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愛しき姫は異世界に  作者: janky
第6章
55/220

妃乃瑠の決意

その日の夜



「ん…」


ゆっくり目を開けると霞んで見える

やがてハッキリと見えだして顔をのぞき込まれる


「目、覚めたか?

妃乃瑠…」


優しい舎羅登さんの声に涙が溢れた



「八雲が、ありがとうって…

泣いてる」


心の中で擦り寄る八雲の感情に当てられてく


「こっちこそ、

妃乃瑠を守ってくれてありがとう」


舎羅登さんに頭を撫でられて

抑えてた自分の気持ちも溢れだしてくる


「舎羅登…さん…

お願いがあります」


ギュッと舎羅登さんの腕を掴んだ


「どうした?どっか痛むか?」

「もう、苦しい…

実丸を好きな気持ちが苦しい…」

「妃乃瑠…」

「私のこの気持ち…消してください」



その目は冗談ではなかった


「妃乃瑠…それは」

「このまま実丸が他の誰かのものになっていくなんて…見てられない」


ぐしゃぐしゃっと頭を撫でてタバコに火をつけた


「はあ。ったく何を言い出すかと思ったら…


いい加減にしろ、

こじらすのは勝手だけど、記憶いじるとか意味わかってんのか?」


「もう、無理です…本当に私…

また八雲を…」


思いつめた瞳も

揺れる潤んだ瞳も


また過ちを犯してしまう


その恐怖を宿した瞳も


もう限界だと全身で伝える妃乃瑠…


俺はその様子を酷く知っている


「良いのか?」


魔が差したわけじゃない

助けたいと思った


「付き合えなくても好かれてなくても…それはまだ耐えれるけど

目の前で違う子を求める実丸なんて…見たくない」



余程堪えたんだろうな…

あの新しい子が実丸といる所を見て


「ココが…」


舎羅登さんはそう言いながら胸を指さした


「空っぽになるぞ…」


「…うん」


「いつも言いようの無い空虚感(くうきょかん)がここを埋め尽くす、消した熱情は戻ろうとはしない」


「…うん」


「実丸はどうすんだよ?」


「え?」


「お前にずっと好きを突きつけられて、淫魔から…って知らねぇのか」


「…覚えてます。

小雪にお願いしたから、実丸がいいって」


驚いた顔をした舎羅登さんは


「じゃあ見ただろ?

傷だらけになってでも護ろうとした実丸を。

傷つかないように耐え抜いたんだ…

燗裏(ただうら)地区殲滅戦の時は絡繰(からくり)にお前が引っかかって毒針くらうとこを庇って死にかけたり

今回だって、お前を救うために狼引っ剥がして踪追うし…

実丸の事何も分かってねぇよ妃乃瑠は」


そう言えば思い出したように涙を流す


「知ってます。

好きだから誰を好きかも知ってます」


「…だから」


こじらせすぎだろ…


「阿兎ちんの事いつも優しい目で見てて…こないだも2人で夜会ってるみたいに言ってた

いつも頼るのも笑うのも全部

阿兎ちんだから…」


「それは、相談してたんだろ

どうせお前の話だよ」


「私の話だった…

諦めてほしいって、冷たくしたら逆効果だって…」


「それは…」


「舎羅登さん…」


決意した瞳に負けたわけじゃねぇ

でも俺はもう何かを無くすのは嫌だと思った


「…解ったよ。

後悔するな…って言っても無理だけど」


術韻を唱えながら妃乃瑠の額に指先をあてる


「妃乃瑠…今の気持ちを忘れても

お前と実丸は離れられないぞ」



術韻を唱える中、妃乃瑠はひたすらに涙を流した



『ねぇ、私怖くないよ?

