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魔境のお代官様――この里に人間は俺しかいません  作者: 卯堂 成隆
第六章 快楽(けらく)からの呼び声
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3

 それは翌日のことである。

 ムスタキッサが早速とある企画書を持って俺を訪ねてきた。


「ほう、物産展か」

「はい、そうですニャ。 知り合いの運営している市場に出展してみてはいかがかと」

 さすがランペール族。 目の付け所がいかにも商人的だ。


「たしかに人を呼ぶための宣伝としては申し分ない。 だが、その知り合いは信用できる相手なのか?」

「このトゥーリ・ムスタキッサの誇りにかけて保証いたします。 ご安心くださいニャ」

 そう言いながら、ムスタキッサは牙をむき出しにしてニヤッと肉食獣の笑みを見せた。

 おそらく、相当な弱みでも握っているのだろう。

 信頼感などといった曖昧な感情でここまで自信ありげな顔はできない。


「まぁ、お前がそこまで言うのなら信じよう。 だが、何を出す?」

 この領地にあるもののほとんどは、質は最上だがそのままでは表に出せないものばかりである。

 だからこそこんなに苦労をしているのであるが……


「オーク族の香水と精霊たちの化粧品、ミノタウロス族の料理、あとはゴブリンたちのガラス細工。

 こちらで生産体制が整っているものすべてを考えておりますニャ。

 むろん、魔力を除去する作業前提で」

「なるほどな。 たしかに物産展に出す程度の量なら魔力を抜く作業もたいしたことじゃないだろう。

 だが、明らかに技術的に異常なものが混じっているだろうから、そのあたりには注意してくれ。

 あと、手配は任せるが、一度現場も視察したい」

「では、そのように手配いたしますニャ」

 そう告げると、ムスタキッサは資料を抱えて下がっていった。


 だが、俺はまだ気づいていなかったのである。

 この領地にいる連中が、いかに規格外で、そして常識を知らないということに。


 それが発覚したのはその日の午後。

 街の建設現場を視察しようと、馬型のゴーレムにのって南に移動している途中のことであった。


 物産展が成功するためには、人々が興味を覚えるようなキャッチフレーズも必要である。

 そう考えた俺は、街の雰囲気をつかむために現場を見ようと思ったのだが……。

 

 現場が近づくにつれて、なにやら奇妙なものが見える。


「どうしたの、クラエスぅ?」

「いや、たしか街の建設現場まではかなり距離があるはずなのに、なぜ建物のシルエットがここから見えるのかということが疑問でな」

 何も考えていそうに無いエディスの問いに答えながら、俺はこの領地の地図を広げて現在地を確認する。


 ――やはりこの距離で建物が見えるのはおかしい。

 目をこするってもう一度確かめるが、幻ではない。


「少し急ごう。 何か、とんでもない事が起きている」

 そしてゴーレムを動かすこと三十分。

 俺たちの目の前にあったのは、この国の王宮ですら犬小屋に見えそうなほど巨大な建物であった。


「すっごーーーーい! かっこいいーーー!!」

「たしかここには、以前作った関所の建物があったはずだが……」

 おそらく、その建物を元にして遠慮なく魔改造を施したのだろう。

 谷間の横幅を埋め尽くすようなその建物は、全ての壁に細かい幾何学模様が施されており、だが手で触ってみるとほとんど摩擦を感じない。

 しかも、触れた手から急速に魔力が漏れてゆく。

 おそらくは、盆地から放射される魔力を遮断するのではなく、吸収して中で使う動力源にでもしているのに違いない。


 そしてこれほどの巨大な建物を作れば自重で外壁が崩壊しかねないのだが、谷の両横にそびえる山へフライング・バットレスと呼ばれる補強をつくり、外側へと向かう圧力を相殺していた。

 しかも、その支えもデザイン性と機能性を両立させており、実に大胆で優美なシルエットで見るものを魅了する。


「なんという無駄な超技術……」

 だが、出来上がってしまったものはもう仕方が無い。

 壊して平凡なものに作り直せといっても、俺自信が納得できないだろう。

 実に頭が痛い。


 いや……それ以上に、この途方も無い建築物を建てた費用についてどう報告するべきか?

 俺は国家予算を上回る資金が突然沸いてきて、一週間もせずに巨大な城が完成するという物語を考えるために、しばし目を閉じて額に手を当てるのであった。

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