に収めた
○ そして現在も魔族軍との争いが続いている
・・・なんともまぁ・・・映画が一本出来そうな内容だった
「何故”カナコ”が勇者から一転、魔王なんぞになり下がったのか・・・なんか理由があるんだろ?」
しん、となっていた空気を一変するように拓真が問いかけると
「当時の主だった者に話を聞こうにも、パーティを組んでいた他の5種の人族は、凱旋式典の後に”カナコ”と同じく各地の故郷に雲隠れしている」
だん、とテーブルを叩くサリオ。そして呟くように言葉を吐き出す
「我々ヒュム族のパーティメンバーである魔法使い”先代ズンダ”様は殺害され、話が聞けぬ」
「・・・弟子、の今代の”ズンダ”様には聞けんのかね?」
拓真がそう問いかけると
「今代の”ズンダ”様は・・・何故かその事に関しては知らぬの1点張りだ。真相は分からぬ」
「・・・ふぅん」
拓真はそう言うと腕を組み思案した。どういう事だろう?知らないはずはないのだが・・・と
「だが最早理由など、どうでも良いのだ!」
サリオはそう言うとすっくと立ちあがる
「魔族軍は、人族を殺害しすぎた。この国の半分が奴らの手中に落ちるまで、どれだけの血が流れた事か・・・最早お互いに引くに引けない状況なのだ!」
そういうと拳を握り、グッと下を向いて何かをこらえる。色々、あったっぽいな・・・
「・・・タクマ」
「ん?」
「貴殿は、新しい”勇者”なのか?それにしては随分と年齢が上のようだし、特別な力があるようにも見受けられないが」
急に話を振られたと思ったら、いきなりディス (ディスリスペクト=侮辱する) りかよ!
「あ、いや、あの変わった形の”ゴーレム”を召喚出来るのだから、それなりだとは思うのだが」
はいはい、悪うござんしたね、大した力がなくて、と思いつつも拓真は
「いや、俺は”勇者”として呼ばれたんじゃない。”救世主”としてこの世界に来たんだ」
と答える
「”勇者”と”救世主”・・・とは、違いはなんであろうか?」
もっともな質問を返されて、拓真も返答に困窮する
「んん?う~~ん・・・俺もよくわからん。この世界に来る前にそう言われただけだから」
「それは、それを言ったのは、神、なのか?」
「どうなんだろうか?正直、神ともいえるしそうでないとも言えるし・・・分からないと言うのが答えだな・・・正直、スマン」
押し問答みたいになってしまったが、これ以上言いようがないので拓真はそこで話を切る
「兎に角、そう言う事だからタクマには一度、城塞都市”テンペロスト”まで一緒に来て欲しいのだ」
・・・サリオさん、ちょっと何言ってるのかよく分からないです、と思う拓真をよそに、城塞都市”テンペロスト”に行く話が決まりそうだ
「出来れば、城主とお目通りの後、”ズンダ”様とも会って欲しいのだ」
ん、今代の魔法使い”ズンダ”様か。確か、この国唯一の魔導士だったか。確かに、話は聞きたいな
「・・・タクマ、行くのか?」
城塞都市”テンペロスト行に拓真も納得しかけた時、横にいたキラッセが不安そうに尋ねてきた
「ん?あぁ、そうだな・・・行かなきゃならんだろうね・・・この流れからして」
「俺も、一緒に行っていいか!?」
ありゃぁ、そう来たか。そう来るか。そう来るよね。昨夜の”ほっぺにキス”以来、そういう風に見られているかな、とは思っていたが・・・
「同行か?遊びに行くのではないのだぞ」
釘を刺すサリオにグッと涙目になったキラッセは、部屋を飛び出して行ってしまった
「キラッセ・・・」
善は急げと言う事で、その日の午後に出立の運びとなってしまった。荷造りを終え、といっても拓真には大して荷物は無いのだが。破損したままではあるが、バイク・モードのスモルガーに荷物を括り付ける。そこに近づく数人の影
「タクマ」
声をかけて来たのはカイムだ。隣には長老のコウズ、そして”ナンバー1”のケリスがいる
