龍の嫉妬
散らかった髪の毛を片付けていた
『聞こえる』
突然聞こえた声に周りを見回す
「え?」
『こっち』
その声の方へ足を進めた
お薬処の中の階段に綺麗な女の人が座っていた
『はじめまして』
「はじめまして」
少し切ない顔をしたその人はゆっくり私に視線を向けた
『舎羅登さんの彼女?』
「違います!!」
『そう、あのねもう時間が無いの』
「え?」
『お願い、力を貸して』
「あの、どういう事ですか?」
『あのね』
ボーッとしていく頭と
微かに聞こえる小さな音がぼんやり頭に届く
「莉心!!!!」
「ハッ!!」
突然聞こえた大きな声に目を開けた
「龍様?」
「大丈夫か?」
「…あっ…はい」
「大丈夫か?莉心ちゃん!」
舎羅登さんも心配そうな顔で私を見つめた
「お薬処…」
「そうだ
来たら庭に倒れていた」
「え?ここに?」
辺りを見回して
「あの、綺麗な女の人は?」
そう言うと2人は驚いた顔をした
「え?」
「莉心ちゃんちょっと目見せて」
莉心ちゃんの目を見ようと覗き込んだ
「ダメ!」
バンっと勢いよく舎羅登さんが後ろに飛んだ
莉心を桃色の風が包む
「これは…」
龍様が私を見つめる
「何、これ…」
「……やや…か」
舎羅登さんの口から出た言葉に
体が反応する
「やや?」
「…どうして莉心が姉様を知ってる?」
「姉様って?」
「零恩志やや。俺の姉で
舎羅登さんの…」
その先を龍様は口を閉ざした
「さっき言ってた2番目の子だ。
ややはどこに居た?」
震える舎羅登さんの瞳
「そこの階段」
足を進めた舎羅登さんは思いっきり階段に近いドアを開けた
「やや」
「舎羅登さん」
それを龍様が止めようと声をかけた
「やや、出てこい」
「あの…舎羅登さん」
莉心の声も無視する
「やや、頼む」
「舎羅登さん!!」
龍様の声に振り向いた舎羅登さんは凄く酷い顔をしていた
「姉様は3階で眠ってます
呪いをもらって永遠に目覚めない呪いをかけられたでしょ?忘れてんすか?」
「……龍」
「永遠に…目覚めない…?」
莉心が心配そうに舎羅登さんを見つめる
「今度は莉心ですか?」
龍様の言葉に
「龍様!」
思わず止めに入ってしまった
「それとも妃乃瑠っすか?」
「言っていいことと悪いことがあるだろ」
怒りを宿した舎羅登さんの声にビクッとなった
「龍様…」
「姉様はそうやって絆されて、
裏切られて捨てられたんだ」
「………」
反論せずに黙り込む舎羅登さん
「龍様、やめて
そんな事言わなくていい」
ギュッと莉心の腕を掴む
「舎羅登さん、
俺はあんたを許した訳じゃない。
次莉心が危険な目にあうなら容赦しない」
手を引っ張られお薬処を後にした
「龍様」
「……」
「離して、龍様!」
「……」
黙って歩く龍様は花屋敷の私の部屋に足を勧めた
「莉心様?」
実丸の声に顔を向けるが
力強く引っ張られる
実丸や紅月ちゃんが心配してあとを追いかけてくる
龍様から感じる気を察したのか阿兎さんや和兎さんも駆けつける
「龍様!」
「だまれ!!」
バッと振り返りそう声を荒らげた龍様にビクッとなった
「……」
声も出ず龍様を見上げた
「龍様どうされました?」
「ここは花屋敷の敷地です」
阿兎や和兎も宥める
実丸はジッと龍様を見つめていた
「どうして、あんな簡単に心を開く?」
「え?」
「お前は俺の許嫁で俺に身を捧げるんだ」
「……龍様?」
「ほかの男の髪を切って、抱きしめあって
危機感無さすぎなんだよ」
「それは…」
「俺が知らないとでも思ったか?」
グッと胸元を捕まれ引き寄せられる
「優しいだけじゃ物足りないか?」
「龍様…?」
瞳がぶつかり揺れ動く
こんな龍様は知らない
どうしてこんなに怒ってるのかも
どういう意味で言われてるのかも解らない
「莉心が、慣れるまでと思ってたけど
もうやめるよ」
「え?」
「和兎、実丸、藩登様に伝えろ
今宵、莉心を清め契る」
「龍様…何言ってんすか…?」
和兎さんが目を見開き龍様に聞き返す
「もう待つ必要はない」
「ちょっと待ってください」
実丸が私の胸元を掴む龍様の手を離し間に入ってくれる
「その事はまだ莉心様に伝えてません
取り急ぎ行う必要はないでしょ」
実丸の袖を掴む
こんな龍様は見たくない
あの時みたいに冷たい目
「取り急ぎ行う必要はない?
