一章 某の瑞
前回のプロローグから真章突入しました其の一章でございます
ご覧あれ
語られずの史実。
この大地は二つに分かれ海に囲まれる
此処は片方の大地の獣住む山岳地帯。
人里離れ多くの神獣が集う。
「今日もか…面倒だな」
九つの黄金の尾を蓄え黄金の毛髪に白銀の仮面から白銀の布を垂らしている男がその山岳に見える建物らしき影へと向かっていく。
その隣に、長身ながらも同じく九つの黄金の尾を持つ黄金の毛髪の男。
見かけは同じながら仮面はつけていない。
「最近乱れてますからね、分からないと」
どうやら、喋りから見るに仮面をつけていない男はもう片方の男の部下のようだ。
「でも治るような代物じゃないだろがよ…」
仮面の男が建物の扉を開け、中に入る
「じゃあ、私はここまで」
仮面をつけていない方の男が扉の前にとどまる。
建物内に入ると、白い床に白い壁に包まれている廊下に出る。廊下のところどころに別れ道のように扉があり宿屋の様に成っている。
仮面の男は廊下の奥へと進み突き当たりの部屋へ入ると、薄暗く1つの巨大な円卓のあるだだっ広い部屋に着く。巨大な円卓に似つかず、それを囲む人数はほんの4人。
「…他の奴らは?獬豸」
仮面の男は扉から一番遠くの席に着くとそこから1つ席を空けたところに座っている水色の長髪の女性らしい顔つきの者に尋ねる。
獬豸「まあ、無断欠席だいつもの。そういう貴方は遅刻じゃないか、白面の金毛さん。」
この者が嫌味混じりに言ったように、仮面の男の名は「白面金毛九尾の狐」。勿論固有名詞ではないがこう名乗っている。
白面「しょうないだろ。九尾狐の奴が残りもんばっか渡してきやがるから」
九尾狐、建物の扉の前で立ち止まった者の名前だ。
獬豸「言い訳無用・・・とにかくですが」
獬豸が話を急かす。
白面「わぁーってら。応龍のことだろ。未だ見つからんって・・・死んで今頃土の中じゃないのか?」
応龍とは、四霊に属し涿鹿の戦いという太古の戦にて不死身の兵神蚩尤を討ち取った神獣である。
獬豸「それはない・・・だとおもう」
獬豸が向かいの白髪の男に目を向ける。
目線の先の彼は玉龍。竜族の3番手の地位を持ち、現代では三蔵某と旅をしたことで有名な龍である。
玉龍「そうすねぇ・・・龍の死は龍同士で共鳴するもの。それがないということは彼はまだこの大地に立っているということになる」
白面「じゃあ・・・妖も神もかき集めて髪の毛1本も見つからないのはどうする?」
白面金毛が玉龍を問い詰める
玉龍「相当な技術の隠れ蓑。もしくは高貴な神の加担も有り得るかと」
白面「高貴・・・というと?」
玉龍「三皇及びに五帝、そしてそれに準ずるものと」
白面金毛が溜息を着く。
しばらくの沈黙が続くと
白面「しかし、まあなんだ・・・俺の頭の中は諦めの字があるが、それを言ったら許してくれねえんだろうな」
白面金毛が愚痴るように頭を抱える。
そこで獬豸が口を開く
獬豸「いや、いいよあきらめても」
白面「ん?お前からその意見とは又意外」
獬豸「別に、言ってくれても批判はするけどここの主導権は貴方にある。決めたいなら決めればいい」
白面金毛はそれに少し悩むように頭を掻き始める。数分また沈黙が続く
白面「・・・わかった。じゃあやめだやめ。これ以上探そうとも労力の無駄だわ。俺個人としても世話ぁ見切れん」
白面金毛は呆けたうように椅子にもたれかかりさも仕事が終わったような態度をとる
獬豸「まぁ、私にとっちゃ次の話が本題だ。」
獬豸が口を開くと白面金毛はそれに面倒くさそうに応える。
白面「ん〜?」
獬豸「東の方角を守護していた白虎が死にかけで見つかった」
白面を含むその場にいる者達が跳ねるように獬豸の発言に注目する。
獬豸「状態は・・・骨折複数裂傷複数、引きちぎられた痕と腹を裂かれハラワタ散らし神獣としての観点からは故意的に再起不能生存可能を認められるとのこと」
