あの頃の妃乃瑠に
バッと突然私の前に顔を出し
「怖い顔してんな」
っと笑うのは
「和兎さん…お疲れ様です」
和兎さんだった
周りが和兎さんに気づき始める
「ちょっと話すか?飛奈」
「はい」
2人廊下を曲がり視覚な場所に身を移す
和兎さんは諭すような顔をした
「妃乃瑠…記憶を閉じ込めた事後悔してて、
また実丸さんを好きになっていく自分が辛いんだと思います」
「でも仕方ないだろ?それは。
自分で選んだんだし」
廊下の柵に持たれて和兎さんは私を見つめる
「そうです。
あの時逃げずに実丸さんに向き合ってれば…
何か変わったんじゃないかなって思います
でも、あんな妃乃瑠は見たくないです」
「正直、
妃乃瑠は実丸とどうなりたいんだろうな。
実丸も良く分からねぇけど妃乃瑠も謎だ
犬が狼がどうしたの前に、
2人自体が何か迷ってるよな
妃乃瑠は特に昔から嘘ヘタだし
顔に出てる
あんなになったらもう終わりだ、
実丸を好きって気持ちが顔に出てる
それって実丸には酷なのにな…」
「でも実丸さんなら守れるでしょ?
妃乃瑠くらい。
なのに何で突き放すの?
中途半端に手だけ出して…
妃乃瑠が可愛そうだよ…
前に妃乃瑠が言ってた。
触れたらもう戻れないって、
その体温がどんな熱さでその鼓動がどんな速さで
私に触れるか知ってしまうからって」
「飛奈…」
今にも飛奈が泣き出しそうだった
「だけど、実丸さんはそれを分かっててどうして妃乃瑠を抱いたの?
男の人は普通なんですか?
大切なら…
手放すくらいなら初めから距離なんか縮めなくてよかったのに…」
私の胸にも詰まってた色んな感情が溢れ出すともう止められなかった
「好きとか嫌いとか誰にだってあるのに…
妃乃瑠はあんな愛されてたのに…
どうして忘れなきゃいけなかったんですか?
覚えてるのにもどかしいです
妃乃瑠には実丸さんしか居ないんだよ…」
「飛奈。やめとけ」
和兎さんの声にハッと顔を後ろに向けた
「悪いな飛奈…」
優しく頭をポンポンとする実丸さんに涙が溢れた
「妃乃瑠はいつも言ってました
実丸さんが私を救ってくれて
私が今ここに居るのは実丸さんのおかげなんだって…
二人に何があったか解らないけど
実丸さんにも妃乃瑠は必要で
こんな関係じゃダメです」
真っ直ぐ見つめた飛奈の瞳に心が揺らぐ
「忘れたいって思ったのは俺じゃなくて妃乃瑠だから。
それが答えだろ?」
悲しい瞳が私を捉えた
「そうさせたのは実丸さんです
紅月ちゃんをあんな風に妃乃瑠の前に来させて、前の日どうなったかみんな知ってるのに…」
「あれは」
実丸さんの言葉を遮った
「薬のせいですか?」
「………」
「妃乃瑠はどんな気持ちで朝を迎えて…
どんな気持ちで降格の言葉を聞いて…
どんな思いで紅月ちゃんを見てたと思いますか…?
好きなんですよ?
妃乃瑠は実丸さんが思ってるよりもいっぱい傷ついてます
でも…それでも好きなんです」
涙が止まらなかった
苦しそうな妃乃瑠の顔が何度も頭をよぎった
でも伝わって欲しかった
そして聞きたかった実丸さんの本音を…
「妃乃瑠が…
妃乃瑠が淫魔に取り憑かれた時
柄にもなく震えてた
この子を失くすかもしれないって思った時
俺は自分でも怖いくらい、
いろんな感情を感じたんだ
気づけば皇我の力を引きずり出していた
抱くしか道はなかった?
本当にそうか?
俺なら上手く剥がせたんじゃないか…
それより絶式から助けてやれたんじゃないか…
そう思うと俺は後悔しか出来なかった
舎羅登さんや藩登様は、
据え膳がどうだって言ってたけど…
俺はもう大切な人を傷つけたり
大切な人を失くすのは…
嫌だと思ったんだ
妃乃瑠とこれ以上居ればその思いは大きくなって…
止められなくなるって解ってた
だからあの薬の夜も、
莉心様と妃乃瑠を助けに行った時グッタリする妃乃瑠を見て、皇我の気をコントロールするのも忘れて
貴族に手をあげようとした
和兎が止めてくれなかったら俺は…
だから最後に妃乃瑠を」
「そんなの勝手です!
