黄泉の死者 光愛
実丸さん達のもとを離れて足を止めた
「私…」
『妃乃瑠…』
お薬処に入ろうとした時に聞こえた声に顔を向ける
「ややさん…大丈夫ですか?」
『大丈夫よ
それよりこの痣濃くなったわね』
「え…はい…」
頭がボーッとしていく
『妃乃瑠、舎羅登さんから離れないで』
「……はい」
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「実丸、遅いなぁ」
「七倉校長とお話されてたんで、
まだかかると思います」
紅月ちゃんはそう言いながら
雑務と言われる書類の山に向き直った
実丸と紅月ちゃんの仕事場で実丸による、零恩志家の勉強会が行われるはずだったのに
「ねぇ紅月ちゃん。
実丸の背中のおっきい呪い見た事ある?」
「はい。こないだ見ました
なんの時の呪いなんですかね?
先輩達も知らないみたいだし、高専の先生達も守秘義務があるからって言ってました」
「ふーん。
ちょっとお手洗い行ってきます」
「1人で大丈夫ですか?」
「うん、ありがとう」
いつもは必ずどちらかが付いてきてくれる
紅月ちゃんだけの日は、
言葉だけで済まされることが良くあった
だからこの日も
大丈夫だと思った
『みーつけた』
その声に存在を確認した
「やや…さん?」
言葉を発してしまったっと思い口を抑えた
『実丸の入れ知恵かな?
話しちゃダメって言われた?
聞こえないふりしろって?』
足を早めて戻ろうとする私の前に立ちはだかる綺麗な着物を纏うややさん
『お願い力を貸して莉心ちゃん』
「……」
ブンブン首を振る
『舎羅登さんが危ないの
本当よ』
その言葉に思わず言葉が出てしまう
「舎羅登さんが…」
『詳しく話してる暇はないの
お願い体を貸して』
「それはできません。
…しちゃダメって」
『大丈夫よ。絶式じゃないから安心して』
「でも…」
スーッと扉が開いて
「莉心様?」
紅月ちゃんの声にややさんは凄い形相になり振り返った
「…なに…これ…」
紅月ちゃんの怯えた顔に一瞬で我に返る
この人は危ないと思った
「りゅう!!!!」
振り絞った声はありったけの大きな声になったと思う
その声にややさんだと思ってた人は何本もの念が詰まったお札を体に刺して目は黒く、生気を失くした青白い顔へと変わる
手はあらゆる方向に曲がり私と紅月ちゃんの間で変貌を遂げた
「莉心様お逃げください!」
紅月ちゃんが式神を取り出す
だけど韻を唱える前に
1本の念が紅月ちゃんを貫いた
「きゃあ!!」
壁にぶつかる紅月ちゃんは力なく前に倒れ込む
私には顔を向けた人を見て
血の気が引いていく
「…光愛…姉…」
その姿に記憶が蘇ってく
【莉心ちゃん。またね】
あの日あのまま会えなくなるなんて
【好きな人が出来たんだ】
そして私は今日まで
ううん、あの日から今日まで私も中界を生きてたみんなが忘れていた
【舎羅登って変な名前の人】
私は知らないうちに
知らないところで
この世界の人達と繋がっていたんだ
『りこ。
おいで』
ハッと前を見て伸びる念に目をつぶった
「莉心!」
それを式神を当て逸らす龍様が私の前にコハクにより運ばれる
ミコトとコハクが臨戦態勢に入ったのか空は曇り雷鳴が響き渡り雨が降り出した
「お前は…姉様を乗っ取った奴か?」
龍様はそう言いながら式神を広げ術韻を掛けていく
コハクとミコトにより宙に浮き戦いを始める
「莉心、ここにいろ」
バッとミコトに飛び乗り駆け上がっていく龍様に震える体を抱きしめた
「莉心様大丈夫ですか?」
実丸が来てくれて
「紅月ちゃんが…」
「大丈夫です。気を感じます
阿兎が処置してくれると思います」
「ねぇ…実丸。
あの人…」
「あれは黄泉の死者です」
「違うの」
震える莉心様は俺の腕を強く握りしめた
雨が風により俺達を濡らしていく
そんな事が気にならないくらい莉心様は怯えていた
「莉心様?」
「あの人…知ってるの」
「え?」
「ずっと忘れてた
あの人の事大好きだった
それなのに私今まで忘れてた…」
「莉心様」
「あの人…光愛姉は…
どうしてここに居るの?
どうしてあんなになってるの…
舎羅登さんを好きだったはずだよ?」
莉心様の言葉に言葉を失った
「ねぇ黄泉の死者って死してもなお生きようとするもの…だよね?」
「そうです」
「光愛姉は死んだってこと?」
その答えを聞く前に
「ッグア」
龍様の声に顔を向けると同時にドォンと壁がぶち破れる
「龍様!!」
龍様が念により吹き飛んでしまい壁に衝突した
紅月ちゃんの容態も悪く阿兎さんがかかりっきりになっていた
空を見上げればミコトとコハクにより足止めされる黄泉の死者が目に入った
「龍様!」
思わずその壁の中に駆け寄った
だけどそこにはおびただしい血を流し
真っ白な袴を赤く染めた龍様がグッタリ荒れ果てた部屋の中で倒れていた
「龍…さ…ま」
「っクソ」
実丸がそう言えば式神を取り出した
「音魂の言葉届けし式神、
舎羅登 、妃乃瑠、飛奈、未来弥、九楼
の元へ急がれよ
葉月式 式神 伝」
式神が舞えば雨の中へ術韻で道を作り駆け上がる実丸が見えた
それを追う和兎さんと2人に伸びる阿兎さんの念に龍様に向き直った
「龍様、龍様!」
意識を無くして手にも力がなく
溢れる血を持っていたハンカチで抑える
「龍様…頑張って」
『ぐあああああ』
っと恐ろしい声に体を縮め空を見上げた
「和兎、
前はミコトとコハクに任せて後ろに回るぞ」
「実丸!ミコトはもう無理だ消えかかってる」
「っクソ
龍様の力が影響してるな
ミコト、龍様の近くに行け!」
「コハク、俺らがついてる
雷を集めろ」
和兎の声に天に昇り雷を体にため始める
念が飛び交う中
怨念の数にゾッとした
「実丸…さすがにやばいぞ」
「ああ、解ってる
何年も封印出来なかったんだ
この念の量尋常じゃない」
「実丸さん!和兎さん」
その声に振り向いた
「妃乃瑠」
「私が回復に徹します、阿兎さんをこちらへ援護するようにします
それでいいですか?」
「ああ、そうしてくれ
紅月ちゃんはだいぶ気が戻ってる龍様を頼む」
実丸に頷いて龍様とミコトが眠る壊れた部屋に消えた
「実丸、和兎
今回は取り逃さないようにする
だから手伝え」
俺達の前にそう舞い降りた舎羅登さんが黄泉の死者を見つめる
「無理しなくていいっすよ」
実丸の言葉に首を振った
「もうあれは休めてやりたい」
その言葉に阿兎も合流して頷いた