獬豸は手元にある紙を淡々と読み上げていく。
すると、淡い黄色の着物に身を包んだ男が初めて口を開く。
夕日色の長髪に特徴的な猫目。
彼の名は麒麟。応龍と同じく四霊に属し獣王と称される。
四象の白虎の直属の上司に位置する。
麒麟「四凶・・・か?」
麒麟の口から出た四凶という単語。四凶とは悪神四柱の集まりを指し、かつて暴虐の限りを尽くし五帝の舜に断罪され東に封印されたという
獬豸「その可能性も否定出来ん。しかし奴らに白虎を襲う理由がないからな。四凶は白虎が東に配属されるとっくの昔に放たれている。
わざわざ舞い戻って白虎を襲う理由もわからん。直接的な恨みなら舜の下へ向かうはず」
獬豸はその後も淡々と四凶が犯人でない論を並べていく。
ここで白面金毛が口を挟む
白面「ちょいまち」
獬豸の話を遮る。
話を遮られた獬豸は少し不満げに白面金毛を見つめる
白面「獬豸…それだけ四凶がやっていないと言えるなら、他に当たりでもあるのか?」
その発言から暫く沈黙が続く
すると獬豸が懐から何かを出し卓上に置く。
爬虫類の鱗のように小さく黒光りしておる。
鱗と言っても欠片のようなものではなく、皮に繋がれてまるで蛇のような
獬豸「四罪」
獬豸が名を出す。四罪とは四凶に並ぶ悪神集団である。
しばしばその語感から同一視されることがあるが実のところ無関係同士。
白面金毛はその名を聞くと、呆れたようにうつむき溜息をする
白面「………成程。で、これは」
獬豸「白虎の周りに多く落ちていた。他にも大小様々あったが現地人が縁起が悪いと言って焼却処分された。
そこからくすねたものだが」
白面「しかしな…これは」
獬豸「ここにいる者達全員感づいていると思うが、尋常じゃない気が纏わりついている」
獬豸は卓上に置いた鱗を手に取ると席を立ち麒麟の方へと歩いていく。
獬豸「こういうのは貴方々の方が詳しいはずだ」
麒麟のもとへつくと、麒麟の目の前に鱗を置く
麒麟「…確かにあんたが色々言ったように、色々と感じるが、というかお前はいつまでうずくまってんだ」
麒麟は隣に座っている者が被っている布を退かす。
布を退かすと鮮やかな朱色、紅色、黄色、桃色、赤紫など沢山の色が混ざりあった毛髪が顔を出す。
伸びきった髪からは赤色のまつげから除く宝石のような藍色の瞳が布を退かした瞬間、鱗を見つめる。
かの名は鳳凰
麒麟と同じく四霊に属し鳥王と崇められている。
一見女性のような顔つきでも、中身はともかくれっきとした男性である。
鳳凰「・・・くさい」
麒麟「・・・くさい?」
鳳凰の1言に疑問を持つ麒麟
獬豸はその場で見つめながらも、白面金毛と玉龍は遠目に眺める。
鳳凰「とにかくくさい。特にこれの内側から匂うけども、外側も」
獬豸がそこで開口し鳳凰に尋ねる
獬豸「もし・・・鳳凰氏?」
鳳凰「?」
獬豸はあまり関わりのなかった鳳凰に対し畏まった口調で
獬豸「匂い・・・?というものは、私も見た限り麒麟氏もわからない様子だが、なんのことか?」
獬豸は鱗と鳳凰を交互に見つめる
鳳凰「・・・」
獬豸「?」
鳳凰「毒。種族に関係なく致死性。よくこれ触れたね、獬豸」
鳳凰は少し眉を顰めた様子で告げる。
麒麟「ん・・・ということは獬豸。お前・・・」
すると獬豸は青ざめた顔で己の掌を見つめる
白面「獬豸」
遠くから白面金毛がささやくように獬豸を呼びかける
白面「・・・席に戻れ」
白面金毛は獬豸にそう促すと、白面金毛自ら席を立ち鳳凰のもとへ歩く
すると鳳凰に尋ねる
白面「毒・・・と言ったな。獬豸は犯されたのか?」
鳳凰「そう・・・だいぶ。彼もそれなりに臭ってる」
白面金毛はそう聞くと鳳凰にまた尋ねる
白面「重なるようで悪いが、治せるか?」
鳳凰「私には無理。たとえここに瑞獣全員集っても無理」
白面金毛は困った素振りを見せる。
