未来弥の思惑
「舎羅登さんの過去?」
和兎はそう言いながら知らないって顔して首を振った
「昨日少し聞いたの。
欲しくてたまらないって思ってた子は消されたんだって」
「消された?」
「うん、何がどうなったかも解らないけど」
「でも莉心様を連れてきた時怒ってたよな、
消されるってそれ知ってたからじゃねえの 」
「調べようよ、舎羅登さんの過去
そしたらややも動き出せるかもしれない」
「やめとけって
ややも別に望んでないだろ?」
「でも、今回の事も」
「舎羅登さんはハッキリ断ってただろ?
お前とは付き合わないって、しかも今ややが目覚めて動かれると面倒だろ」
「感だけど…ややが何かしそうで怖いの…」
阿兎が珍しくそう弱音をはく
「今いろいろごちゃごちゃしてるから気が滅入ってるだけだろ
俺も気にかけておくよ、ややの事」
「うん…」
「阿兎、ややの事は誰も悪くない
あれは事故だったんだ」
「事故…」
「舎羅登さんが悪いわけでも、ややが悪いわけでもない」
「………」
「阿兎…お前も悪くないよ」
和兎の言葉に頷いた
____________
「お清めの儀式?」
「はい、この襦袢着て待っててください」
実丸から襦袢を預かり
着替える
手元に積まれる書類を手探りに見るが
お清めの儀式については何も無かった
『舎羅登さんと影様が来ますので』
っと言って出ていった実丸の言葉に
おじいちゃんが凄い人だと解った
スーッと冷たい風に部屋の方へ顔を向け
外に繋がる窓から風が優しく吹き入る
その窓の隙間が一瞬で黒くなり
見開いた瞳が重なる
「っ!!」
ブワッと無数の髪が私の体に巻きついた
グッと顔が近づいた
この感覚
知ってる…
『か…えし…て』
「いや…」
『りゅ…う…かえ…し…て』
「い、いゃぁぁぁぁ!!」
バンッとすごい力に部屋の襖にぶつかり破れた拍子に外に掘り出される
部屋の中から消えるその女が
黄泉の死者だと気づいた時には既に宙を舞っていた
「莉心!」
シュッと暖かい優しい温もりに包まれ
浮く感覚が終わりを告げた
目を開ければミコトとコハクを使い龍様が私を助けてくれていた
「大丈夫か?」
「龍様…」
「何があった?」
ゆっくり部屋の前の廊下に降ろされ
実丸や紅月ちゃん、阿兎さんや和兎さん、舎羅登さんも駆けつけてくれた
「白姫が…返してって」
「返して?」
龍様がそう言えば頷いた
「龍を返してって…」
「俺?」
「うん…」
「龍様…」
阿兎が心配な目を向けてくる
「俺には白姫に名前を呼ばれる筋合いはない」
「じゃあどうしてっすかね…」
和兎が不思議そうに莉心様の部屋に入っていく
「それよりどうやってこっちに来たか調べる必要があるだろ」
実丸は、そう言いながら俺らに視線を向けてきた
「莉心様…とにかくあちらの大広間のお部屋でしばらく休まれてください」
紅月がそう言って莉心を大広間に連れていく
「とにかく修復係に連絡を」
龍様はお清めの儀式の準備のためそちらの方へ向かった
「やっぱりお清めの儀式急ぎすぎたんじゃない?」
「どうして?ダメか?」
和兎の言葉に頷いた
「どうしてこのタイミングで出てきて、龍様を求め、莉心様の前に現れたかって考えたら…おかしいと思わない?」
「そうだな…」
和兎は納得したよう頷き
作業をする実丸の横に腰を降ろした
「実丸。
紅月ちゃんとヤッたの?」
和兎が真剣な眼差しで俺を捉える
「聞かれてる意味が解らない」
真顔でそう返してくる実丸にため息をついた
「はあ…
そのままの意味だけど?
