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不同分开神話  作者: 帳®
3/4

殿

内容が薄い

心は候へども、神々の集うしんがりのみや



黄金の稲に包まれた丘と1本の道が真中を通っている。

空は朱色に輝き、日は赤黒く沈む。

辺りは小さな民家が幾つか建ち並びお世辞にも潤いと言えるものがない立地。


そこに一騎の馬車が通る。

1つの家屋の前に止まると、台車から鳳凰が降りてくる。


鳳凰「…」


鳳凰がローブに全身をくるんだまま辺りを見渡し目の前の家屋の扉をノックする。

鳳凰は暫くして台車の中の様子を見ていると、反応のないことに気づきまたノックする。

暫く待つと室内で急ぐようにバタバタと音が聞こえる。

扉が勢いよく開くと、白衣に身を包んだ人影が出迎える。


「はいよぉ、なんでしょ…って鳳凰!?」


扉を開けた人物が鳳凰の顔を見るや否や驚いた様子で見つめる。


鳳凰「…久しぶり。今日はまあ…患者だよ」


「患者…なに?戦争でもしてんの?」


男がきょとんとした顔で尋ねる。


鳳凰「まさか。それよりこっち、一刻を争うっていうか貴方にしか治せないっていうか、そんなもんだよ。神農。」


神農「そう…じゃあ単なる怪我じゃなさそうだな…症状は?…ていうより、見た方が早いか。中に連れてけるか?」


この人物は神農。かつての戦、涿鹿の戦いの炎帝族の祖先にして1代目党首。

かつて五穀大帝、炎帝、薬王大帝と様々な二つ名が与えられ、三皇の1人に連なる貴神。


鳳凰「…わかった」


鳳凰は台車に戻り、中から獬豸を抱き抱えて神農の家屋へ入っていく。

家の中はかなり質素。建築素材と言えば低質の木材とワラだけで出来ているんじゃないかと言うほどのもの。

中はほぼ吹き抜けており朱色の光が家中を照らし明かす。


神農「さっ、もう少し奥かな」


鳳凰は黙って獬豸を持ち神農についていく


神農「この扉の奥…っと、じゃ、そこに置いて」


神農が部屋に入ると鳳凰を部屋の隅にある絹の織物の台に誘導する。

鳳凰は担いでいた獬豸をそこにおく。


神農「ほーんじゃ、診てみましょ」


神農は織物の台の上でピクリとも動かずにいる獬豸に手を伸ばす。


鳳凰「…神農、その手は… 」


鳳凰が神農の左手を指差す。

その手は指の第一関節先が無い、というより指が金属の針のようなものにすげ変わっている。


神農「あぁこれ。ま、諸事情」


神農は口を紡ぐように言う。


神農「さて、そんなことより治療だ。

…悪いけど、鳳凰は部屋から出てもらえるかな。…あ、あとそれと、誰か訪ねてきても、知人以外、追い返してくれ」


鳳凰「ん?んん…」


鳳凰は神農に諭されて部屋を出ていく。

部屋は神農と獬豸の二人きりになる。


神農「…情か」


・・・場所は移り、黄金の草原。土壌。空に包まれその中にひとつ、小さな翡翠の湖。

そこに多数の亀が跋扈し、湖のそばに座し膝下を水中に浸けている。


半透明の織物の布を身にかぶせ、そこから透き通って見える煌びやかな鮮緑の長髪に黄金の光が写り込む


「…君が来るとは予想外と言えば予想外だったね…上の命かい?八咫烏」


この男の後ろに、睨む様な目付きで立っている人影がいる。

八咫烏。又の名を三足烏、金烏と言い、瑞獣の一員。

黒髪の長髪に襟足から先は結び、結いた先は大きな鴉の羽で括り結わえている。左手と両足のみが鳥類の其れに成っている。


八咫烏「いえ、…僕の独断です。霊亀さん」


そしてこちらの緑髪の男は霊亀。八咫烏と同じく瑞獣に属し巷では「大地の副産物」と謳われ四霊に数えられる。


霊亀「ふふ…僕は仕事に引き戻すつもりなら無駄なんだよ。それにもう、四霊は瑞獣に無いに等しい」


霊亀は膝下に漂ってきた1匹の子亀を手ですくい上げ甲羅を撫でる。


八咫烏「…っ…分かるように言ってください」


霊亀は若干驚く八咫烏に顔も向けず話し始める。


霊亀「確か…そっちでは『初代』の鳳凰と麒麟が、2代目の遠征に急遽臨時で務めさせてる…って状況だったね。」


八咫烏「…」


