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七節:優しく強い閣下と空気の読めない宰相

 気を取り直して謁見の間へと向かう。

やがて身長の何倍もある荘厳な扉が対面に見えた。

純金がくすみ、歴史を感じさせる謁見の間は、建国当時から一度も改装されていないそうだ。

かつてルベンカ帝国は城下町の水際まで攻め込まれるほど落ちぶれていた。

それでも、城内の一線だけは越えられることは無かった。


 扉の両側に佇む二人の騎士が問いかける。

「何用か」

「錬金術師のユーマだ。先のマナック国境地帯での紛争にて報告がある。イヴァン二世総統閣下に取り次ぎ願いたい」

「錬金術師ユーマよ、扉の先ではいかなる血も流してはならぬ。心得て通るが良い」

一連の押し問答は、ルベンカ帝国の伝統だ。

どれだけ高貴な身分でも、自分の素性を明かし、争いを持ち込まないことをわざわざ門前で誓わなければならない。


 内側から扉が開き、訪問者を出迎える。

謁見の間の奥、その玉座に腰掛ける人物こそ現ルベンカ帝国総統、イヴァン二世だ。

装飾を施された近代的な軍服に身を包み、かっちり固められた髪と片眼鏡。

裏腹に柔和な表情で俺を出迎えた。

「錬金術師ユーマ。よく無事であった」

「総統閣下、ご心配をおかけしました」

「うむ。お主が戦で危篤になるとは稀有なこともあるものだ。こうして再び会えることを嬉しく思うぞ」

イヴァン二世の顔からは、ほっとした表情が見て取れた。


「ふむ、お主の首にかかっている賢者の石。増えてはおらぬか?」

「はい。これはご指摘の通り、もう一つの賢者の石です。この身を焼かれ、目覚めた時に錬成したものです」

総統閣下は一瞬目を丸くしたが、元の表情に戻った。

「なんと、そうであったか。だが、お主以外には御せぬ宝石だ。結局相応しい持ち主は他におらぬだろうな」


 イヴァン総統の傍らでピシッと直立不動をしている宰相が口を挟んだ。

「お言葉ではございます、総統閣下。ユーマ殿にしか扱えぬ力、それが増長することとなれば、謀反も目に見える事態では――」

「ピョートル、口を慎むのだ。ユーマは既に錬金術師という凡夫では到れぬ領域にある。そうでありながら、ここまで我らがルベンカ帝国に尽くしてくれたのだ。謀反などあり得ぬ」

温厚な総統閣下が苦虫を噛み潰してピシャリと遮る。


 無礼な宰相、ピョートル。政治に疎い総統閣下に代わり、内政をある程度取り仕切っている。

だが、本人がいる前で今のような忠言をする悪癖がある。

そのためイヴァン総統をはじめ、帝国の人間は彼を快く思っていない。

一言で、空気が読めない。政治では有能なので、どうにも彼を切り離すことができないのが悩みの種だ。


「いつもの事だが、ピョートルが出過ぎた。すまぬ、本題が逸れてしまったな。その赤い石はお主に何をもたらすのだ?」

「限界を超えた力を引き出せます。この賢者の石で、より多くの人を守り、より多くの人を殺せるでしょう」

「……うぅむ。血が流れることは避けられぬのか」

「この世界は争いが絶えません。総統閣下もお覚悟のはず」


 "FoC"の世界は、元々数多くの小国同士がひしめき合うなかで争いが始まる。

小さい国のままではいずれ資源は枯渇する。人口が増えれば、それだけ資源は減り続ける。そして衰退の一途を辿る。

そんな危機感を覚え、小国の人間たちは生き残りを賭けて戦いぬく。

「もはやルベンカ帝国は他の追随を許さぬ大国となった。あとは各国に調停を申し出れば良いのではないか?」

イヴァン総統の提案に、俺より先にピョートルが反言する。

「総統閣下、この情勢では遠交近攻でなければなりませぬ。隣国を占領し、遠国と手を組むのが得策でしょう。この大陸では、小国同士が連合を組み、ルベンカ帝国に攻め入る確率の方が高いと存じ上げます」

「ピョートル。しかし侵略が進むとなれば、いつかはその遠国も隣国となるのではないか?」

「私はこの大陸のあらゆる国を遠国とは考えておりません。海を越えた、別の大陸の国こそが、我々が協力すべき遠国なのです」

 "FoC"の公式設定では、確かにルベンカ帝国をはじめとした諸国がせめぎ合う大陸とは別の大陸が存在すると公言されている。将来的なアップデートで実装する予定だったのだろう。


 しばらくの沈黙ののち、総統閣下は重い口を開いた。

「ふむ、やむを得ない。我輩は決意したぞ、ピョートル。今こそルベンカ帝国は大陸の制覇をもって繁栄を永続させるものとしよう。ユーマよ、お主の新たな力、存分に発揮するのだ」

決意を抱いた優しき総統閣下は、いつしか強さと威厳で溢れかえっていた。

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