俺と目標と魔族軍の切り札
ゴールが見えない目標は、回し車を回すハムスターの如きである
~モットーモ・ナ・ハナシダ名言集より~
一日の開拓作業を終えた拓真は、バイクモードにしたスモルガーを疾走させながら思案する
「カルマ値って貯まってるのかどうなのか、分る方法は無いものか・・・」
「ぇー?なにー?」
思わず声に出ていたのであろうか。背中に張り付いていたキラッセが声をかけてくる
何でもないと声をかけてから拓真はスモルガーのコンソール類に目を落とす。辺りが大分暗くなってきたこともあって、照明類を点灯させたらカイム達に驚かれたのを思い出す
「俺の考えた性能が反映されているなら、こいつはAI(人工知能)あーてぃふぃしゃる・いんてりじぇんす?だったか・・・が内蔵されてるんだったよな」
急に気になって、スモルガーを停車させた拓真に、訝し気にキラッセが背後から覗き込む
「マジでどうしたのさ?お腹痛いの?」
「お腹は痛くない。ちょっと気になってな」
そう言うとコンソール類に目を走らせ、あちこち触りまくる。タッチパネルの様な画面がメニューのようなものに変わった
「おー、なんだそれすげー」
夕闇に光るバックライトで発光するタッチパネル画面にキラッセが目を輝かせる。その視線を無視して”音声ガイダンス”と表示されている部分を押す
ぽん
と音がして
「オンセイ ガイダンスガ ジッコウ サレマシタ ケンサクシタイ ワードヲ ドウゾ」
機械音的な女性の声で音声が響く
「すげぇーしゃべったあ!」
「しっ、黙ってろ」
驚くキラッセを窘めると、液晶パネルに顔を近づけ拓真は質問する
「カルマ値について説明してくれ」
「カルマチ カルマチトハ コノセカイ デ ゼンコウ ヲ オコナウコト デ テニハイル スウチ デス」
「現在のカルマ値はいくつだ」
「ゲンザイ ノ カルマチ ハ モクヒョウチ ノ 10パーセント デス」
機械的に流れてくる音声を聞き終えると、拓真はふぅと溜息をついた
「10パーセント・・・!半日作業を手伝ってこれか・・・100%いくにゃこれを少なくても10日やれってことか」
そこまで考えて、あれ?と思う。魔族軍撃退の分は?と
「10パーセントの内訳を教えてくれ」
「マゾク グン ゲキタイ 7パーセント カイタク サギョウ 3パーセント ゴウケイ10パーセント デス」
「まじか・・・!」
開拓作業で3パーセント。この数値は低すぎる。少なくても1か月はかかりそうだ。そんな思いを抱いていると音声ガイダンスが更に言葉を発した
「ナオ ドウイツ コウモク デノ カルマチ ハ ニカイメ カラハ 1パーセント ニ ナリマス」
「・・・なんだと?」
つまり開拓作業を続けても100パーセント達成には4か月程かかる計算に・・・休みなく続けて、である
「ざっけんな・・・」
小さく悪態をついた拓真は液晶パネルに問う
「効率よくカルマ値を稼ぐには、どうすればいい?」
「ゼンコウ ヲ ツンデ クダサイ」
「がーっ、それしか言えんのかぃ」
液晶をぱんぱん、と片手で叩くと音声ガイダンスがリピートされる
「ゼンコウ ヲ ゼンコウ ヲ ゼゼゼゼ ゼンコウ ヲ」
「どこのラッパーだよ!」
妙にリズムに乗ってリピートされた音声に向かって悪態をつく
「なぁ、もう行こうぜ。俺、腹減っちゃったよ」
「あー・・・分かったよ」
つまらなそうにしていたキラッセの声をきっかけに、拓真は再びハンドルを握りスモルガーを走らせる。頭の中ではカルマ値どうすんだよ、とむしゃくしゃしたままであるが
魔族軍の再襲撃が発覚したのは、長老の屋敷に戻り食事をとってる最中だった
かんかんかん かんかんかん
闇夜に響く、木の板を打ち鳴らす警報の音
「魔族軍だーー魔族軍がきたぞー!」
外から聞こえる見張りの大声と、集落の人間が動き出す慌ただしい気配
「ち、奴らもう来たのか!」
食べかけのパンを口に突っ込むと、拓真はヘルメットを持って外に出る。後を追うように同席していたケリスと長老のコウズが外に出てくる
「タクマさん・・・!」
心配そうに声をかけてくるケリスに向かい、口にしていたパンを片手で取ると声をかけた
「任せとけ、昨日の奴らなら俺一人でも撃退できる。けど、万が一を考えて準備だけはしてくれ」
「万が一、って・・・」
「逃げるって事も、考えておいてくれ」
そこまでいうとスモルガーに跨り、拓真はアクセルを回した。万が一・・・昨日の連中が無策で再襲撃して来る訳が無い。何か策を講じて来たのだ。拓真はそう感じていたのだ
「来たか」