霊亀「君らのせい…とは言わないけれど、現役を外し先代を無理やり引っ張り起こす愚行。…ま、それは二の次、本題は…応龍だ」


八咫烏「…何故、応龍さんが?」


霊亀「…四霊の1人が内側から消された時点で瑞獣に四霊は無い。

それに…応龍なしで僕の役割も完璧に出来る訳でもない」


八咫烏「でも…」


霊亀は溜息をついて撫でていた子亀を湖に戻す。


霊亀「僕はここを動かない」


…その場で目を瞑る霊亀。

その瞬間、霊亀の耳横で風が切れる音が鳴る。


霊亀「ん?」


霊亀が顰めっ面で目を開けると八咫烏が手に持っていた錫杖を霊亀の顔横に突き付けている


八咫烏「…変更です。これから貴方を連れ戻す事案を僕個人ではなく『瑞獣』としての任に移します」


霊亀「つまり」


霊亀が不敵な笑みを浮かべる


八咫烏「貴方を力づくで連れ帰ります。」


八咫烏が霊亀を睨むと、突きつけていた錫杖を霊亀の頭部へと振り抜く。


八咫烏「っ!」


錫杖を振り抜いた途端、霊亀が八咫烏の視界から消える。

振った勢いと手応えの無さから八咫烏はよろつく。


八咫烏「どっ…なに!?」


体勢を持ち直した八咫烏は辺りを急いで見渡す。


八咫烏「…!」


見渡してもどこにも霊亀が見当たらない。

暫くすると、湖の中から気泡が湧き出る。

まさかと思い八咫烏が湖の水面に近づくと、その瞬間水中から腕が飛び出し八咫烏の脚を掴み水中に引きずり込む。


八咫烏「あっ…わぁっっ!?!!」


滑り込む様に湖に引きずり落とされる。

翡翠の雫が飛び散り黄金の光が優しく乱反射し、妖艶な烏の転落を見せる。

すると水中から霊亀が頭から勢いよく飛び出ると犬のように頭を振り水を飛ばす。

岸に上がり結いた襟足を絞る。

すると八咫烏が水面から飛びて起きる。


八咫烏「ヴェ…あはぁ!!はっ……げっは…」


八咫烏が咳き込みながら目に垂れた前髪を払い、顔についた水を手で拭う。

霊亀「まさか、ほんとうにするとはおもわなかったよ、君、そんな子だったっけ?」


岸辺で中腰になり湖でびしょ濡れの八咫烏を見下ろす。


八咫烏「…」


八咫烏が落ち込むように顔を落とす。


霊亀「差し金って訳じゃなさそうだけど、何故そんなに?」


八咫烏は顔を上げる


八咫烏「…貴方が居ないことが怖かった…」


八咫烏は顔を再び下ろし、水面に映る己の顔を見つめる。

霊亀は溜息をつき、その場にあぐらをかくと、湖の中にいる八咫烏に手を伸ばす


霊亀「君らが…この世を捨てない限り僕は誰の手にも届く場所にいる」


霊亀は指をクイッと動かし八咫烏に手を掴むよう誘導する。

八咫烏は黙って手を掴み岸に引き上げられる。


霊亀「僕らにはまだ役目はある…応龍もそれに今頃取り掛かってるだろうか…」


八咫烏が水を拭うと、疑問に思ったように霊亀の発言に反応する。


八咫烏「僕…ら……とは?」


霊亀の動きが止まる。

暫くすると霊亀が正気の抜けたような顔で八咫烏の方を向く。

八咫烏はその顔を見て少し怯える素振りを見せる。

すると霊亀が先程とは比べ物にならないくらい低いトーンで答える


霊亀「四霊」


八咫烏「…?」


霊亀「四象白虎の襲撃被害、この事案はこれからの事を大きくする促進剤になる。今、一番遅れているのは瑞獣だ」


八咫烏「どういう…?」


霊亀「…僕の口から出るものは答えじゃない。

例え仮定の話であれば尚更………。

話はここまでだ。僕はいつでもここにいるから、遊びに来る程度にまた来な…仕事は、もう僕がいなくても出来る筈だ」


八咫烏に帰るよう促す霊亀。

渋々、納得の行かない様子で霊亀に背を向け、帰ろうとする八咫烏。

ここでまた、霊亀が思い出したかのように口を開く。


霊亀「そう…仮定の話と言えば、確証は不十分だけど獬豸には気を払ってな。

僕から見ても彼はとても危なっかしい」


八咫烏は一瞬立ち止まるが、何も言わず振り向きもせず、黄金の霧の中に消えていく。


霊亀「…ダメかな」



遅くなったよ

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