差し出した手の行方
「先生!!莉心様が居てません」
立ち上がり紅月が焦るように廊下を除く
終了のチャイムが鳴り響き
全員で探しに行こうとすれば
廊下の角から莉心様が走ってくる
『「ごめんね
もう終わった?」』
紅月ではなく俺に走りよる莉心様
「莉心様、勝手に行かれては実丸さんに怒られます」
『「ごめん、九楼先生ちょっと話があって」』
紅月もその態度を不審に思い俺を見上げた
「莉心様ちょっと離れて」
俺の腕に絡める腕をソッと離した
『「何?」』
「1度しか聞かない
答えないなら引きずり出すぞ、誰だ?」
そう言えば莉心様の口元が妖しく上がる
『「こんなキャラじゃないの?この人」』
「先生…これは」
「絶式だな」
『「忘れたの紅月?私よ」』
その言い方や立ち振る舞いにハッとした
「皐月…」
「丸北 皐月か?」
『「先生に逢いたくて体借りました」』
「それはしてはいけない事だ…
皐月、勉強しただろ?」
九楼先生は宥めるように話しかける
『「知ってるよ
それでも話したかったの」』
「解った、話を聞けば気が済むか?」
『「それと紅月の事許せないから消していい?」』
そう言えば先生が私の前に立ってくれる
『「また紅月だけ庇うの?」』
「また?どういうことだ?」
『「いいよ、こっちにはこの子の魂があるんだから、どうにでもできる」』
「九楼先生!?」
その声に振り向けば
「妃乃瑠」
「莉心様の気が途切れた気がして…
これは?」
「3ヶ月前特別クラスの実演中に黄泉の死者に襲われて命を落とした丸北皐月って子が居たんだ。
どうしてか解らないが莉心様が憑依されてる」
「絶式ですか…
なら望みは?」
「俺と話すことと、紅月が消える事だ」
妃乃瑠が紅月に視線を送れば紅月が顔を伏せた
「そうですか…
私が話してみます」
妃乃瑠はゆっくり莉心様に近づいて
手が届くか届かないかくらいの距離に止まる
「鑑原妃乃瑠です
私が先に話聞いてもいい?」
『「妃乃瑠さん…」』
悲しい瞳をした莉心様の中に居る皐月は
『「ずっと憧れてました」』
そう涙を流した
「私に?ありがとう…
辛かったね…怖かったと思う
でもここに居れば念が増えて…」
『「黄泉の死者になれ果てる…ですよね」』
「うん、さすが特別クラスなだけあるね
勉強も実演も実戦も頑張ってた、皐月ちゃんの事知ってるよ?
いつも実演結果とかテストとか試験とか張り出される紙を見て男の子に負けてないって思ってたから」
『「嬉しい…
でももう何も出来ない…
私だけ死んじゃったから…
悔しい…」』
「皐月ちゃん…
悔しいし悲しいよね
でも莉心様は花屋敷の姫様で傷つけては、2度と生まれ変わる事もできない闇に葬られてしまう
だからその人から出て、私に入りなさい」
「妃乃瑠!?」
「妃乃瑠さん!」
「皐月ちゃんを酷くこれ以上傷つけたくない
紅月ちゃんを消すのは出来ないけど、九楼先生と話す事はできるよ?」
『「それは嫌
妃乃瑠さんの中だと意味がない
私は本気だから…」』
「…分かったよ。皐月…」
紅月ちゃんが私の横に立ち皐月ちゃんにそう言えば
『「あの日…どうして戦おうなんて思ったの?
逃げてれば私は死ななかったのに」』
「……」
紅月ちゃんはその言葉を心で受け止めてる気がした
『「私…の事嫌いだったでしょ?」』
「違う!」
『「先生もいつも紅月ばっかり可愛がってた
どんなに優秀で居ても、点数が良くても、結果が良くても……先生は遠かった」』
「丸北…それは違う」
九楼先生の声に
突然莉心様から術韻が飛んできた
「きゃ!」
紅月に当たりそうなのを
妃乃瑠が庇う
受けた衝撃に2人と見ていた生徒達が後ろへ吹き飛ぶ
「妃乃瑠!」
「妃乃瑠先生!」
「大丈夫……ハアハア」
廊下の木はめくれ柵も何本か折れて部屋にはめているガラスは割れていた
『「なら先生…私のお願い聞いてよ」』
ゆっくり足を進めて俺の前で立ち止まる皐月は俺の手を握りしめた
「願いは何だ?」
優しく手を握り返す
『「先生に愛されたい
いっぱいいっぱい愛されたい」』
泣きながらそう言う丸北をゆっくり抱きしめた
「守ってやれなくて悪かった
丸北は俺の可愛い生徒…」
言いかけて突き放される
『「違う…そうじゃないよ
1人の人として愛されたいの」』
「それは…」
『「ほら…先生はやっぱり紅月が好きなんでしょ?