集落の前に陣取っていた四天王の一人であるラーセルスは、集落の奥から見えるヘッドライトの光を見てあのゴーレムが来たのを感じていた
暗闇に眩いばかりのライトを照らして迫りくるスモルガーに、松明でしか明かりを持っていなかった魔族軍や、集落の人間からは驚きの様子が伺える
「何から何まで規格外のヤツよ・・・」
そう呟くと懐に手を入れ、”ドラゴン”召喚用の魔法石を確かめる
「ククク・・・これさえあれば・・・」
「なんだ、奴ら昨日より数を増やして来ただけか」
集落入り口に停車した拓真はライトと松明の明かりに照らされる魔族軍を確認すると、先に来ていたカイム達集落の男達に声をかける
「おうタクマ。来てくれたか。そうなんだ奴ら昨日より数が多い。暗くてよく見えんが、昨日の倍はいそうだ」
カイムがそう言いながら魔族軍に目をやる
「そっか、それなら昨日と同じでこいつを奴らに突っ込ませて、終わりだな」
ぽんぽん、とスモルガーのボディを叩いた拓真はそう言ってカイムにウィンクする
「そうだそうだー!突っ込ませて終わりだー!」
そう声が上がると背後からどすん、とキラッセが飛び乗ってきた
「うわ、おま、降りろって!これから闘い・・・!」
背後から抱きつかれ、スモルガーから降りるタイミングを無くした拓真は慌てる。その間隙を狙った訳ではないだろうが、魔族軍の進軍と攻撃が始まってしまった。モンスターの唸り声と共に、弓矢や投石が飛んで来た
「わ、ほら、敵の攻撃が!って、おい、こら、もう、知らんぞ!」
そう言うと拓真はアクセルを回しウィリーで前線に踊りだすと、素早くロボットフォームに変形する
「うわー、いててててて!」
「我慢しろ!俺だって、いてててて!」
スモルガーに跨ったまま、バイクフォームからロボットフォームに変形した事によって、座席ごとスモルガーの内部に納まる形になったが、スペースがあまり無くかなり窮屈な姿勢を強いられる
「ぐあーいててててて!こうなったのもキラッセ、お前が悪いんだからな!」
「いてーいてーしぬーぅ」
背中でうんうん唸っているキラッセを尻目に、拓真は正面のモニターを見る
「くっそ、夜中だし外からの指示と違って、周りが良く見えるのは良い事なんだろうが」
前衛に来ていたゴブリンやオーガなどの、モンスター群を蹴散らしながら拓真は指揮官を探す
「いた、アイツか」
分かりやすく軍の中央に御輿玉座に乗った指揮官、ラーセルスを発見した
「おい、そこの!魔族軍の指揮官と見た!大人しく撤退するかこのスモルガーにやられるか、どうする!」
外部に響くスピーカー音声で指揮官らしき人物に話しかける。すると、魔族軍の指揮官らしき人物は立ち上がり
「お初にお目にかかる。我は魔族軍の四天王の一人、ラーセルスだ。貴公の名前を伺おう!」
声高に名乗りを上げる。ほぉ、と拓真は思い、それならばと応じる
「俺は拓真。この世界を魔族軍の魔の手から救うものだ!」
「!・・・大きく出たな、タクマとやら。魔族軍に立て付いた事、後悔するぞ!」
「どうする?昨日みたいに尻尾巻いて逃げかえるか!?」
軽く挑発すると、背後から声がかかる
「ダメだよ!あいつ等は全員逃がしちゃダメだ!あいつ等、全員・・・」
キラッセはそこまで言うと最後の言葉を飲み込んだ。恐らく口にするのを躊躇ったのであろう。想像はつくが
「キラッセ・・・」
その内情を気遣って拓真が声をかけると狭い中、更にぎゅうと拓真にしがみつく
「はっ!調子に乗るのも今の内だ!これを見ろ!」
ラーセルスは懐に手を差し入れると、魔法石をとりだして掲げた
「なんだぁ?あれが奴の切り札か」
訝しむ間もなくラーセルスは叫ぶ
「出でよ、古より続く破壊と混沌の象徴よ!”ドラゴン”」
掲げた魔法石をそのまま地面に投げつける。地面にぶつかったと思った瞬間、そこから禍々しい光があふれだした
「・・・ッ!なんだ!?」
その光に拓真が反応した直後、光の中に影が現れる。その光が徐々に収まるとそこに残ったのは4足で地面に立ち、大きくもたげた首がこちらを見下ろす形の、全長20メートルはあろうかという長大な生き物
「これが・・・奴の切り札の・・・」
「驚け!ドラゴンである!」
勝ち誇ったような顔で宣言するラーセルス。
ぐばおおおおおおん
マンガやアニメでしか見たことが無い、伝説の生き物が咆哮する
その巨大さに圧倒されつつ、拓真は思う
「こいつぁ・・・すごいぜ」
万が一、が現実味を帯びてくるのを感じずにはいられなかった
モットーモ・ナ・ハナシダ 名言集は、現在絶版でございます




