二人の距離が再び
「…失礼します」
実丸さんに頭を下げて飛奈の後を追うため実丸さんの横を過ぎようとした
「妃乃瑠」
呼ばれた名前にドキッとした
「はい」
思わず声が上擦る
「こっち来い」
手を握られて実丸さんに強く引かれていく
連れていかれたのは高専の屋根の上だった
「あの…」
腰を下ろした実丸さんが私を見上げた
「座れよ」
そう諭され隣に腰を下ろした
でも少しの距離をあけて
顔を隠してた布をとり頭を振り髪型を戻す実丸さんに見惚れてしまう
「穴開く」
「え?あっごめんなさい」
「いいよ。ほら」
差し出された手にはおにぎりがあった
「おにぎり?」
「食ってんのか?ちゃんと」
無理やり渡されたおにぎりを受け取る
「食べてます」
「嘘つけ、5キロは減ってるだろ
ウエストは4センチマイナス…」
そこまで言って実丸さんは顔を赤らめた気がした
「観察眼だから誤解するなよ別にお前の…」
「っハハ
解ってます。実丸さん得意ですもんね」
「職業病だ」
そう言っておにぎりを頬張る実丸さん
目の前に居て
私を心配してくれてる
1口食べたおにぎりに涙が溢れそうになる
「妃乃瑠。八雲出せるか?」
そう言われ八雲も憑幻化する
実丸さんも続いて皇我を出せば2人が屋根の上で元気に駆け回って行く
「っハア。
やっぱり楽だ」
寝転びながら実丸さんはそう言った
「今日は授業でその話したんです
実丸さんが皇我を憑依してる事はどれだけ大変な事かって」
「そんな話するんだ
憑依してる奴居ないのに勉強になんのか?」
「みんなこないだの実丸さん見て
またファンになってましたよ。
男子とかは実丸さんの話になると目がキラキラして…」
「男にキラキラされてもな…」
俺の少し笑った顔を見て妃乃瑠はまた優しく微笑んだ
「からかわれたんじゃねぇの?」
「え?あ…それは
大丈夫でした」
照れる妃乃瑠を見つめれば視線が重なった
「悪かったな」
「実丸さん…」
「皇我があんなになるの二回目でさ
やっぱり覇王、皇我って伝説だけあるよ
本気でやばいと思った」
「私も…八雲が殺されるんじゃないかって怖かったです」
そう目を伏せた妃乃瑠に距離を縮めれば瞳が重なった
「…それは無い
皇我がどんだけ八雲を好きか知ってるか?」
首を振る妃乃瑠の髪を優しく右手で撫でる
「怖いくらい好きだよ」
実丸さんの言葉と瞳が私を捉えて離さなかった
「実丸さん…」
「忘れたくせにまた好きなの?俺のこと」
その問に目頭が熱くなっていく
胸が苦しくて苦しくて
切なくなる
「飛奈に言われたよ。
妃乃瑠の笑顔を俺が奪ってるって…」
「飛奈が…?」
「どうすれば笑顔になる?
どうすれば…
俺とお前は幸せになるんだろうな…」
「………実丸さん」
私の髪を撫でた手が頬を優しく包んでくれた
実丸さんと向き合えば気持ちが溢れてくる
「こうやって話してくれるだけでいいです
実丸さんが居てくれるだけで私は…」
この言葉を言えばもう戻れない
舎羅登さんを好きなはずの私も
過去を忘れようとした私も
今の
実丸さんを好きになってる私の影に隠れていく
だけど、
私たちの世界はそんなに甘くない
「ッッ」
グッと頭を抑え倒れかかる妃乃瑠を抱きとめた
「妃乃瑠!おい」
「ッッ」
「妃乃瑠!!」
バッと顔を上げた妃乃瑠の顔を血が流れ落ちていく
「妃乃瑠、大丈夫か?」
抑える場所を少しずらすと痣が赤く濃く色付きながら血が溢れる
「これは…」
「実丸…さん…」
意識を失くした妃乃瑠を強く抱きしめた
「実丸」
「大丈夫?」
俺達をつけていたのか、阿兎と和兎が駆け寄る
「妃乃瑠ちゃん血が出てるじゃん!
早く舎羅登さんのところへ」
「実丸、おい」
呆然とする実丸に声をかける
「これ、なんの術韻だと思う?」
実丸の問に妃乃瑠の痣を見つめた
「これ…
授業で習った気がする
この痣って」
阿兎が俺と和兎の顔を交互に見つめた
「舎羅登さんタチ悪いだろ、
輪廻回廊の術韻で永久って何考えてんだよ」
「輪廻回廊…」
「記憶を思い出そうとすると術韻がまたかかるやつね」
阿兎の言葉に触れる妃乃瑠の温もりが少し動いた
「ッッッあっ」
目を開け飛び起きた妃乃瑠は俺達3人顔を見つめた
「私また何かしましたか?」
「ううん。大丈夫よ」
「私舎羅登さんのところへ行く途中だったのに…」
立ち上がり頭を下げて屋根を降りてく妃乃瑠ちゃんを呆然と実丸は見つめていた
「何だよあれ…
また忘れたのか?」
「実丸…」
「まだ分かんねぇだろ」
阿兎や俺の声は届かない
「近づけば離れて
離れれば近づいてきて
俺はどうしたらいいんだよ!」
「実丸…」
「皇我!帰るぞ」
「おい待てよ実丸
舎羅登さんのところへ」
「解ってる
どうしてそんな事をしたのか聞きに行く」
「私達も行くわ
実丸、とにかく皇我をコントロールして」
八雲は必死に妃乃瑠の後を追いかけて行った