あの日も私より先に紅月を助けたじゃん」』
「丸北…」
『「先生が来てホッとしたの
伸ばした手は掴んでもらえなかった…
紅月を抱き上げる先生を見てて…」』
_____
…ピチャ
……ピチャン
「ん……」
目を開けると水が滴り落ちる音と
浮遊感にハッと体を起こした
暗闇で微かに解るのは浅い水の中に居ること
「私…」
『「私を黄泉の死者が貫いてた…」』
声だけが響いてる
ブワッと風邪が吹いて
そこは見たこともない綺麗な草原だった
そして逃げる院生数人と
悍ましい黄泉の死者
そして黄泉の死者に向き合う
紅月ちゃんと皐月ちゃん…
「紅月、逃げよう」
「ダメよ、今背中を見せれば殺られるわ」
「でも…」
「式神を飛ばしたから先生達が来てくれる」
「解った」
念を集め戦闘を初めた2人に
逃げていた数人が戻ってきて一緒に戦いだす
私を数人がすり抜けていく
「きゃ!」
皐月ちゃんが転けたのを紅月ちゃんが庇い
念を受け止めている
「紅月!」
応戦するようにその、念に皐月ちゃんを手を重ねた
「皐月…」
「一緒に打とう」
バッ放つ念が黄泉の死者を貫く
『ナメやがって…俺は強い』
低い唸り声と共に2人が風に巻き込まれていく
「紅月!」
「皐月ちゃん!」
みんなも木につかまったり踏ん張って耐えていた
「お前ら!!大丈夫か!」
九楼先生達が駆けつけてくれて
みんなが救われていく中
「紅月と丸北は!?」
「風の中です」
「っクソ風がキツすぎて…」
必死に九楼先生が手を風の中にいれて手探りで探す
グッと引っ張られ出てきたのは紅月ちゃんだった
「皐月、手を」
九楼先生の声と
「いゃぁぁぁ」
叫び声が重なり風がとければ黄泉の死者の念に貫かれた皐月ちゃんがいた
「皐月ぃぃぃぃ」
紅月ちゃんの叫び声に
「貴様!」
一瞬で空気が変わり九楼先生が念を切り黄泉の死者を術韻で縛り上げた
「皐月…皐月!!」
受け止めた紅月ちゃんが皐月ちゃんに声をかける
「…せん…せ…」
黄泉の死者と向き合う先生に手を伸ばす
「お前、下界に送ってやる」
浄土とは違う滅の韻を結び黄泉の死者の足元が黒く広がる
先生の首には痛々しい呪いが浮かび上がる
「永遠にサヨナラだ!」
バシュンっと吸い込まれるように消えた黄泉の死者
「先生!皐月が!」
駆け寄り手を握る
「丸北、おい、丸北!
お前ら誰でもいい治癒部まで式神飛ばせ」
皐月を抱え走り出す先生が数メートル先で足を止めた
「せんせ…だいすき…」
「丸北…おい…
嘘だろ…」
「皐月…」
「皐月ちゃん…」
「嘘だろ…嘘だ…
丸北…」
皐月を抱きしめる先生に涙が溢れた
「丸北ぁぁぁぁ!!」
その叫び声が消えた瞬間
ハッとまた目を覚ました
暗闇の中でただ涙を流す私がいた
実丸が言ってた
中に入ってきた人の気持ちに当てられるって意味が解った
苦しくて
悲しくて
涙が止まらない
「皐月ちゃん…」
最後に見た光景は切なかった
風の中伸ばした手は先生に届かなかった
目の前で紅月ちゃんが先生に助け出されて
ホッとした感情と自分じゃなかった絶望感でいっぱいになっていく皐月ちゃん
仕方ないことだって解ってる
風が邪魔をしたのも解る
でも大好きで憧れで
好意を寄せてた先生に選ばれなかった気がして
胸が苦しくなる
また涙が流れ落ちてく…
この暗闇は皐月ちゃんが感じた孤独なのかな…




