藩登様と莉心様
「まだ醒めないか…」
藩登様はそう言いながら暗い顔をした
「藩登様…妃乃瑠ちゃんはもう護衛には戻らないんですか?」
阿兎がそう言えば
難しい顔をした
花屋敷に来るのは無礼なことかもしれないけどいても立っても居られなかった
突然妃乃瑠ちゃん解雇の話と話を合わすという規約を押し付けられた私と和兎はその真意を藩登様の口から聞きたかった
花屋敷の廊下を歩けば、お庭で何かを見つめる莉心様が居た
「莉心が居てる。話は後にしよう」
「はっ」
「はい…」
「莉心。
調子はどうだ?」
藩登様の声にビクッとして立ち上がる
「あ…あの。大丈夫です」
「そうか…
しっかり勉強してしっかり食べるんだぞ」
「……はい」
莉心様の目は震え、不安が顔に出ている
「そんな怖がらなくても、とってくったりしない」
笑う藩登様に頑張って笑う莉心様に胸が痛んだ
この世界のルールを勉強すれば嫌でもわかる
この世界へ連れてくるように命令し
自分に呪いを移そうとしてる人
この世界のヒエラルキーの頂点
この人だって
「…あの。
藩登様…お願いがあります」
しかし、莉心様は自分の未来の怖さよりも
「どうした?
莉心がお願いなんて…初めてだな」
嬉しそうに莉心様の横に座る藩登様は
そう言いながら莉心様に続きを諭した
「妃乃瑠ちゃんを護衛に戻して貰えないですか?」
「え?」
藩登様も私たちも驚いた
「妃乃瑠ちゃんいつも頑張ってくれてて
あの…私がご飯食べれない時も
いつも…笑顔で…」
言いながら泣き出した莉心様にまた驚いた
「あの…この世界に来て…一番優しくしてくれたんです」
こういう意味の無い事を藩登様は嫌うから
冷たい顔をしてるんだって思った
チョンっと和兎が見えない所で私をつつき、
2人で藩登様を見つめた
「………」
「…えっ…」
藩登様はとても優しい瞳で莉心様を見つめていた
「お前は、想像超えるほど優しい子なんだな」
「え?」
「こっちの話だ。
お願いを聞いてやりたいのは山々なんだけどな。妃乃瑠はもう講師に決まった
護衛はできない」
「そんな…」
「もちろん。妃乃瑠は我が花屋敷も誇るほど優秀な子だったよ」
「なら…どうして…」
「約束だからな」
「約束…?」
「そうだ。妃乃瑠の事がたまらなく可愛くて仕方ないやつがな…
もう何年も何年も頼み込んできてたんだよ」
「……じゃあ妃乃瑠ちゃんにそれを教えて上げてください
使用人の方々が色々お話されてて
妃乃瑠ちゃんが足を引っ張ってたとか…
そんな事ないのに…
あの日も…私が傷つかないように
殴られても蹴られても私を守ってくれました…」
「莉心…
それが普通なんだ」
「え?」
「それをする事があいつ達の仕事で任務で役目だ。」
「………」
それを言われれば言い返す言葉はなかった
「すみません…私なんかが…」
そう視線を伏せた時
藩登様の表情が固まった
「…………」
「あの…」
見つめる藩登様に莉心様が不安な表情をして私たちを見つめた
「莉心…中界で違和感はなかったか?」
「え?違和感ですか…?」
「そうだ、小さい頃から何か、何でもいい」
「……小さい頃は特に…何も…」
嘘をついた訳じゃない
でも何がどういう風に違和感だったかは
伝えられない気がした
「そうか。すまない
足を止めたな」
藩登様は立ち上がり莉心様の元から行くはずだった場所へ足を進めた
「藩登様…なにか気になることでもありましたか?」
和兎が聞けば
「…今まで気づかなかったが、莉心から夜摩登の気を感じた」
まだ動けないで居た莉心様に一瞬視線を向けた藩登様に私たちも視線を向けた
「夜摩登様って…どうしてですか?」
藩登様の兄に当たり1代前の花屋敷の長様
「解らない。
あの子は解らない事だらけだな…」
「そう言えば、前に谷田川地区で老人の人を輪廻転生で助けた時…龍様が焔様を莉心様の近くで見たと言ってました」
「焔様だと…」
「呪いを貰って舎羅登様のお薬処で処置していただいてる時に、どうして焔様だと思ったんですか?って聞いたら龍様は
『心で会話したから、その子に呪いを受けさせないでほしい、俺がやります』って
そうしたら『怖い顔するなよ。そういうことか』って言ってくれたんだ…って」
阿兎がそう言えば
「だから、莉心様術韻が終わっても輪廻転生が出来なかったんだ…」
和兎も納得していた
「…焔様があの子に…何か接触してるって事か?」
