久しぶりの授業
『ねぇどこから転校してきたの?』
それは懐かしい思い出を夢に見てた
『しゃらと?
すごい名前だね』
愛しい声は
今も耳に残っている
思い出せば胸は震える
『夏祭りは舎羅登と行くって言っちゃった』
本当に短い間だった
一瞬で燃えた心の炎は
静まる事も
消える事も
忘れる事も許されず
ずっとずっと俺を苦しめた
『今は何よりも誰よりも舎羅登の側に居たい。誰にも邪魔されたくないよ』
だからもう俺は人を好きになることも
誰かを側に置くことも
誰かに何かを求めるのも
全てやめた
花屋敷の家を出て
身を潜め
あの時、確かに世界は
俺と君を迎えてくれたと思ったのに
それなのに
『好きすぎて辛いの
舎羅登には解らないでしょ?
この先もずっと私は見てるのに
舎羅登は違う
私が居なくなっても
また誰かを好きになって私の事なんか…
無かったことになっていくんだよ
好きなら側に居たいんだよ?
好きならずっと居たいの!』
俺を置いて消えた
目の前で消されていった
「光愛……」
ゆっくり目を開ければ光が眩しくてもう一度目を閉じた
視線を塞いでいた前髪はもう無い
嫌でも俺は現実を生きなきゃいけない
「嫌な夢だな…」
今度は起き上がり目を開けた
未練がましいいろんな感情が
俺の中で蠢いている
やり直したい
何度も思った
忘れたい
何回も試した
術韻を自分にかけてもらった
だけど相手に呪いがいくだけで何も効果はなかった
「…ックソ…」
短い髪の自分を鏡越しに見つめる
俺は、
好きな人を幸せにできない
その現実と
結果を受け止めることが
出来ないまま
時間だけが流れている
___________
あれから数日経って皇我に当てられた気も抜け久しぶりに授業をしていた
「術韻にも色々種類があって、
その中にもまた種類があって。
わかりやすく説明すると…」
黒板から生徒達に向き直るとみんなニヤニヤしていた
「…何かな?」
恐る恐る聞くと
より一層生徒達はニヤニヤしだした
『先生ってやっぱり実丸さんとそういう仲なんですか?』
「え?…あれは、違うの
決してそういう仲じゃなくて…」
『でも怒ってましたよ!?
先生のキスマークに』
生徒達はそれをかわきりに次々に質問してくる
「ストーップ!!
今は授業中だよ?
そんな邪念の塊じゃ実演合格できないよ」
っと言えば
みんながギクッとまずい顔をして静かになる
「あれはね、
実丸さんの中に憑依してる狼の皇我と私の中に憑依してる犬の八雲が惹かれあってるからなの。
狼は番とされる相手を一生大切にするから…
この間の事は本当に些細な誤解が原因でああいう風になっちゃったんだって舎羅登さんが言ってた」
『でもそれって実丸さんも先生も好きな人とは結ばれないってことだよね?』
『そうだよ!キスマークであんなになってたら…』
「……そうだよね…」
『先生?』
「私ね実はこの学校に入るまで、自分が犬憑きとかあんまり考えたことなくて、ある事件で勉強したの。だから生まれた時からの事とかあんまり分からなくて…
でも一つだけ絶対守る約束があって
それはもう潜在意識の中に埋め込まれてるみたいに忘れることが出来ないの
決してほかの男性と関係を持ってはいけないって教えてもらった
それが実丸さんに憑いてる皇我と八雲との約束なの
こないだ実丸さんがあんなになってしまったのは、怒った皇我が制御不能になったみたいで」
『皇我が怒ると
とめられなくなるんですか?』
頷きながら椅子に腰を下ろした
「私に憑いてる八雲は、
普段も私の中に居て…
でも怒りを感じてもまだ私の心に勝ることは無くて…
それは舎羅登様が教えてくれたんだけど。
皇我の力はみんなも見たと思うけど、
阿兎さんや和兎さん、
ましてやこの世界最強って言われてる実丸さんさえ、皇我の気流に当てられて動けなくなるくらい強い力の持ち主なの」
『じゃあ実丸さんって毎日どうしてるんですか?』
『あの強い力をどうやって耐えてるんですか?』
「うん…
直接聞いたわけじゃないけど、
皇我を封印することはできたんだけど
その力を抑えるのは何回も失敗したみたいで
それを利用する練習をしたみたいなの
だから本気の時の実丸さんは尋常じゃないくらい強いんだよ」
そう笑えば
みんなの目は輝いていた
『でもさ、
じゃあ実丸さんが強いのは皇我のおかげじゃないの?』
『そうそう、
なら俺達には実丸さんを追い越すのは無理じゃん』
「待って、違うよ
普段はその気を体から上手に流して外へ出してるだけなの
普段の強さは実丸さんそのものだからね
だけど戦闘中皇我が興奮したりしてくると上手く自分をコントロール出来なくなるから、
それを利用して自分を保つ工夫をしてるみたい」
『実丸さんって凄いんですね…』
『超えれる気がしねぇっす』
「私には解らないけど、
並大抵の努力じゃ皇我があんなに言う事聞くわけないって藩登様にも教えてもらったの
皇我は昔、人に使えてた時は魂につく邪念や悪を食べて浄化させてたんだけど…どんどん体を蝕で手がつけられない最強最悪な狼になったらしくて、伝説でも多く語られてる何個もの村を壊滅させた狼が皇我だったみたい
皇我を体内に入れてるって聞いた時
藩登様は耳を疑ったって言ってたよ
その時で実丸さん、多分12歳くらいだったから…」
『じゃあ先生、本当に結婚とか恋愛とか出来ないんじゃないの?』
『そうだよ、つまり皇我を憑けてる人しか無理ってことだよね?』
「え…そう、そうなるね」
苦笑いしてその場を凌ごうとした
どうして私は八雲を選んで
どうして実丸さんが皇我を憑依して
出会って
恋をして
振られて
記憶を閉じ込めて
ジリリリリリリ
っと終了のチャイムが響けば
みんながお昼だって嬉しそうに礼を待っていた
『先生?』
『おーい』
「あっ、ごめん
授業終わります」
食堂へ向かうみんなを他所に色んなことが頭から離れなくて
「妃乃瑠?どうしたの?」
飛奈の声に顔を上げた
「ううん、私達も食堂に行こう」
「大丈夫?顔色悪いよ?」
教室を出て食堂へ向かう廊下
見たくない光景に足を止めた
「実丸さんって苦手な事とかあるんですか?」
「特にない」
実丸さんと楽しそうに笑う紅月ちゃんの姿だった
「私、やっぱり戦闘術韻は苦手です
韻の詠み方が上手くできなくて、語尾が上がるか下がるかで変わったり、意味合いも違ったり」
「女は戦わなくていいんじゃねぇの」
「実丸さんがそういうならサポートに徹します」
食堂へ向かう紅月ちゃんと七倉校長の方へ足を進めた実丸さんを目で追った
「妃乃瑠…」
飛奈の声に視線を戻した
「ごめん、食欲ない」
来た道を引き返す妃乃瑠
「……妃乃瑠…」