その向こう側で獬豸が気が抜けたように下をうつむき前髪が見えない
鳳凰「まあ、手立てはある」
白面金毛はそれに飛び掛るように食いつく
白面「あるのか!?」
麒麟「いや・・・こいつがいうことは大抵その場逃れか博打だから期待しない方が・・・」
麒麟が突っ込むと、鳳凰が麒麟を睨む
白面「そうなのか?」
鳳凰「そう・・・だけど、今回は博打」
白面「・・・そうか、では」
白面金毛は獬豸のもとへ歩いていき
鳳凰「いますぐ?」
白面「いますぐだ」
そういうと、鳳凰は立ち上がり、こう告げる
鳳凰「・・・神農」
既に沈黙していた場が鳳凰の1言によりさらに空気が硬直する
白面「いま・・・なんと?」
鳳凰「神農。炎帝神農氏。あの人なら悪神の毒だろうが指先2本で治すでしょ」
鳳凰が歩き出し、獬豸の所にいた白面金毛の隣に立つ。
白面「・・・可能だと思うか?」
白面金毛はこもった声で問うと
鳳凰「炎帝としてならともかく、薬王大帝としてならやるでしょ。彼、一応地元では英雄視されてるらしいし」
白面「そういう問題ではない・・・」
鳳凰「そう?貴方、そんな与太話を気にしてお仲間見殺すような性格ではなさそうだけど。」
白面「・・・・・・」
鳳凰「・・・。神農はいま普通に地元で村医者やってるらしいよ」
神農とは炎帝の一族、もしくは祖先と言われかつての義行から三皇に数えられる。
炎帝の一族とは元々、黄帝と争った兵神蚩尤の一族。黄帝が地を治める今、国として迫害される存在である。国に属す瑞獣の一団で神農の名を出して場が固まるのも至極当然といえる
麒麟「・・・ここで割り込んじゃ悪いが」
ここで麒麟が口を開く。皆が麒麟に目を向ける。
麒麟「獬豸・・・神の毒に犯されているというのに、なんだ。
ここから見る限り妖力や気に乱れすらもないが・・・顔色すら問題ない・・・ように見える」
麒麟が獬豸を見つめる
白面「・・・もしかしてな」
白面金毛はもしやと思い、獬豸の肩を持ち顔を見ようとする
鳳凰「・・・いや違う!」
鳳凰は何かを察したように獬豸の肩を持つ白面金毛の腕を掴み抑える
すると、どこからか声が聞こえる
「いや〜・・・感がいいというか、"資質"か?それとも王と呼ばれる者に付与された"呪い"か?・・・まあ別にいいか」
その場に居る全員があたりを見渡す。
声の発生源がわからない。
まるで四方八方から同時に聞かされているように。
そうしているうちに卓上に置かれた。鱗から黒い煙幕が発生する。
麒麟と玉龍は即座に白面金毛のもとへ走りよる
5人が鱗から湧き出る煙を見ていると、煙の中から腕が伸びる。
「揃いも揃って・・・といってもたった5人か。」
腕が煙で払うように動くと、煙は一瞬で跡形もなく蒸発し、1人の人物が現れる。
白髪の若干のくせ毛に、眼鏡をかけ片手に扇を持っている。桃色の腰布に黄金の腰甲冑。
円卓の上からしばらく男が5人を見下ろす。
麒麟「・・・まさかとは危惧していたが、予想外の役引きだな」
麒麟が男を睨むようにつぶやく
「・・・そうか。かつての私では有り得ない行動か」
男は天井を見上げるように背伸びする。
「しかし、敵が目の前にいても何もしない・・・訳では無いか。私相手だと・・・と、外でも・・・」
白面「俺はてっきりな・・・本人自らと思ったが、三苗、軍師自らだったか」
白面金毛が男の話を遮るように話す。
「あぁ、そう。私は四罪の四柱悪神が一人、三苗。
自ら名乗るのもあれだが、とりあえず景気付けに名乗っておこう」
この男は先程言ったように『四罪』の一人、三苗本人である。
かつて血策の軍師として名を馳せ、しまいには自国まで己の意思で滅した悪神。
またこの者も五帝舜に断罪された存在である。
白面「なんだ・・・悪神にしては律儀だな」
三苗「まあ・・・やること別として性格が外道の神は数えるほどしかおるまいて。
して、時に麒麟。貴方いま、頭の中は疑問だらけだな」
