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一節:目を覚ますと見知った天井だった

――体を焼く心地が失われ、静寂が訪れた。

 そのうち、背中が少しひんやりして、それでいて固いものの上に横たわっていることに気づく。

棺桶に入っているのか、ふとそう思い込んだ。

 いつの間にか、苦しかった呼吸が落ち着いてて、それが生き延びたのかという錯覚さえある。

「……うぅ……あぁ……」

喉から声を出そうとしてみると、わずかにうめき声のようなものが発せられた。


「気がついたかね」

何者かの声が聞こえた。落ち着いた様子で、老獪な男の声だ。

「目は開くか、『錬金術師』」

 暗闇にさらされ続けた目は、いつの間にか自らの意志で閉じられていた。

老人の声に応えるように、目を開いてみる。

「ここは……?」

見覚えのある部屋だ。"FoC"で、俺が所属していたルベンカ帝国の王城。

ここは、城に設けられた魔導研究所の一室に酷似している。

声が聞こえた方へ視線を向けると、ダークグレーのローブに身を包んだ老人が長いあごひげを遊ばせていた。


「……エルガー老師?」

"FoC"でしか出会うことのない、ルベンカ帝国一の魔道士が傍らに立っていた。

「少々混乱しておるようじゃな――無理もない。体中が焼け爛れて、今にも死にそうだった」

「……老師、これは夢か」

灼けた喉が完全に回復していないままのしゃがれ声で、実在しないはずのNPCに語りかける。

「ファファファ――その声では、どちらが老いぼれか分からぬではないか」

ひとしきり笑ったエルガー老師は、人差し指と中指で俺の喉に触れて、指先から光を放った。

瞬間、喉の不快感が消えた。治癒魔法が、焼け爛れていた喉を治したかのようだ。

「エルガー老師。もう一度聞きたい。これは夢なのか?俺は死んだはずでは」


 まだVRの世界が続いているなら、ここまで臨場感溢れる演出や、五感を刺激する思いをするはずがない。

死後の世界があったとしたら、俺にとっては"FoC"がそれなのだろうか。

「『錬金術師』よ、そなたは生きている。紛れもない現実じゃ。一体何があった?」

「……マナック国境地帯で、名前も覚えていない、取るに足らない小国から領土を奪い取っていたはずだ――」

(少なくとも、ゲーム上はそのはずだった)

このNPCにゲームがどうこう話したとしても、理解されない。そう思って、最後に言いたいことには口を噤んだ。


「儂が国境地帯に訪れたとき、一面焼け野原じゃった。そこにポツンと、消し炭になりかけたそなたが倒れておった」

「そんな状態の俺を、治すことができたのか?」

「ファファファ、儂を誰と思っておる。戦略広範囲魔法から上級蘇生魔法まで、ちょちょいのパーじゃ」

 落ち着いた様子の老師だが、時折おどけることがある。

ルベンカ帝国で戦うプレイヤーにとって、ギャップのある仕草を見せるエルガー老師は人気キャラクターの一人だ。


 エルガー老師と少し会話をしてみて、どことなく気持ちは落ち着いた。

現実世界の俺は、坂本優馬はきっと死んだのだろう。仮にここが死後の世界だとしても、そこでみっともなく過ごすなんて性に合わない。

だったら、やることは決まっている。

この世界で、俺は世界で唯一の錬金術師として、ルベンカ帝国の「鬼神」として君臨しよう。

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