噂になってるぞ
高専で紅月が実丸にキスされたや、付き合えそうだ、いろいろ言ってる」
「…紅月が?どうして?」
「俺に聞かれても知らねぇよ
だいたいキスマーク見せるか?」
「…誰に?付けた覚えもない」
「妃乃瑠にだよ」
「俺は紅月とは一緒に行動してないし、
行動したとしてもタイプじゃない」
そう言いきる実丸
「ッハハ」
「アハハ」
和兎と黙って作業してた阿兎まで笑い出した
「タイプじゃないって」
「実丸からタイプとか聞かされるなんて思ってなかった」
「笑うな」
「妃乃瑠さ、あれは時間の問題だぞ実丸。」
「何が?」
和兎が肩をガッシリ掴んでくる
「舎羅登さんの名前を言えばパッと明るくなるんだけど、お前の名前言った時の顔…
あれは最高だな」
「やめろ、からかうな」
肩に置いた俺の手をよける実丸に続き阿兎も
「和兎、妃乃瑠ちゃんに意地悪しないで」
と俺を軽く睨む
「人聞き悪い奴らだな
誰も意地悪もからかってもねぇっつの
業務の連絡で、俺か実丸に結果知らせてって言っただけだし
そしたらさ、実丸って聞いた途端スゲェ瞳揺らして頷いてさ…
あーこいつ、また実丸の事好きになってんなって」
そう言えば阿兎も実丸も何がどうなってそうなる?って顔を向けてきた
「和兎、さすがに妃乃瑠ちゃんもそんな直ぐに実丸に心変わりしないわよ」
「もう、忘れさせるには八雲の記憶まで無くさなきゃ無理じゃねぇの?」
「それは出来ないだろ」
「何回も何回も、八雲の心から妃乃瑠に流れ込んで来るんだろうな…好きって気持ち」
実丸が目を伏せその話を聞き流そうとした
「まあこれ以上は言わないけど」
「充分言ってるよ!和兎、本当にデリカシーないんだから」
「まあ、それもそうだけど、紅月ちゃんは詳しく知らないから、自分の力でココを勝ち取ったって思ってるじゃん?それも良くないことだろ?」
「そうね、確かに…
実丸の負担が増えてるのも事実だし」
「俺は構わない。
あいつが雑務してくれるなら」
「実丸さ、何考えてるの?」
阿兎は少し怒った顔で俺を見つめた
「何も」
「何か必死に隠してる。
淫魔の事件からずっと
私たちと距離を置いて突き放そうとしてる
でも妃乃瑠ちゃんが関わることなら躊躇せず声かけてきたり、助けて欲しがったり…
正直実丸と妃乃瑠ちゃんが上手くいくならって気持ちで付き合ってきたけど、何も教えてくれないし、実丸がしてる事理解できない」
「……」
実丸は押し黙るように視線をそらした
「話せない?私たちには。
そんな信用ないかな…」
「話せないんじゃない
話せば上手くやる自信が無いだけだろ実丸は」
和兎はそう言いながら私の肩を叩いた
「和兎…」
実丸は少し困った表情でまた視線を伏せた
「実丸ってさ戦闘以外不器用だから、
1度話せばやり通すの難しくなるタイプだよな
前からそう。
妃乃瑠の事も近づきたい気持ちと突き放さなきゃいけない気持ちで揺れて、結局淫魔の件で『たが』が外れたみたいに好きが止まんなかっただろ?
だからあの時、決めたんだろうなって
適度な距離も適度な関係も自分の中で決めなきゃって…
まあ妃乃瑠の様子じゃその距離はただの不安で記憶消したいくらい辛い距離になってたけど」
実丸は図星を突かれてるようななんとも言えない顔をした
「実丸が望むなら私たち何でもするよ?
でも妃乃瑠ちゃんとこんなになってからの実丸は無理しかしてない
いつ死んでもいいって顔してる」
「……阿兎…和兎…
ごめん」
実丸はそれ以上何も言わずそのまま私たちの前から立ち去って行った
「あの…」
私たちの背後から声がして振り返れば
「未来弥」
「おう、未来弥」
「こんにちは…」
罰が悪そうな顔を私たちに向けた
「どうしたの?」
「今の話なら全然聞いていいんだぞ」
和兎は笑いながら未来弥の横に腰を下ろして廊下に座り込んだ
「俺、
確かめたいことあるんです」
「え?」
「何だよ?」
阿兎さんも俺の前に腰を下ろした
それを見て俺も廊下に座り込む
「こないだ舎羅登さんの所で妃乃瑠が目を覚ました時の話なんすけど…
実は妃乃瑠の事心配で先に1人でお薬処へ行ったらちょうど実丸さんが入っていって…
立ち聞きするつもりはなかったんすけど、
あんな事が合って、そりゃ助けたのは実丸さんだけど、原因も実丸さんだろって思って…
なのに平然と妃乃瑠の前に来る実丸さんの神経に腹たって文句言ってやろうって思ってたんです。
そしたら、実丸さんが抱えてるもの?って言うか過去みたいなの舎羅登さんに話してるの聞いちゃって」
「それ、すげぇ気になる」
「私も」
「まあ、簡単に言えば。
実丸さんの故郷を妃乃瑠の1族が潰して、恨んだ実丸さんがやり返しに行ったら妃乃瑠の爺さんに狼を憑依させてもらうのと引換に妃乃瑠を守るって無理やり約束させられたらしくて
いろいろ端折ったんすけど、妃乃瑠を舎羅登さんに任せて、実丸さんが1人で妃乃瑠の親父さんが仕切ってる夜叉会を殲滅しに行くみたいです」
「夜叉会ってあの夜叉会か?」
和兎さんが驚いて俺を見つめる
「妃乃瑠の親父が夜叉会の幹部らしくて」
「だからあんなに突き放そうってしてるの?
