それぞれの夜
「莉心を助けてくれた事本当に感謝してます」
終始ワイワイしながら盛り上がったご飯会も終わりになり龍様がおじいちゃんとおばあちゃんにそう言ってくれた
「昔な、莉心ちゃんくらいの一人娘が居たんだ、けどワシがまだ花屋敷に出入りしてる頃
留守の間に夜叉会に攫われてしまった事があってな」
瞳を揺らし遠い目をしたおじいちゃん
「あの日、莉心ちゃんを連れてきた婆さんを見て気持ちは同じじゃったよ
あいつが心配してワシらに出会わせてくれたんだろうってな
もう少し早く帰って居れば
もう少し強ければ
悔いてばかりいるワシらに
娘が前に進めるために出会わせてくれたんだろうって」
「おじいちゃん…」
「まあおかげでこうやってまた花屋敷と縁を持てた」
ガハハっと笑うおじいちゃん
それに釣られて笑う
実丸と妃乃瑠ちゃんを除いて…
「妃乃瑠、酒取ってきてくれ」
実丸さんにそう言われ戸惑う顔をした
「あっうん…」
部屋の戸を開け廊下に出ると舎羅登さんがタバコを吸っていた
「中に入らないんですか?」
ドキドキしながら声をかけると
少し冷たい視線に目が離せなくなった
「仲いいんだな」
「え?」
「実丸とコソコソ話してただろ」
「お酒取ってこいって」
「お前が好きなのは俺じゃないの?」
「…え?
あの…それは…」
どうしてそんな事を聞くのかも
ドキドキする気持ちも
私の思考回路を奪っていく
グッと手を引かれ舎羅登さんの腕の中に包まれる
「舎羅登さん…」
グッと耳元に唇が当たる感覚に身を縮めて
照れを隠す
「俺を好きでいればいい」
シャッと開いた戸の音に腕の中から顔を向けた
「……」
「……」
実丸さんと重なった視線はすぐ逸らされた
「おう、悪いな」
舎羅登さんの声に実丸さんは
「盛るなら、部屋に行ってください」
冷たく言い放ち
「酒は俺が取ってくるよ」
そう言いながら食堂へ向かった
「…妃乃瑠?」
「…はい」
「今日ずっと意識してるだろ、実丸の事」
「え?違います」
「何かあったのか?」
「何も無いですよ」
「そうか…」
好きすぎて辛いと言った妃乃瑠
好きだった事を忘れられない事も辛い
全身が覚えてる
その熱も
その声も
その仕草も
離れても、近くに居ても
自分自身がいる限り
そいつは消えない
________
「っクソ」
ガコンっと食堂の椅子を蹴りあげる
「……」
バッと視線の先に龍様が居た
「先にお酒と思って来ただけだ
見るつもりはなかった」
「いえ、すみません」
「……妃乃瑠は知ってるのか?」
「え?」
「夜叉会が父親の組織だって」
「どうして知ってるんですか?」
「俺は一応口外禁止の話も聴ける特権は持ってるから」
そう言えば少し笑った実丸
「知らないと思います」
「じゃあ何故かばう?」
「後々嫌でも知るでしょ
その時になるべく傷つかないように」
「俺には解らない」
「え?」
「そこまで人を好きだという感覚も
そこまで他人の為に自分を犠牲にする感覚も
妃乃瑠はそれを何も知らない
それでいいと言う感覚も
俺には解らない
耐えるのが得意だったとしても
お前はいつ見ても苦しそうだ」
「…龍様…」
「和兎と阿兎が言ってた
お互い好きなのに実丸は1人で抱え込むから苦しいんだって」
「…あいつら」
ため息をついた実丸は
「そんな事だけでって笑われるかもしれないですけど、俺妃乃瑠の笑顔に救われたんです
小さい時、生きてる事も死ぬ事も怖くて
がむしゃらになって、悪も解らずドンドン堕ちていくそんな時に、
俺を奮い立たせてくれた、
