過去~9
『お疲れ様です』
『おやすみなさい』
口々に声をかけられるがほとんど俺には届かない
『実丸先輩の背中見て』
『きゃー////』
『妃乃瑠とらしいぜ?』
『講堂で取り憑かれたって聞いた』
深夜になり違う講堂へ泊まっていた女子たちと
避難した男子が合流したのか
賑わっていた
「………」
自分の寮に帰り部屋を開けた瞬間
色んな思いが込み上げ思いっきり壁を殴る
妃乃瑠の誘惑に
何度も負けそうになりながら耐えた
あの顔もあの声もいつも熱情のまま
俺を求めるのに
『妃乃瑠は初めてなんだぞ?』
和兎の言葉にイライラする
「そんなことどうして知ってる!」
思いっきり壁を殴り拳から出る血を見つめた
俺に向ける態度とは違い
和兎には懐く妃乃瑠をいつも見ていた
あそこに俺が居なくて和兎だったら
抱いていたかも知れない
そう思うと腹立たしい
自分を傷つけてまで守りたかった
その反対に
取り憑かれていたとはいえ俺を求める妃乃瑠を
可愛がって抱きたい衝動に、
何度も何度も駆られた
理性と本能の間で
何度も
何度も…
目が覚めて、
小雪が居なくなって
妃乃瑠自身が求むなら
迷わずその手を……
「無理だ…」
『実丸。いい?
必ず、必ず一番になって
この世界を救うの』
記憶でそう語りかける母親の声
『いつかきっとあなたにも現れる大切な人を守り抜けるように』
「………」
『さよなら…
実丸…強く生きて』
「………ダメだ」
目を閉じ蘇る過去にそう呟いた
その手を握れば
大切になる。
『これを授ける。
勝手なのは解っておる
妃乃瑠を…妃乃瑠を…』
「傍に居ちゃダメだ…」
頭を振り、風呂場へ行く
頭から水を浴びる
今日、もっと早く術韻を解いていたら
もっと早く絶式から妃乃瑠を助けれていたら
この距離はもう間違えちゃダメだ
タオルで体を拭いて
バンッと部屋を出て中庭に降りる
型を取り無心で組手の練習をする
もっともっと強く
もっともっと高みへ
「あいつの体力どうなってんの?」
「私も知りたい」
帰ってきた和兎と私は、
あの戦闘バカを見つめてそう呟いた
「俺は寝るぞ」
「私もよ」
実丸が決めた決意を私達は知らない
過去に何があって
実丸を縛り付けるのかも知らないでいた
だけど。
時は待ってくれない