舎羅登と居れるなら、最後消えても』



その涙を見つめながら遠い日のことを思い出していた


『好きすぎて、辛いの。

朝も昼も夜も

笑う時も泣く時も怒る時も


どんな時も舎羅登のそばに居たい


だから私の事好きになってよ…』



「はあ…」

「実丸…」


妃乃瑠の声に術韻を止めた



眠りについた妃乃瑠の額に薄らと睡蓮の花の痣が浮かぶ


それを前髪で隠し頭を撫でた



『置いていかれた方は、

ずっと縛られんだよ…

お前の声も笑顔も温もりも…

全部覚えてんだよ』


『ごめんね。

好きになってごめん


でもやっぱり、

好きだからその先も知りたい

そばに居たい


だから自分がいるべき場所に帰るね』


遠い昔のあの娘が

妃乃瑠と被る


身勝手に好きになって

好きを突きつけて

離れなくなって


もう好きでいるのが辛いと言って

勝手に好きでいることをやめる


こっちがどんな気持ちで手を伸ばすことをためらってるかも知らないで



「実丸はきっと、

あの時の俺みたいに…」




そう、1度すり抜けた腕を掴むことは

とても難しい事だから…







_____




「失礼します」

「実丸か、まだ寝てるぞ」

「少しだけ顔みていいですか?」

「おう。好きにしろ」



実丸はゆっくり妃乃瑠の眠るベット脇に腰をおろし迷いもせず頭を撫でた



「そんなに大切なら突き放すなよ」


実丸の矛盾に苛立ちを覚える


「俺は、妃乃瑠が講師になったら花屋敷の護衛を外れて撞騎組(どうしんぐみ)夜叉会(やしゃかい)殲滅(せんめつ)しに行きます」


「夜叉会?1人でか?」


「はい。

そこの幹部、誰か知ってますか?」


実丸の目は妃乃瑠を本当に大切にしている目だった


「知らねぇけど…」


「妃乃瑠の親父です」


「は?」


「俺の住んでた村は、妃乃瑠の親父が率いる撞騎組夜叉会(どうしんぐみやしゃかい)に寄って壊滅させられました。

もちろん親父や母さんも…兄貴も、姉貴も…目の前で…」


「お前…」


「なんとか生き延びた俺は、仲間数人と夜叉狩りをしました」


「復讐の祭りだって騒がれてたよな、

ってか実丸その時まだ小さかっただろ」


「そうですね

10歳くらいだったと思います


憎くて、毎日毎日心の中に宿った鬼みたいな俺が何度も色んな奴を手にかける

強くなれば強くなるほど、心の闇は深くなって」



自分の手を見つめる実丸は

震える拳を握りしめた


「そして、俺達の村を壊滅させた夜叉会のトップ妃乃瑠の親父と妃乃瑠が住む村を俺達が壊滅させたんです

その時、妃乃瑠の母親や、お爺さんが亡くなりました

回復術に長けた母親と動物の神主と契約を結ぶのが上手かった爺さんを俺が…この手で…」



「……」


言葉が見つからなかった

好きや嫌い、そんな事なんかより実丸はもっと違う次元でこの関係を受け止めようとしていた



「その爺さんが死ぬ間際俺に言ったんです

『葉月の坊、憎きわしらはこのまま息絶える

どうか妃乃瑠だけは助けてやってくれ

お前にこれを授けるから』

って言われて皇我を無理やり憑依されたんです…

まあ、どうして狼だったのかは後から知ったんですけど。


あの村は憎しみの塊でした、妃乃瑠の父を憎む村人が騒動に紛れて妃乃瑠の命を狙ってて


そのまま見捨てるつもりだったのに

囲まれてるのを助けたんです

自分でも驚きました

水溜りに映る自分の瞳は赤くなって…


授けられた皇我は妃乃瑠の中に眠る何かを守ろうとしてるって…」


愛しいが溢れる実丸の瞳、声、俺はこの後現実を突きつけなきゃいけない

その苦しさに今にもここから

俺が逃げ出したかった


「その時、何も知らない妃乃瑠は俺に向かって『ありがとうお兄ちゃん』って飛び切りの泣き笑顔で言ったんです…


俺はこの手で妃乃瑠のかけがえの無い人たちを奪ったのに…


その妃乃瑠の笑顔が、暗く深い闇に居た俺の心を照らしてくれた気がした


それから藩登様に拾われて、

ここで妃乃瑠を見た時

愛しい気持ちと、罪悪感が一緒に俺を包み込みました」


「妃乃瑠を好きになることは

妃乃瑠を苦しめるだけ…か…」



頷いた実丸の瞳が揺れている気がした


「俺じゃない人を好きになればいいって思うのに、俺を見てない妃乃瑠を想像すれば黒い、ドロっとした感情が俺を埋め尽くす

なのに、健気に好きを向ける妃乃瑠が愛しくて…

どうしてやればいいか解らなくなってました」


「妃乃瑠はただ、お前と普通に恋をしたかったんじゃないのか?」


「俺と妃乃瑠の間に『普通』は初めから無いでしょ…親や村を奪った俺と親を憎まれた妃乃瑠…

だから突き放そうとしたんです

諦めてほしい

知らないでほしい

妃乃瑠を抱きしめた手で俺は…」


「実丸…」


「妃乃瑠の大切な人を殺めた」


「まだ8歳くらいだった妃乃瑠を連れ去って

知らない人に預けた

俺は妃乃瑠の『普通』の幸せを奪った」


「……」


「俺が好きを受け止めれば、

こうやって1個ずつ妃乃瑠を傷つけることしか出来ない

俺を好きだった妃乃瑠は居なくなる


だから避けたのに…」


「実丸。

妃乃瑠はそんなに弱くない

お前が一人で抱えるその苦しみを一緒に支えれるような子だろ…

お前が一番知ってるだろ?」


「……抱えられますか?

妃乃瑠は優しいから俺が傷つくことを極端に嫌う

その俺が自分(ひのる)の父親のせいで苦しんでるって解れば、今以上に苦しくなる」


「確かにそれはあるかもな

けど妃乃瑠にとって母親や爺さんも、もちろん大切だったと思う

けど…お前はそれ以上だ

それでもお前が妃乃瑠を求めれば…」


「……………」


実丸は苦しい感情と1人で戦っていた


闇が足元から這い上がってきても

闇に染まらなかった

いつも危うくて、壊れそうな実丸をここに繋ぎとめていたのは誰でもない


妃乃瑠だったんだろう…


「妃乃瑠が目を覚ましたら俺…」


その瞳と視線が重なり

俺は多分…


酷い顔をしてるだろう…


察した実丸の瞳が、顔が、曇っていく


「さっき、少し目を覚ました」


「……」


「お前を好きだった妃乃瑠はもう居ない」


そう伝えれば、今までで一番

悲しい表情をした実丸が居た

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