やや様
「龍様…」
額に浮かぶ汗をおさえてると
「莉心様!お怪我はないですか?」
妃乃瑠の姿に我慢してた涙が溢れた
ミコトも消えかかり龍様の横で顔をすり寄せている
「妃乃瑠ちゃん!龍様が…」
「大丈夫です!私が回復します
莉心様は龍様の手を握って声をかけててあげてください」
「うん」
目を瞑り掌に気を集め出す妃乃瑠ちゃん
バッと目を開き術韻を詠みだす
「左に流れし蒼き涙
右に流れし紅き血よ
我、神の名の元に宿しき銘に名を捧げる
鑑原式 回復の術 癒癒」
そう妃乃瑠ちゃんが唱えれば龍様の傷口が閉じていく
「これでしばらくは大丈夫です
莉心様、ここは危ないと思われるのでお屋敷外にお逃げ下さい」
「ここに居たい」
「莉心様…」
「私…あの人知ってるの…」
「あの人って」
「黄泉の死者…
私の事を可愛がってくれてた近所のお姉ちゃんなの…」
「…それって、彼女は中界の人って事?
ならアレが…舎羅登さんの…」
「妃乃瑠ちゃん?」
何かを考えているのか、集中してるのか
立ち上がった妃乃瑠ちゃんは
戦闘が続く暗い空を見上げた
『「黄泉の死者 光愛
あなたを下界へ送ります」』
その透き通る綺麗な声に
みんなが時を止めた
そして曇る空から一筋の光が妃乃瑠ちゃんを照らした
その時
眩い光とともに真っ白な大振袖を着て
金の龍の刺繍が入った透けた袖が長いストールを羽織った女の人が現れる
「あれは…」
舎羅登さんが息を呑む
『「音魂の言の葉、
愛しき鎮魂歌よ
暁月夜、我らを見下ろし聴きたまえ
浄土より願い叶えたし、悲しき魂
我らの声に誘われ静まりたまえ
想い想いし恋に焦がれた純心は
彷徨い惑いし悪しき邪心に
心安らかに眠りにつきたまえ」』
綺麗な声は音をふみ奏でるように響いていく
その声は明らかに妃乃瑠ちゃんではない
「やや…」
舎羅登さんの瞳が震えていた
「ややがどうして?」
「妃乃瑠に乗り移ってたのか?」
阿兎と和兎の声に実丸は妃乃瑠の方へ駆け出した
『大丈夫よ。実丸…
少しだけごめんね』
ややはそう言いながら縦に5連になった鈴の付いた棒をお清めの舞を踊りながら光愛に向けて踊り出した
「やや…」
実丸はそれを受け止めるように道をあけた
その先には黄泉の死者と舎羅登さんが居た
「姉様…」
振り絞るような声に龍様を見つめた
「大丈夫?」
「莉心…あれは?」
「妃乃瑠ちゃんから突然あの人が…」
「どうして姉様が…」
起き上がる龍様をグッと支える
「光愛ちゃんを浄土に送るって…」
「また…かよ…
やめろ。姉様!!」
振り絞るような叫び声に振り向いた
龍様のお姉様はとても綺麗な人だった
「龍…ごめんね」
バッと妃乃瑠ちゃんの中から飛び出たその人は
光愛ちゃん…ううん、なれ果てた黄泉の死者へ目掛け飛び込んでいく
「私と一緒に浄土で眠りなさい」
眩い光が黄泉の死者の中へ消えていく
「姉様ぁぁぁ!」
「…そんな…」
龍様の叫び声に言葉を呑み込んだ
「ややー!」
阿兎さんの声にも
「やや!」
和兎さんの声にも
悲しい色が乗っていた…
『グッアアア』
っと酷い叫び声に耳を塞いだ
その瞬間、プツッと映像が途切れるように
黄泉の死者が姿を消した
「……嘘…やだ」
取り乱した阿兎さんがコハクを避けて
消えた場所に駆け寄る
「…ッッ」
そこには舎羅登さんが蹲っていた
ややの念の姿を抱きかかえて
「舎羅登さん!」
袴は焼け焦げ
背中は右半分が爛れていた
「実丸、治癒部と藩登様に式神飛ばして!」
阿兎の声に式神を飛ばし
妃乃瑠の方へ駆け寄った
「妃乃瑠、おい」
「ん…」
「実丸!大丈夫?」
莉心様は必死に龍様を抱えていた
「舎羅登さんが怪我をした
龍様、やや様は無事なのでそこで大人しく治癒部を待っててください」
