思い出したい
あれから二週間が過ぎた
「実丸さん…」
高専の寮の最上階にある自室を出て廊下から外を見渡す
綺麗な月にとても切なくなった
前にもこんなふうに綺麗な月に見守られていた気がする
それからしばらく
実丸さんと会うことはなかった
首元に赤く主張していた跡も消えかけてきていた
その印を見る度、胸の奥がギュッとなる
それと一緒に知らない感情が溢れてくる気がした
『妃乃瑠…』
実丸さんのその声が頭から離れない
力強い腕も
少し見透かした切れ長の目も
『悪かったな』
優しく頭を撫でてくれる感覚も
思い出したい
どうして忘れたのか…
思い出して
実丸さんと向き会いたい
矛盾してる心と
きっと覚悟を決めたハズのあの日の自分が
解らなくて…
『好きなやつがいるんだ、俺』
それは私じゃない誰かで
阿兎さん?
紅月ちゃん?
誰が実丸さんを一人占めしてるんだろうとか
毎日そんな事ばかり考えてしまう
額の痣を触ればより虚しくなった
「だから言っただろ?」
その声に振り返れば舎羅登さんが居た
「舎羅登さん…」
隣に立って
「ここが」
っと私の胸を指す
「ぽっかり穴が空いたみたいになるって」
「あの日の私はどうしてこんな事を望んだのかな…って。
それを受け入れるほど辛かったんですかね?」
「妃乃瑠…」
「頭では分かってます
でも視界に入るだけで胸がざわついて
声を聞けば…心地よくて
触れられれば気持ちが溢れそうになる」
揺れる瞳はもう引き返せないと物語っていた
「妃乃瑠が記憶を消したのは
実丸に振られたからだ」
「え?」
「実丸に嫌いだと言われて無理やり犬を外した」
「私が…八雲を?」
「お前の場所にはもう紅月が居ただろ?」
『実丸さんが好きなので
邪魔しないでください』
あの日の言葉が蘇る
「その術韻は解けることもないし、
妃乃瑠が実丸と過ごした日々を思い出す事もできない」
「……はい…」
「後悔しないと言ったぞ、お前は」
舎羅登さんと視線が重なり少し怒りにも似た感情を読みとった
「ごめんなさい」
「もう覚悟しろ
実丸が優しいのはお前に八雲が憑いてるからでお前自身にじゃない」
「……」
解ってる
八雲が居なくなれば私なんて実丸さんと関わる理由なんてないくらい
「妃乃瑠…」
「はい」
力なく返事した妃乃瑠は自室へ帰っていく
「結局引き離したって、
記憶消したって
こんなになるなら素直に話せば良かったんだろ」
月を見上げれば胸が締め付けられる
何度も何度も俺たちを見てるその月になら
聞こえてもいいと思った
「やや…」
その名前を呼べば体中がいろんな感情でいっぱいになる
あの日の俺は間違っていたんだろうか?
2度も大切な子の手を離して
守ろうとしたはずなのに
俺は傷つけることしか出来なかった
何回悔やんでも
何回後悔しても
あの時間はもう返ってこない
「っクソ」
触れた温もりも
無邪気な笑顔も
惹かれあっていくあの日々も
俺はこんなにも覚えているのに…
だから嫌いなんだ
好きとか嫌いとか…
苦しくて仕方ない