「よう、見送りか。わざわざ、すまないね」
そういう拓真にカイムが肩を叩きながら言う
「短い間だったが、お前の事は忘れないぞ」
「こっちもだ。色々、世話になった。コウズも、そしてケリスさんも。ありがとう」
そういってにっと笑う拓真。俺と一緒に・・・等と思っていると
「俺も、これで決心がついた。これからはケリスと一緒になって、この集落を盛り立てていくよ」
・・・はい?今、なんと・・・
「タクマ、色々ありがとう。私、カイムと一緒になってこの集落で頑張るわ」
トドメの一言がケリス本人から告げられる。・・・そーですか、そぉーーですか、いつの間にか・・・いや、元々そう言う事だったのね・・・と心の中でアメリカン・クラッカーみたいな涙を流していると
「タクマや・・・キラッセの事なんじゃが」
コウズが話をふってくる
「彼女も両親を魔族軍に殺されておっての。身寄りが無いんじゃ。今は集落の外れに一人で住んでおるはずじゃ」
ぇ~~、今、そう言う話をする・・・拓真が打ちひしがれた心で聞いていると
「お願いタクマ、キラッセを・・・」
「俺からも頼む、タクマ」
新婚さんに更に念を押されてしまった。ふーーーーっと、心の中で盛大な溜息をつく。キラッセって、年幾つなんだろ。17~18位か?高校生、ってやつか・・・親子、みたいなもんか?と拓真は思う
「後は、本人次第だが・・・どこにいるんだぃ?」
拓真がそう言うと
「さっきから姿が見えないのよ」
「どこかにいるとは思うが・・・」
口々にそう言って、周りを見渡す。近くには居なさそうだ。そこにサリオがやってきて声をかける
「そろそろ出発するぞ、タクマ。準備は良いか」
「あぁ、こっちはオーケィだ。何時でもいいぜ」
そう返事を返すと、サリオは長老のコウズに向かい
「それではタクマと一緒に行きます。魔族の捕虜ラーセルスと、街道にあったドラゴンの首を頂いていきます」
そう告げると、踵を返し
「全軍、出発!」
と号令をかける。切り取られ荷車に乗せたドラゴンの首と、見世物みたいな捕縛姿のラーセルス等を乗せた騎馬軍が、がしゃがしゃと動き始める
「タクマ・・・!」
話し掛けてくるカイム達に向かい、拓真は
「おっと、そうそう忘れるところだった」
そう言うと、用意してあった第二のシモベ”ミドルオー”のインカムをカイムに投げ渡す
「!・・・これは?」
受け取り、訝しむカイムに
「新婚さんへのプレゼント、だ。そのインカムを使えば表の”ミドルオー”に指示が出せる。ちゃんとカイムの指示に従うようにしといたから」
「タクマ・・・!」
「んじゃ、頑張れよ。俺もいってくらぁ」
そういってっ拓真はスモルガーに跨ってエンジンをスタートさせる。わざと大きくアクセルを吹かしてその場を離れた
「さらば俺のナンバー1・・・」
発進した後に、カッコつけたことを若干後悔する拓真であったが、今更どうでもいいか、と考えていた。エンジン音を低音にして団長の騎馬の横に張り付く
「途中で、夜間になりそうだ。野営などをするからそのつもりで!」
馬上からそう声をかけられた拓真は、了解、と相槌を打つ。と、街道沿いの丘の上に人影を発見してしまった。・・・キラッセである
「アイツ・・・」
遠目にもいじらしい感じで、ただ突っ立っているのが判る
「・・・タクマ、アソコに見えるのはキラッセ、とかいう少女では無かったか?」
そういうサリオに拓真は
「悪いな、団長!追加だ!」
そう言うと、拓真はアクセルを吹かし、キラッセの元へ走り出す。そして丘の上、キラッセの傍まで来ると、がきがきとロボット・モードに変形する。驚くキラッセ
「タクマ・・・」
「キラッセ!コイツの頭がなくなって、背中が寒いんだ!風よけになってくれないか!」
そういいながらスモルガーの腕を差し出す
「・・・ばか!」
そう言いつつもキラッセは拓真の方へ、飛びついていくのだった
集落フロスト編、完結です




