過去~5
演習が終わりに差し掛かった時だった
「きゃー」
「先生!!」
「逃げろ」
突然の悲鳴や先生を呼ぶ声に全員がハッとした
「実丸、阿兎、和兎!」
教官の声に3人が駆け出していく
「1皆級生は教官の所へ逃げろー!」
和兎さんの声に瞬時に全員が走り出した
「何あれ…」
阿兎の声に3人は足を止めた
「黄泉の死者?」
邪悪な念を纏うその男は
綺麗だったであろう風貌は見るに耐えないほど堕ちていた
そんな黄泉の死者が
次々に念を飛ばし出す
「お前ら、3戦方法で行くぞ」
実丸はそう言いながら消える
「了解!
和兎!」
「おう、来いよ
ぶっ潰してやるよ」
阿兎と和兎がそれぞれの位置についた
「お前らよく見とけ、あれが高みだ」
教官の声に全員が息を呑んだ
先生達が全員で壁を作る
しかし黄泉の死者から離れる色々な念に先生が対応し手薄になり壁も生徒達で補強するが不安定になってしまう
その間も、阿兎さんが韻を唱えながら気を実丸さんと和兎さんに送る
実演演習とはいえ何十人もの相手をした2人のエネルギー補給、補佐に徹していた
和兎さんは力を強め込めた術韻を無数に飛ばす
それを跳ね返すのに手いっぱいになる
黄泉の死者を
実丸さんが背後から1個ずつ術韻をかけていく
『すげぇ』
『実丸さんの術韻解いてかけるスピード速いよ!』
『和兎さんも凄い数撃ってるよ』
『阿兎さんも、微動だにしないなんて』
「凄いね、未来弥…」
「ああ、やばい」
二人でその姿に見惚れていた
「お前ら危ない!!」
和兎さんの声にみんながハッとした
黄泉の死者が撃った念が軌道を変えてみんながいる場所に飛んできた
「鑑原式 術韻 絶壁」
大きな光がかかり
私たちを守り念を弾き返した
「妃乃瑠!
もう1発くるよ!」
飛奈の声を聞いて
術韻を付けた手を念にぶつける
「んんっ」
強い念を手に受け踏ん張る妃乃瑠
「妃乃瑠、頑張って!」
「妃乃瑠!!」
みんなが口々に言うが
妃乃瑠の足がどんどん後ろにズって行く
光の壁から出れず
見るしか出来ない私たち
妃乃瑠の光の壁に入ってしまった先生達が出て行こうと術韻を解こうとするが
「なんつー術韻かけてんだよ」
「だめだ、術韻が強い」
出れずに見守っている
「ッフッンんん」
歯を食いしばる
「オメェの相手は俺だぞ」
和兎さんがより術韻を飛ばした
「妃乃瑠ちゃん頑張って」
阿兎さんの気が足元から私の身体を駆け巡る
だけど
『ねぇ…
聞こえてるんでしょ』
「ッ?」
踏ん張る私の前に綺麗な女の人が立っていた
白い襦袢を肩までずらし妖艶な雰囲気に息を呑んだ
「あれは…
妃乃瑠ちゃんだめよ!
耳を傾けたら!」
「おいおい、嘘だろ
絶式入ってんじゃん!」
和兎さんがそう言えば
「妃乃瑠、妃乃瑠!!」
飛奈の声に続いてみんなが声をかけた
『妃乃瑠!』
『妃乃瑠ダメ!』
遠くで聞こえる声に頭がついて行かない
『聞こえた?私の声』
ぶつかり合っていた術韻が手元から消え
グッとその女の人の手が私の頬を寄せた
「あなたは…?」
いい匂いに
綺麗な人…
『お願いがあるの…』
一瞬にして悲しい瞳をしたその人
「え?」
『身体…
貸して?』
「え…」
「妃乃瑠ちゃん!」
実丸さんの声にハッとして目を見開いた
その瞬間手元に術韻が戻り耐えられなくて後ろへ弾き飛ばされる
「妃乃瑠ー!」
「きゃー」
未来弥と飛奈の声に目をつむる
大木にぶつかる瞬間
愛しい香りに包まれる
グッと強く抱き締められれば
ドンッと大木にぶつかる
「実丸さん!」
バっと起き上がれば
私をかばい実丸さんが大木に背中を打ち付けていた
「…大丈夫?」
「実丸さんが大丈夫ですか!?」
背中を見ると真っ赤になり擦りむけていた
私の名前を呼ぶ直前に黄泉の死者を封印し私をかばってくれた実丸さんに涙が溢れた
「ごめんなさい」
「泣くな」
優しい手が頭にふれる
「良くやったよ…妃乃瑠」
優しくて愛しい
実丸さんが私を見つめて…
こんな幸せな事…
信じられないよ
「//////」
嬉しいのと悲しいのと色んな気持ちに
ギュッと抱きついてしまった
「怖かったです」
そう言えば実丸さんの腕が私を包み
ポンポンと背中を叩いてくれる
「もう大丈夫だから」
「はい」
「ゴホン」
「おーい」
阿兎と和兎の声に
ハッとなって手を離し妃乃瑠も離す
「どさくさに紛れて呼び捨てにしてたよな」
和兎が言えば
「マスク剥いでやりたい」
と阿兎の声が聞こえる
見なくても解るけど2人共ニヤニヤした顔してるだろうな
「おい、鑑原ちょっと舎羅登さんの所へ行こう」
教官がそう言いながら妃乃瑠の瞳を除く
「そういや、妃乃瑠ちゃん絶式大丈夫だったのか?」
「あれが絶式?」
「黄泉の死者が放つ念に当てられすぎると、その念の本体が見える、その声に耳を傾けたら危なかったんだよ?」
耳を傾けたら…
『身体…貸して…』
ゾッとして全身の血の気が引く感覚がした
「実丸さんの声が聞こえたから」
そう言えばみんながニヤニヤしていた
「え?笑うところですか?」
「無自覚って俺、最高の罪だと思うんだけど」
和兎さんはそう言いながら治癒部の女の子達のところへ足を進めた
「実丸、責任もって舎羅登さんの所へ連れて行きなさいよ」
阿兎さんはそう言いながら和兎さんの後ろをついて行った
振り向いて実丸さんを見上げた
「…行くか」
そう目をそらした実丸さん
「私たちの声は聞こえなかったの?」
ニヤニヤしながら飛奈がチョンっと肩をつく
「え?」
「今のじゃ、実丸さんが大好きですって言ったのと一緒だからな」
「え??どうして?」
「実丸さんの声が聞こえるまでに私達みんなで何回呼んだと思ってるの?」
「私…もしかして…
恥ずかしい事言っちゃった?」
頷く2人に顔が真っ赤になる
「早く来いよ、妃乃瑠」
遠くから実丸さんに呼ばれドキッとした
「ほら」
未来弥に背中を突かれる
「いってらっしゃい」
飛奈が手を振る
「ちょっと、私で遊ばないで」
少し足を止める
「何やってんのあいつ…」
3人ではしゃぐ姿を見つめた
今日ほどマスクをつけてて良かったと思った日はない
『実丸さんの声がしたから…』
全身が俺を好きだと言ってる妃乃瑠を意識せずには居られなかった
【気をつけろ実丸】
「ん?」
【厄介なやつに、憑かれたぞ】
「…厄介なやつ…って」
「お待たせしました!」
「よし、行くか」
【守れ。何としても…】
心の中に居るそいつはまた影を潜める
その日の夜の出来事が
俺の気持ちをもっとより濃く
支配していくことを
この時の俺はまだ知らない