卓上から扇で麒麟を指す三苗
麒麟「・・・」
三苗「いや、言わなくてもわかる。ひとつ。何故私がここに参ったか。ふたつ。獬豸の状態の違和感。」
麒麟はしかめっ面で応える。
麒麟「そうだな・・・」
三苗は少し自慢げな顔をする。
三苗「では、丁寧にひとつずつ応えよう。
何故私がここに来たかというと、単なる観察だ。」
白面「観察?」
三苗「まぁ・・・だけど、集まりが悪いのか今回は。又の日にすれば良かった。
そしてふたつめ。獬豸には偽装を施した。」
白面「偽装?」
三苗「あぁ。膜を数枚。妖力を内側から引っ張り出し正常値に纏わせる膜。もう一枚は気の常時安定その他諸々・・・と。全部私の自作だ。
よく出来てるだろ?」
三苗はまた自慢げな顔をしながら話す
三苗「まあ、そこの鳥王にバレた以上、私の仕事は終わり。帰る」
三苗が円卓から下りると白面が声をかける
白面「待て」
三苗「・・・なんだ。悪神は逃がさないとでもいうつもりか」
白面「あぁ・・・全くその通りだが・・・いかんせん戦力が足りんか」
白面はそう言いながら卓上から降り出口の扉の前にいる三苗に歩み寄る
三苗「・・私のことより獬豸を気にしてやれ。
私の膜で偽装してても毒に犯されているのは事実だ」
三苗がそういうと、白面金毛は歩みを止めその場で鳳凰に顔を向ける。
鳳凰はそれに気づくと静かに頷く
白面「・・・はぁ」
白面金毛はまた振り向き三苗の方を向くと三苗の姿は忽然と消えている。
と同時に卓上の鱗も消えている。
麒麟「・・・抜かれたか」
麒麟がそういうと、獬豸の周りに手をかざす。
麒麟「・・・本当に膜がある・・・というより、周りに浮いているな・・・」
鳳凰「破れるのかい?」
麒麟「出来る出来る」
そういうと、その瞬間獬豸が崩れた湯豆腐のように椅子から転げ落ちる。
麒麟「さて・・・と、白面。どうやって持っていく?」
白面「・・・馬」
そういうと一番静かだった玉龍の方を向く
玉龍 「・・・いいけど・・・神農の地元って伝承だと山奥だろ。陸路より空路が望ましい」
玉龍がそういうと、鳳凰が口を開く
鳳凰「じゃぁ、私が持ってく」
白面「・・・どうやって」
鳳凰「ただのボンクラじゃないからね。
見くびられたらそれなりに傷つくよ」
鳳凰がそういうと、そのほそぼそとした体躯で獬豸を抱き上げ、白面金毛九尾の狐に近づく
鳳凰「・・・うまくいかなかったらその時はその時。
あんまり過信して覚悟を怠ったら、精神的にくるよ」
鳳凰は白面金毛の耳元でそう囁くと、扉を開けて獬豸を抱き抱えたまま去っていく。
白面金毛は何もいう暇なく突っ立っているばかりだった
・・・・・・・・・・・・・・・
三苗「面倒だった。いつもの妨害。
完璧に物事は運ばない。中に入れたものの、入ってすぐバレた。まあ貴方の毒だからそう長くはなさそうだけど・・・鱗を燃やした周辺の地域はしばらく神も立ち入れないだろうな」
三苗がなにもない暗闇の中で誰かに話しかけている
三苗「特に四霊の鳳凰。あれの目を欺くのはまだ何重もの偽装が必要だな。
鼻だけで偽装して隠した貴方の毒の存在、その度合いと、白面金毛九尾の狐すら勘つけなかった偽装も察した。
ここまで来ると化け物じみた感性だな」
三苗は返事のない相手に一方的に語り続ける
三苗「まぁ。貴方の言う通り、桃から成る種より木から成る桃の方が期待出来る
・・・で、他の者は?・・・・・・
もう動いてたか」
三苗は返答のない返答に応える
三苗「では・・・又な」
そういうと三苗は暗闇の奥へと歩いていく
三苗「・・・ここまで醜い陰陽だったか・・・
詩を照らす暇があったら地を照らして後に潜む闇を黒してくれらな・・・まったく・・・」
またこれから次章まで長くなりそうですね
まあできるだけ早くやりますよ。
Twitterのほうで随時報告してるんで見てくだせえな