龍様の本音
「妃乃瑠ちゃん大丈夫かな?」
会いたいとお薬処の前に来ていた莉心はソワソワと歩き回る
「莉心、部屋で待とう。
もう夜も遅い…
ここをウロウロしてては、みんなの邪魔になる」
龍様の言葉にゆっくり頷いた
「はい。
ねぇ、龍様…
実丸と妃乃瑠ちゃんはどうしてあんなに傷つけ合うのかな…?」
廊下を歩く中、莉心はそう問いかけてくる
「……実丸が1人で抱えてるからだろ…
何もかも…」
「そうなんだ
好き同士なのにね…」
「そうだな」
「ねぇ、龍様は姫様のどんな所が好きだったの?」
屈託のない笑顔が俺を捉えた
この笑顔は時々苦手に思う
なんの邪念、邪神もない
純粋な心が俺を見透かすように
「…………」
なんとも言えない表情をした龍様に足を止めた
「ごめんなさい、…変な事聞いちゃって」
「ううん、大丈夫だ
そうだな…笑う所とか」
煮えきらない瞳が私を見つめた
「…うん」
「ごめん」
「え?」
「実はよく知らないんだ」
龍様がそう言えば不思議な気持ちになった
「知らないのに好きなの?」
「莉心…
俺は姫様を好きな訳じゃない」
突然の言葉に頭が真っ白になる
「好きじゃないって…」
「繁栄のためだと教わっている
たまに会ったことがあるだけで、何が好きで、何を考えてるか…なんて解らない」
「じゃあ笑顔は?」
「少し嘘をついた。すまない」
「嘘って…」
「…」
自然と2人で立ち止まる
薄暗く光る月灯りが私たちを刹那的に照らしてる気がした
「……知らない人と結婚できるの?」
「結婚に関してはそんなものだと思ってる」
「え…?」
「愛とか恋とか好きとか嫌いとか
正直よく分からない
そんな感情は必要ないと教わった
だから実丸が妃乃瑠を守りたいと思うあの気持ちも、実丸を慕い自分の体を傷つけてまで実丸を守りたい妃乃瑠の気持ちもよく解らない」
「じゃあ姫様の事…
何とも思ってないの?」
「ああ…」
「好きな人も居ないの? 」
「ああ」
申し訳なさそうな顔をした龍様を見つめた
「……それって凄く損してる」
「損?」
「誰かを思うだけで」
莉心はそう言いながら俺の胸に手を置いた
「ここがギュッとなるの」
ギュッと袴を握る莉心は俺を見上げて笑った
「会えないと苦しいのギュッとなって、
会えて話したら痛いの、ドキドキして
知らない人と楽しそうにしてるだけで張り裂けそうなの
もし違う人を好きならって考えると
耐えられなくなりそうで…
龍様はそんな時本当にないの?
誰かを考えてココが熱くなること…」
「俺はまだ知らない
和兎がよく言ってる、熱情ってやつだろうな」
「じゃああの時私に強く怒ったのは?」
「あれは…
正直俺は自分の進むべき道に必要なものしか
興味がない
竜使いを習得して、
零恩志家を繁栄させること、
それを邪魔する奴は許せない
そんな気持ちだった
俺は莉心が思うほどいい奴ではない
冷酷で容赦ないのが俺だ」
龍様の言葉に
私は何を期待してたんだろうって凄く思った
「大切なのは姫様だって…」
「…」
視線を伏せた龍様
「ごめんね、
いきなり変なこと言っちゃって」
苦笑いになる莉心の手を掴み引き寄せた
「え?」
「莉心、教えてくれ」
「何?」
「その、痛みを」
「龍様…」
優しく腕の中に閉じ込められる
「え、あの、龍様///」
「こないだ、莉心がご飯を食べてくれた時
信じてくれたことが嬉しくて胸がドキドキした」
「龍様…」
「これが…莉心の言う熱情なのか?」
ドンッと龍様を突き放した
「え、それ、それれ、それは違います!」
パニックになり言葉が上手く伝わらないまま
「莉心!」
龍様を残し
頭を下げて耐えられず部屋に走って帰る
バタンっと扉を閉めて胸をキュッと握った
「何あれ…」
思い出すだけで顔がにやける
バクバクっと音を立てる胸に手を当てて落ち着こうとして見るけど
「カッコイイ…」
自然とその言葉が溢れた
龍斗に言われてるような錯覚に
自分でも恥ずかしくてその思考回路を止めたくなる
さっきまで少しムカついてた
零恩志家の繁栄のためなら何の犠牲も厭わないみたいな言い方をされて
莉子姫を好きなら…まだ…
何の感情もないって言葉に正直理解できなかった…
それなのに
「本当に…カッコよすぎ…」
触れられた箇所に温もりが広がる
あの人は龍斗じゃない
だけど
声も顔も温もりも龍斗と変わらない気がした
「もう…
解んないよ…」
ズキンっと胸が急に痛みだす
「…ツッ」
着物を超えて血が滲み出す
「痛い」
部屋に入り鏡の前で襦袢と着物を肌ける
また一つ花びらが鮮明に赤く色づいた
「…どうして…」
すぐに痛みは引いて血は滲むくらいだった
鏡でその痣を見つめる
「龍様と関係あるのかな…」
ゆっくり布団に寝転がった
まだ信じられない気持ちと
夢を見てるような気持ちが入り交じる
だけどこれが現実だと突きつけられる
龍様に触れるふとした瞬間
その温もりが私にそれを教える
『好きな訳じゃない』
その唇が動き告げた言葉を思い出せば
より不可解になっていく龍様の気持ちに
ため息が溢れ出た
夜の帳は深まり
私は知らない間に眠りについていた
花びらは1枚ずつ意味を持って色づいていた