妃乃瑠ちゃんも知らないでしょ?」
「妃乃瑠は自分の親父が夜叉会だとは知らないみたいです。昔の記憶も曖昧で、実丸さんが自分の母親や爺さんを失くす殲滅戦の指揮を取ってたのは知らないと思います」
「何だよ…あいつら昔からこじらせてるじゃん」
「それで、未来弥の試したいことって何?」
阿兎さんは俺を見つめた
「妃乃瑠の爺さんが実丸さんに狼を付けた理由が俺の予想通りなら、実丸さんに知らせたくて」
「知らせてどうすんだよ?
あいつすげぇ頑固なんだぜ?」
「そうよ、今も見てたでしょ?
どんな事してももう妃乃瑠ちゃんをどうこうしようとは思わないんじゃないかな
それに、狼と犬は階級的にも狼が上で、慕うのも当たり前じゃない?」
「実丸さんは…きっとそうです。
どうこうするつもりもないと思います
でも…
番なら多分、それは一生離れられないんじゃないかなって…」
「番ね…」
「それの何が試したいこと何だ?」
「狼は番を溺愛します。一途で…
でももし、妃乃瑠と舎羅登さんがそういう関係になった時、実丸さんの中に眠る皇我を誰も止めれる気がしません」
未来弥のその先の言葉に俺たちも少し見てみたいと思った
「気になって高専の図書室で調べたんです、
皇我が覇王と呼ばれてた時、村や街を1人で滅ぼしてしまった時の原因が、八雲です」
「それ本当か?」
「本当なら大変よ…」
「番がほかの狼に攫われたんじゃないかって書いてました
皇我の気の流れは怒り時、藩登様の怒り状態の気流の10倍と言われてます」
「10倍…あれの10倍!?
想像つかねぇよ」
「藩登様が昔、夜摩登様の戦いの時に出したって噂の気流…あの時でこの街の3分の1が吹き飛んだって書物読んだわ
後、高専を黄泉の死者に襲われた時ね
校舎をそこに居た全員で守の光の壁作ったのに校舎にヒビが入った事あったわ」
「なので、皇我の普通の時でも気流に当てられると俺達は戦闘も出来ないかもしれない」
「だから試すって?」
「そうなってからだと遅いです
死人が出ます
なので、皇我を引きずり出して実丸さんに気づいてもらいましょう」
「なるほどな」
未来弥の言ってる通り
実丸にとって妃乃瑠は
簡単に手放しちゃダメな子なんだって
もっとちゃんと気づいて欲しい
いつも透かした顔して
余裕振って
我慢が得意?
忍耐が人並み以上?
だからって妃乃瑠を手放して平気だって顔しやがって
「それ、俺は乗ってやるよ」
「和兎!」
「阿兎、俺はさ、あの顔が必死になる所見てみたいんだよ」
「……そんな理由で」
「阿兎さん、これは妃乃瑠にも思い出させる為なんです。あいつ好きすぎて辛いって言って自分の感情から逃げたんすよ
俺許せなくて…あの笑顔でいつも実丸さんの話をする妃乃瑠の事が俺も、飛奈も大好きだったんです
ってか好きすぎて辛いってなんすか?
他の子に取られたくないからって忘れたら
その時点でその子に負けてるんすよ…」
「未来弥…」
阿兎さんが優しく背中を摩ってくれる
「本当に妃乃瑠ちゃんは飛奈と未来弥に愛されてるんだね
羨ましいよ…解った
明日の高専での授業、参加するように実丸に伝えておく」
「俺が今夜やります」
「舎羅登さんにバレるなよ
いろいろ厄介だから」
「はい。」
「じゃあ明日
多分この時間からじゃもうお清めの儀式も延期になりそうだから
また何かあったら式神飛ばすからね」
「はい。」
俺達は侮ってた訳じゃない
ただ、覇王皇我の強さを目の当たりにする