「そうか…」
倒れ込むように座った龍様の横に私も座る
「実丸さん?」
「妃乃瑠、大丈夫か?」
「私…」
「大丈夫だから」
優しく頭を撫でてくれた実丸さんに涙が溢れてくる
どうしてか分からなかったけど…悲しい悲しい気持ちだった
「ややの気持ちに少し触れすぎたみたいだな」
優しく妃乃瑠の頭に気を送る
「実丸!」
シュッと和兎が来ると
ややの念の体をゆっくり降ろした
ダンっと
阿兎と舎羅登さんが来て
全員が息を呑んだ
「舎羅登さん…」
「莉心、見るな」
グッと莉心を抱き寄せる龍様
「…ハア…ハア…」
肩で息をする舎羅登さんに阿兎が念を送り出す
「私も送ります」
妃乃瑠は起き上がり舎羅登さんのやけ爛れた場所に念を送り出した
「どういう事だ」
そこへ藩登様が来て舎羅登さんに念をすぐ送り出してくれた
「多分、ややを黄泉の死者の中から引きずり出したんだと思います」
「バカか!呪いまでもらいやがって」
「叔父貴…ごめん」
息をあげながらそう言えば
藩登様がより強い念を送り出した
「誰に貰った?」
普通の呪いならしばらく念を送れば収まり小さなものになる
だけどやけ爛れた所は綺麗になっていくのに
呪いの部分は何一つ治らなかった
「黄泉の死者、光愛です」
阿兎の答えに目を伏せた藩登様
「とにかく術韻室で出来る限りのことをしよう」
立ち上がった藩登様は
意識のないやや様の傍により優しく頬を撫でた
「お前はいつも…舎羅登の為なら命も惜しまないんだな」
そう言えば藩登様の瞳が揺れていた
「和兎、阿兎、実丸、妃乃瑠
2人を運ぶぞ」
「「「「はっ」」」」
素早い動きでその場を去っていく姿を見送った
高専の先生やそれぞれの使用人の人達が片付けに追われる
「龍様…大丈夫?」
悲しい瞳が重なった
「すまない
怖い思いをさせてしまった」
「ううん
私は大丈夫だよ」
「俺達も行こう」
立ち上がる龍様がよろけて壁に当たった
ガコンっと音がして龍様が持たれた壁が開き
そのまま龍様を飲み込んで素早く閉まった
「…え?」
『これは絡繰にございます!』
使用人の声に
「絡繰?!」
『ここは侵入者を追い詰める絡繰をした部屋にございます』
使用人数人が焦りながら説明してくれた
『実丸様たちを呼んできます』
っと駆け出した使用人を見て
龍様が消えた壁に手を触れた
『姫様!』
その声は途切れる真っ暗な闇の中を滑り出した
「…ッッきゃぁぁぁ」
小さな光が先に見えた瞬間
シュパッと高く放り出される感覚
「いやあああ」
シュと体に巻き付く青色の念が強く私を引っ張ってくれて
「大丈夫か?」
ギュッと龍様の胸にたどり着いた
「龍様…ごめんなさい
怪我してるのに!」
「大丈夫だ
それよりどうして追ってきた」
「だって…心配で」
そう言えば苦しそうに少し笑った気がした
辺りは薄暗く私達が座ってる巨大な石の周りを海が囲んでるようだった
「ここは…」
「侵入者がここで立ち往生してる間に出口で待ち構えるって戦法だな」
「…出口があるの?」
「ああ、朝になればこの水は引く」
「朝??
まだ夜になったばっかりだよ?」
「仕方ない
助けは来れないだろうから」
「そんな…」
「ミコトとコハクがいれば良かったんだが
何にせよ先の戦闘で疲れ果ててる…」
「怪我は大丈夫なの?」
「朝までなら持つだろ」
痛々しい傷は少しずつ広がっていた
妃乃瑠ちゃんの応急処置も今の衝撃で開いたかも知れない
「私は大丈夫だから
龍様…少し休んで」
「すまない」
立ち上がり大振袖を脱ぎ岩の上に引く
岩に持たれる龍様を、ゆっくり引っ張り私の足の間に居れた
「痛くない?」
「ああ…とても心地いい」
そう言えば龍様はゆっくり眠りについた