許嫁でありながら他の男を抱きしめるやつだぞ?」
「あれは違うの、本当にそんなんじゃなくて」
「どっちにしろ、龍様その判断は賛成できません」
阿兎さんもそう龍様を宥める
「契るのはまだダメです
莉心様にも、もっと考えて頂かなくてはいけない事があります」
「考える?
何を考える必要がある?
あいつをどんな奴か知らないで、
よくそんな慕えるな
俺じゃなくてあいつがいいのか?」
龍様がすごく怖く思った
実丸の後ろに隠れる
「そうやってすぐほかの男に懐いて隙見せて
いい加減にしろ」
龍様が捲し立てるのを聞いたあと恐る恐る顔を上げた
「…?」
阿兎さんも和兎さんも、そして実丸まで少し笑いを堪えてるように肩をフルフル震わせていた
「龍様…」
阿兎さんの声に龍様は視線を送る
「それってヤキモチですか?」
その問に龍様は何かを考えてバッと赤くなった
「やべぇ、龍様自覚なしのオラオラ系」
和兎が笑いながら龍様の肩を叩く
「やめろ、和兎!」
「はあ…とりあえず契るのは無しな」
ため息まじりに実丸はそう言って
付き合ってらんねぇっと言いたそうな顔を私に向けた
「あの、さっきりから ちぎる って、何のことですか?」
綺麗な瞳が実丸を捉えた
「そういう事は同じ女同士の阿兎に教えてもらえ」
「え?ちょっと何上手いこと逃げようとしてるの!」
実丸の耳を引っ張ってそう言えば
莉心様に聞こえない程度の声で
「あんな瞳の子にアレソレ教える自信はないです」
「アレソレって…」
「俺は怒ってるから」
そのやり取りを裂くように龍様は怒った顔をしてお屋敷に戻って行った
「莉心様良いもの見せてくれてありがとう」
和兎はそう言いながら
気にしなくていいよと頭を撫でてくれる
「それより莉心様、舎羅登さんと何してたんですか?」
阿兎さんは龍様が怒った原因を知りたそうなそんな瞳をしていた
「あのね、舎羅登さんってカッコイイのに髪の毛とかボサボサだったから切ってあげようと思ったの」
歩きながら莉心様は私達3人に必死に訴える
「だって、カッコイイのに前髪で目とか見えないし、いつもボサボサ、ボリボリかいてたし
そしたらね短くなった舎羅登さん見て助手さんとかが、喜んでて…」
歩くのをやめた莉心様は私の顔を見つめてくる
「だけど、前髪で見たくないものを見ないようにしてたって聞いてなんか…ほっとけなくて
好きな人を2回手放して
二人目なんか最悪だったって言ってた」
「二人目なんか…?」
阿兎さんの顔が少し怒りを宿したように見えた
「うん、
舎羅登さんのこと助けたいって言ってくれた人で、ずっと一緒に居るからって…
でも結局その人はここに居ない
それが答えだからって」
そう言えば阿兎さんの瞳が揺れた気がした
「そんな事言ってたんだ」
「阿兎、やっぱり俺達の知らない事もあるんだよ」
「あと、
ややって女の人が声かけてくれたんだけど…」
そう言えば3人の顔色が変わった
「やや…って」
実丸も信じられない顔をしていた
「阿兎…」
「やっぱり彷徨ってるんだよややは。
あれは見間違いじゃない
このままじゃややがまた何かしちゃう」
焦りを宿す阿兎さんはほとんど見たことがない
その言葉に頷いた和兎さんと実丸は
私の方へ向き直る
「莉心様、ややは他に何か言ってましたか?」
「舎羅登さんの彼女?って聞かれた
あと…時間が無いって」
実丸はその言葉を聞いて
和兎さんと阿兎さんと頷いた
「莉心様、これからもし、声が聞こえても見えても言葉を交わしてはいけません」
阿兎さんの真剣な眼差しに頷いた
「言葉を交わせば莉心様の中にややが入ってきます」
「え?!入ってくるの?
えっ…と何だっけ…妃乃瑠ちゃんもなったやつ?」
「よく覚えてましたね。そうです
絶式をかけようとしてます」
実丸も真剣な眼差しを私に送る
「ややとの事やっぱり舎羅登さんにちゃんと聞こう。どうしてあんな風な事になったのか…」
阿兎さんの言葉に
また予感した
この世界は私が生きてた所では起こり得ない事が沢山あって
『時間が無いの』
って言った やや って呼ばれる龍様のお姉さんはどうしても舎羅登さんに会いたいみたいに思った
会って何かを伝えたいんじゃないかなって…
でも私にはその事がどういう事か解ってなかった
好きな人を思って選んだ道が
好きな人を苦しめてしまってること
好きは罪に成る
好きな人を捕らえたまま




