やや~過去編12
「阿兎、ややは?」
「今日は朝から見てません」
「そうか…」
「舎羅登さんも会ってないんすか?」
和兎が不思議そうに顔を傾げた
お昼の食堂はどんどん人で溢れかえる
「あっ龍!」
舎羅登さんが龍を呼べば
金髪の短い髪をツンツンに立たせ
垢抜けた龍が寄ってくる
「龍君、イメチェン?」
阿兎の声に
「この方がいいと姉様に言われた」
っと言った
「うん、似合ってるよ
あのね今日はやや来てないんだけど…知らないよね?」
「姉様は来てるはずだけど、
朝寝坊したからって母様が俺に式神を飛ばしてきて姉様の分のお昼代を預かっている」
「じゃあ…どっかにいるってことか?」
和兎の問いに龍君が頷いた
「清女部にも顔だしてないみたいだしな」
舎羅登さんがそう言いながら龍に
「また何か解ったら連絡するよ
先にご飯食べろよ」
と言った
「失礼します」
「じゃあね」
「なんか…心当たりないんすか?」
っと何気なく聞けば
少し目が泳ぐ舎羅登さん
「え?あるんですか?」
阿兎も俺を疑いの目で見つめる
「何もねぇよ」
「でも最近仲良すぎじゃないですか?」
「羨ましいのか?阿兎」
「もう。
全然解ってない」
「何が?」
「舎羅登さんって見てくれはボサボサで汚らしいけど
花屋敷って名前のブランドと術の凄さと
とにかく優しいって人気なんですからね」
「お前、サラッと酷いこと言ってんぞ」
「ややのこと良く思ってない奴らもいるし」
「こないだの奴らか?」
「たまに何か言われてたり
ああやって危害加えてこようとするし
女の嫉妬は怖いからね」
「零恩志に危害なんか加えたら出世なんか望めねぇのにな」
舎羅登さんがそう言う
「本気で解ってねぇ人だよ」
っと和兎は呆れてる
「ややがわざわざ源様や七翠様に言うと思いますか?」
「……」
強がって、無理して、泣いていたややを思い出す
「そうだな
じゃあ探してくるわ」
食器を片付けて食堂を出て行く舎羅登さんを2人で見送る
「結局あの2人どうなってんだよ?」
「さあ…
でもやや、なんか柔らかくなったよ最近…
恋してるのかな?」
「…舎羅登さんか…」
2人で口ごもる
「あんまりいい話聞かないよね?」
「まあな
俺らでも解らねぇよ
あの人の本気は」
「私たちの周りに幸せな子って居ないのかしら?
みんなすれ違ってたり、悩んだりしたり
忙しいよね」
和兎は
「いいんじゃねぇの
間違えないように大切な事だろ」
そう言って少し寂しそうな顔をした
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「好き…嫌い…好き…嫌い…」
最後の花びらを指でつかむ…
「好き……」
足元に落ちていた花で占えばまたその答えにため息をついた
意識すると今までのようにはいかない
ちょっとした事でも恥ずかしくて普通にできる気がしない
「好きな人は…消された…」
舎羅登さんの悲しい知らない過去を知りたいと思った
妹を亡くして…好きな人も…
いつも何処か切なくて
けど、優しい瞳が物語る
私を通して誰かを見てること…
「…舎羅登…さん」
朝遅刻したせいで、水分もご飯も取らずにいたので気分が悪くなってくる
季節は梅雨が開けて夏になり始め部屋も暑くて制服と襦袢を腰まで脱ぎ晒しだけになる
「暑い…」
朦朧とする意識の中で式神箱が目に入る
「そうだ…式神…」
1枚取り出して立ち上がり壁にもたれ掛かる
手に握りしめて念を込める
『熱くなってきたら気をつけろ』
舎羅登さんの声が聞こえた気がした
『気流が式神の中に溜まるタイミングは心臓の音に近い
心臓の音が5回刻む、それに合わせて力を入れてみろ』
ゆっくり目を瞑り鼓動に耳を傾けた
「1…」
ピシッと式神に気流が流れ紙の音がなる
「2…3…4」
ピシッピシッと紙に念が流れる音が響けば式神が桃色になっていく
「5!…フンッ」
力を込めれば今までとは違うのを感じた
「舎羅登さん…できたよ…」
手のひらから式神が舞い落ちる
それを見届けて意識を失くした
____________
5限の授業が始まるが
舎羅登さんは落ち着かない様子だった
「よし、取りかかれ」
パンッと掌を叩き、それぞれが実演演習を始めた時だった
「舎羅登さん…あれ」
阿兎が指させば俺の手元に可愛い桃色の式神が届く
「誰のだ?」
そう言えばパンッっと式神が弾けて
『舎羅登さん…できたよ…』
力ないややの声がした
「やや!?」
「式神できたんだ!」
阿兎と和兎がはしゃぐ中
「それより、声に元気がなかった
後ろの雑音も入ってない…」
「そうだよ、何処にいるの?」
「やっぱり高専の中に居るのか?」
「この暑さだぞ?
ずっと隠れれる所なんて…」
阿兎が何かを考えて振り返って教室を見回した
「阿兎?」
「あの子達…」
こっちをチラチラ見ながら何かを隠す顔をした
「お、おい阿兎!」
躊躇わずその子達の方へ駆け寄る阿兎
「1回しか聞かない
ややのこと知らない?」
「知らないわよ」
リーダー格の春世がそう言えば
他の2人は下を向いた
「……」
阿兎の怒りが念として現れそうな時だった
ガッと肩掴まれ振り返る
「舎羅登さん…」
「お前達本当に知らないんだな?
第1級貴族への無礼な行為は、重罪にあたりお咎めを受けるぞ、良いのか?」
「先生は結局、そうやってあの子だけ贔屓するんでしょ?」
「あんたね…」
阿兎をもう一度舎羅登さんが止める
「贔屓?してるつもりはない」
「特別に式神教えたり、
何かあったら先にややを対処するじゃないですか」
「式神は使えなかったから出来ない奴に教えるのは当たり前だろ…
それに先にややを対処するのが当たり前だ。
あいつは戦えない
お前達とは違う」
そう言えば納得したように春世達は下を向いた
「知ってるなら教えてくれ」
舎羅登さんの本音に少し寂しくなった
和兎を見れば同じ気持ちなのか私を見ていた
「阿兎…」
「うん、大丈夫だよ」
私たちを他所に舎羅登さんの低い声が響く
「言わないつもりか?」
怒りを宿す舎羅登さんの気流に生徒達がビクッとしてそれぞれが距離をとる
「もういい」
ややの式神を握り舎羅登さんが念を唱える
風が巻き上がり舎羅登さんの髪も袴も風を受け靡き上がる
「見つけてやるよ、やや」
前髪も舞い上がり眼鏡が吹き飛んだ
「舎羅登さん…」
「先生…」
みんながその姿に驚き顔を赤く染めた