救ってくれたのが妃乃瑠です
向こうは覚えてないと思いますけど
俺だけが知ってればいいんです
あの笑顔が曇らないように
俺は護るだけでいいんです」
「そう思える人が居るということはいい事だな」
龍様は優しく笑う
「俺はそれを知らないと言ったら莉心が損だよって怒ってた」
「莉心様らしいっすね」
「あいつはどうして、
あんなに笑って、
酷いことをしようとした俺を許そうとしてるんだろうって考えれば考えるほど解らない」
「龍様が好きな人に似てるからじゃないっすか?」
「……」
「好きな人の苦しそうな顔は見てられない」
「…」
「変わっていけると思います
あの人の傍に居ればみんな」
お酒をとり頭を下げ食堂を出ていく実丸
「変わっていける……か」
暗い夜空を照らす月は
まるで莉心の様だった
_______
「実丸にどうして意地悪するんですか?」
「阿兎か…」
1人で屋根の上に腰を下ろし晩酌する舎羅登さんの横に座った
「実丸が開けるの知ってて抱きしめてた
舎羅登さんは何がしたいんですか?」
「さあな」
「実丸覚悟決まったみたいな顔してて、凄く怖いです」
「阿兎はよく見てるな」
「和兎と実丸の事なら」
「妃乃瑠はそんな阿兎が羨ましかったんだろうな」
「え?」
「いつも阿兎に負けるんじゃないかって不安、和兎みたいな力技もない、実丸みたいに全てに長けてるわけでもない…
ましてや好きな男は、阿兎を見習えって毎回怒って
そばに居たいけど居れば辛い
負けたくないけどから回って
助けてやりたかったよ。昔から…
実丸。実丸。って
それ以上好きになるなって思ってた」
「舎羅登さんって妃乃瑠が好きだったんですか?」
「あー勘違いすんなよ。
俺はロリコンじゃねぇよ」
「でも…」
「似てるんだ
俺を好きだった子に」
悲しい瞳の中で月が綺麗に揺れていた
「好きだった子…って」
ハッとした顔をして私を見つめた舎羅登さん
「うっかり話すとこだった、
お前は『やや』と繋がってたんだった」
「舎羅登さん!やっぱりややと何かあったんですか?」
「何もねぇよ。
ほら帰れ」
「ややはずっと待ってたのに…
今回の事も」
「阿兎…
少し一人にしてくれ」
「舎羅登さん」
「ったく、どいつもこいつもお前らの年代は聞き分けねぇな」
笑いながら寝転がる舎羅登さんは
手を何も無い空へ突き出した
「知ってるか?
異世界から来た奴は特例がない限り消されるんだ
新しい場所でも過ごしてきた場所でも」
「はい、
舎羅登さんに聞きました」
「俺が好きで欲しくてたまらない女は
消されたんだよ
俺が幼稚だったせいで」
「消された…って」
「勝手に好きなってきて
勝手に俺の中に入ってきて
勝手に嫌いになって
勝手に出て行った」
「……」
「俺の目の前で消えていった」
「そんな…」
「その女が最後の最後に
好きすぎて辛いって言ったんだ
妃乃瑠みたいな消えそうな声で
俺に助けを求めてきた
けど俺は何も出来なかった
その手を離してしまったんだ
だから妃乃瑠に言われて助けたいと思った
八雲も剥がした時
妃乃瑠が死ぬかもしれないと思った時
重なったんだ
あいつに…」
震える声に
強く握る拳に
舎羅登さんの弱々しい部分を初めて見た
抱える過去は
深い闇のように思えた
「わりぃな…
やっぱり一人にしてくれ」
それ以上は何も言えなかった
どうしてみんなすれ違ってしまうんだろう
ボタンをかけ違えたみたいに
どんどん間違っていくんだろう
ただ誰かを好きで
恋しくて
未来を夢見ただけなのに…