「けど、莉心様は解ってないと思います
あの人が誰で…ましてや亡くなってる方とは思ってないでしょうね」
「…阿兎、和兎。
今妃乃瑠と実丸がああいう状態だから
お前達も気にかけててくれ、あの子に…」
「はい」
「はっ」
阿兎と和兎の返事に頷いた
_______
「莉心様?」
実丸の声に顔をあげた
「実丸…大丈夫?」
「…大丈夫です」
廊下に座り込む莉心様を心配して声をかけたのにこっちが心配されてしまった
横に座ればさっきまで藩登様が座って居たのか気が流れ込む
「何か言われましたか?」
「ううん…想像してたより優しかった」
「藩登様が?優しかった?」
驚く実丸に、笑いながら頷いた
「とってくったりしないって」
「そんな事言ってたんですか…」
「お願いにもちゃんと返事してくれたよ?」
「お願い?」
「妃乃瑠ちゃんを護衛に戻してほしいって
でもダメだった。何年も何年も頼まれたからって…」
「……妃乃瑠が護衛を降りるのは嫌ですか?」
「え?」
「普通に講師で居ても会うことはあります」
「私ね、妃乃瑠ちゃんに聞いたんだ
小さい頃、気づいた時には護衛になりたかったんだって…凄く誇りを持ってたし、私が勉強してる間、隣で一緒に術韻の勉強してて
追いつきたいって…実丸と阿兎さんと和兎さんに…天才と秀才と異才相手に私はどこまで食い下がれるか毎日戦いなのって」
思い出すのは健気に毎日練習する妃乃瑠の姿だった
「そうですか…
俺が一番妃乃瑠の事を解ってなかったんですね」
「心配だった?護衛で居てる妃乃瑠ちゃんは?」
「……」
実丸は感情を上手く出せないのか口ごもってしまう
「妃乃瑠の事が可愛くてたまらないやつの頼みだって藩登様言ってたよ?」
優しく笑う莉心様に視線を合わした
「初めて妃乃瑠が護衛の候補に入った時、藩登様に頼んだんです
危ない目に合わない講師をさせてやって欲しいって、その代わりその時抗争が激しかった地区の殲滅戦を勝利で終わらしますって約束して…」
「やっぱり実丸だったんだ」
「それから今日まで3年お願いし続けました」
「妃乃瑠ちゃんは知らないの?」
「もちろん
言うつもりも、これから知らせるつもりないです」
「妃乃瑠ちゃん傷ついたよ、絶対
護衛にかけてた思いは凄かったもん」
「…でも見てられますか?」
実丸は目を強く瞑って何かを思い出していた
「大切な子が傷つくとこ」
「実丸…」
「俺は見てられないです」
「……だから講師に?」
「妃乃瑠は純粋だから人を疑う事も騙す事も苦手だった
莉心様には特に思い入れが違って、どんどん仲良くなればなるほど冷静でいることは出来なくなる」
「………」
「二人の関係を大切にしてあげたいって言うのもあるから」
「え?」
「目の前で妃乃瑠が殴られてるの見て少しトラウマになりませんでした?」
それは間違ってない
妃乃瑠ちゃんが居なくなっちゃうって思って凄く怖かった
「護衛特別講師だから、莉心様に会う時間は沢山あります。勉強も教えてくれます
どうか理解してほしい」
実丸はそう言って立ち上がり頭を下げた
「実丸…」
「でもこの話は妃乃瑠には言わないでほしい
勝手だけど…妃乃瑠を守るために」
実丸と過ごす中で、
こういう事をするのは初めてだった。
全部知ってるわけじゃないけど
実丸が妃乃瑠ちゃんをどんな風に思ってるのかは痛いくらい伝わったから
「うん、実丸。
言わないよ…でも実丸は大丈夫?」
「俺は大丈夫です」
「何かあったら言ってね
私何も出来ないけど…こうやって話は聞けるから」
「…ありがとう」
2人で少し笑えば妃乃瑠ちゃんが早く目覚めることを祈った
2人の関係を思えば
この時間も歯がゆく感じる
「実丸!」
突然声をかけられ実丸が振り向いた
「九楼!」
赤色の髪で少し実丸より背の低い男の人が走り寄ってくる
サラサラの髪は綺麗に光っていた
「莉心様ごめんね、邪魔して」
「大丈夫です」
「どうした?九楼。こっち来るの珍しいな」
「大変なんだ、
生徒が何かに憑かれててパニックになってるんだよ」
「憑かれててって」
「とにかく来てくれて」
「莉心様、部屋でいてください」
実丸に言われて頷いた
走り去る2人を見送った
「疲れてたらパニックになって大変なんだ…」
少し興味が湧いた
この世界は疲れると何かパニックになるんだ
ちゃんと勉強しとかなきゃって思った
まさか憑かれてるの方だとは思わず
2人の後を追いかけた