傷つけたくない?
もう妃乃瑠はボロボロですよ…
ちゃんと見てください
今の妃乃瑠を!」
「飛奈…」
「実丸さんは何も解ってない
目に見えないものばっかり勘ぐって
妃乃瑠が全身で伝えた目に見えるものは見ない振りして…
妃乃瑠のあの可愛い笑顔…ずっと見てない
ずっと何かを押し殺して、悩んで、苦しんでる…」
「実丸。
もういいんじゃねぇの?
妃乃瑠もいい大人だし、
全部話して楽になれよ」
「そんな簡単じゃない」
「聞いたよ。親同士のことだろ?
もう時効だろ。
妃乃瑠は大体覚えてないんだから何も心配する事ねぇだろ」
「親同士…?
俺はそれなりに過去を受け止めた
けど妃乃瑠は違う
あいつの母親もあいつの兄妹もあいつの爺さんも俺がこの手で殺したんだ」
「実丸さん…」
「実丸」
「あいつの笑顔を一番初めに奪ったのは誰でもない俺だ
だから俺にはあいつを愛す資格も愛される資格もない」
「それなら償えばいいじゃないですか…」
「飛奈?聞いてたか?俺は」
「実丸さん迄いなくなったら本当に妃乃瑠は一人になるんですよ!?
最後まで責任とってあげてください!
妃乃瑠の笑顔は実丸さんにしか出せない
妃乃瑠の幸せは実丸さんじゃなきゃダメなんです!」
「……」
眉間にシワを寄せ
気が荒れそうなピリピリした空気が実丸さんから漂う
「実丸、おにぎりで良かった?って何この空気…」
3人を見回しため息をつく阿兎さんがおにぎりを実丸さんに手渡した
「そういう事?
飛奈…大丈夫?」
阿兎さんが優しく背中を撫でてくれた
「未来弥が居なくて良かったわね。実丸。
飛奈を泣かせたら怖いわよ」
「………」
「阿兎、俺のおにぎりは?」
和兎さんが空気を変えようと阿兎さんに声をかけた
「和兎のもあるよ
ほら。」
「サンキュー
なあ実丸、俺はお前が羨ましいよ」
「…?」
実丸がゆっくり俺を見つめた
「そりゃそうだろ
成績は優秀
カッコイイしモテるし
何より
好きな人に好きでいてもらえてる
この三つってさ、
なかなか叶えられないんだぞ」
「本当にそれだよ。実丸
こんな沢山の人が居て、どんな運命だったとしても想いが通じ合うなんて…
それなのに、妃乃瑠ちゃんの手を放すの?
私も見たいよ。
妃乃瑠ちゃんのあの実丸が好きって笑顔」
「妃乃瑠の笑顔…」
『お兄ちゃんありがとう』
小さい頃の笑顔は俺の心の闇を救ってくれた
『実丸さん////』
久しぶりに見た笑顔は少し好きを隠した純心な笑顔だった
『実丸…好きだよ///』
大人になった妃乃瑠の甘くて優しい妖艶な笑顔
どれも俺を捉えて離さない
「………」
「ってかさ、こじらせすぎなんだよお前ら
グダグダしてねぇで早く妃乃瑠を」
その言葉を伝える前に
「飛奈!って…あ…」
妃乃瑠ちゃんが飛奈を探していたのか廊下の角から戸惑いながら俺達の方を見た
「お邪魔でしたか?」
実丸から視線をそらした妃乃瑠は顔を伏せた
「ちょうど良かった妃乃瑠ちゃん
飛奈ちょっと借りてくね」
「阿兎さん?」
飛奈の耳にソッと耳打ちする
「ごめん、妃乃瑠。
ちょっと行ってくるから。
和兎さん!早く」
「え?へ?俺も?」
阿兎が目で何かを訴えてた
「あーそうだった。行くぞ。阿兎、飛奈」
二人の手を引っ張り廊下を足早に歩いて角を曲がった
「え?飛奈!待って…」
この空間に実丸さんと2人なんて耐えられないよ




