六節:チョロインってどうすれば攻略できるんだろ?
マリスが俺の視線に気がつくと、おもむろに胸元を隠した。
「ちょ、ちょっと、ユーマさん……」
「はっ、ははは。す、少し意地悪してしまったかな。」
顔を赤らめて恥ずかしがる仕草も相まって、彼女の魅力は倍増する。
声には出さないが、君の服装にも問題があるんだよ?そうツッコみたかった。
やたらめったらと叫びながら痴漢騒ぎしない、それでいて守りたくなるほど無防備なマリス。
ウブそうな彼女のジョブは「バトルマスター」、戦士系ジョブの最上級職だ。
女戦士だなんて粗暴なイメージばかりだったが、マリスを見ると「こんな子もアリだな」と思わせる。
盾を必要とせず、片手剣と拳だけで戦いぬく姿は普段の彼女からは想像できない。
「攻撃こそ最大の防御」を心情に国境防衛戦では圧倒的な「防衛力」を誇る。
侵略には積極的ではないが、何かを守るとなると普段以上の力を発揮できるらしい。
エルガー老師の魔力と同様、ゲームプレイ時での俺だったら物理攻撃力では彼女に敵わないだろう。
「マリス。君も謁見の間に行ってきたのか?」
「はいっ!総統閣下がお手伝いして欲しいことがあるって言われたので!」
「お手伝い?」
「でも、どんな事をしたのかは『まだ』秘密にして欲しいそうです」
秘密、ねぇ。秘密のお手伝いなんて言葉がマリスの口から出たら、どうにも数十ページしか無いマンガのネタにしか聞こえない。
やれやれ、僕は興奮した。
「ふぅ、お手伝いのことは分かったよ。俺もこれから謁見の間に行ってくる。色々と積もる話があるからね」
「……その石のことですか?」
「鋭いな、もしかしてエルガー老師との話を盗み聞きしてた?」
「いえ、ユーマさんの賢者の石はトレードマークみたいなものですし。もう一つ不思議な石があったら誰だって気になりますよ!」
なるほど、やはり賢者の石はルベンカ帝国の人間にとっては目立つんだな。
一つでも賢者の石が増えたとなれば、頭皮の不自由な知り合いが突然ヅラを被るくらいの事態という訳か。
「そうだ、ユーマさん。謁見の間に行ったら妹のエリスにも会ってくださいね。あの子、ユーマさんのこと好きだから夜も眠れなかったんですよー……」
「そうか、エリスも心配してくれてたんだな。でも、俺のことをそこまで慕ってくれているなんてな」
「エリスだけじゃないですよ!わ、私だってユーマさんのこと気になってるんですから!」
思わず口が滑ったと、マリスが開いた口を片手で抑えた。
そして、よく顔を赤くする彼女が一層赤らめて茹でダコのように見えた。
「なっ、何でもないです!私、急用が出来たので行ってきます!!」
風を置いていくかのようにマリスは走り去った。
さすがバトルマスター、足の速さにも目を見張るものがある。
それにしても、まさかこの世界ではマリスも、妹のエリスも好意を抱いてくれている。
確かルベンカって、他の国と違って一夫多妻制があるんだよな……
やれやれ、僕は興奮した。