信じること
「これは?」
「エビフライです」
阿兎ちんが瑠美さんにその見たこともない食べ物を渡していた
「これが莉心様の言ってたエビフライ」
妃乃瑠ちゃんはまぢまぢ見つめながらそう言った
「和兎がね、好物だったら食べるんじゃないかって言ってて龍様が買いに行かれたんです」
「龍様が!?絶対喜ぶよ!
瑠美さんこれすぐ盛り付けて」
「はいよ」
「阿兎ちんありがとう!
龍様にもよろしくね」
「ええ、出来ることがあれば何でも言ってね」
「うん」
ウキウキしながら必死に莉心様を救おうとする妃乃瑠ちゃんは、私たちから見ればどこか危うい
入れ込みすぎることは判断を鈍らす
情は私たちの中では1番厄介なもの
だけど妃乃瑠ちゃんはいつもそれを打ち破って距離を縮める
そういう所が実丸にとって妃乃瑠ちゃんのしんどい所なのかな…
「難しい顔っすね」
「実丸!」
考え事してた当人が現れ声が上ずる
「なんすか?」
「ううん、妃乃瑠ちゃんに莉心様の好物預けてるから」
「好物?買ってきたんですか?」
「そうよ、龍様なりの反省だから」
「そんなこと出来るんだあの人」
「あのね、そこまで非道じゃないわよ?家の龍様は」
笑う阿兎さんに釣られて目が下がると
「実丸笑うんだ」
っと驚いた顔をした
「俺どんなイメージっすか」
「常に怒ってるイメージ」
「なんすか、それ」
廊下の先で仲良く話す2人を
食堂から見つめていた
「妃乃瑠、盛り付けできたわよ?
大丈夫?」
瑠美さんの声にハッとした
「あ!はい」
実丸はあんなに優しく笑うのは阿兎ちんにだけ、実丸も阿兎ちんも和兎ちんも本当にすごい人達だから
私がそこに居てること自体奇跡に近い
実丸も阿兎ちんみたいな人が相方の方がきっと良かったんだと思う
そんな考えをしながら莉心様の部屋に向かった
実丸の事を思えば泣きそうになる
「切り替えなきゃ」
コンコン
「莉心様…失礼します」
「……」
「お水飲まれましたか?」
「……」
力なく首を振る莉心様の目の前にバッとお膳を差し出した
「ジャン!
莉心様の大好物エビフライです!!
龍様が中界まで行って買ってきたんですよぉ!」
私の顔見つめて莉心様は
「いらない」
そう言った
「莉心様…」
目を逸らし下を向いた莉心様は
「あの人が私の為に?」
そう呟いた
「そうです。一口だけでも食べませんか?」
聞けば顔を横に振り
「あの人は私を消したい人だから…私の事なんか…」
ゆっくりお膳を置き
莉心様の横に腰を下ろした
「莉心様…
あの時は龍様も感情的になってたんだと思います。
言うなって言われてるんですが、莉心様がお爺さんを助けるために使った術韻は私たちの間では禁忌とされています
しかしそれを省みず龍様は輪廻転生をしました」
「禁忌…」
「何故なら呪いを貰うからです」
「え?」
「かける術の重大さによって術をかけた本人に重みが返ってきます
輪廻転生は禁忌の中でも罪は重く、返ってくる重みは呪いになります
龍様の背中にはこないだの呪いが返ってます
消すには時間がかかり痛みも酷いため薬を打っているそうです」
「……」
「でも気になさらなくていいです」
「え?」
「だってその痛みとは比べれないくらい莉心様も傷ついたと思います」
「妃乃瑠ちゃん」
「ごめんなさい…色々話してしまって
でもあの日莉心様が発動しようとした輪廻転生を龍様が止め自ら行ったのは、その呪いを莉心様にいかないように龍様なりに莉心様を守ったんだって私たちは思ってます」
私の話を聞いても莉心様の表情は曇ったまま
「……」
「少しでも食べて元気になって欲しいんです」
そう言えば
「それは本音?」
「え?」
冷たい瞳が私を捉える
「どうせ姫様の為で私の為じゃないでしょ?
こんなのされても、そんな話聞いても
何も信じられないよ!」
頭を抱え泣き出す莉心様に何も言えなかった
言えば言うほど嘘のような軽い言葉になりそうで…
「失礼しました」
お膳を持ち部屋を出た
「あっ…」
襖の横に座っていた人が突然立ち上がる
「それ貸してくれないか?」
「でも…」
バッとお膳を取り上げられ
莉心様の部屋に術韻をかけ入れないように封印されてしまった
「ちょっと龍様!!」
今莉心様にとって1番会いたくない人なのに…
「阿兎ちん…に…」
実丸と阿兎ちんの笑顔が頭を過ぎった
また怒られるかもしれないと思えば足は和兎ちんの方へ向かっていた
「和兎ちんに頼もう」
シャーッ
パシっと強く襖が閉まり
「入るぞ」
っと愛しい声がした
「龍様…」
顔を覆い泣く莉心を目の当たりにすればまた胸が痛む
「来ないで」
「そうはいかない」
莉心の眠る布団の横の机にお膳を置き
布団に腰を落とす
「今は会いたくない」
「莉心」
優しい声に胸が反応する
この人は違う
私の好きな人じゃない
「こっち見て」
触れられた頭が熱を帯びていく
「いや」
すぐ近くに感じる
その龍様の気配に一層頭を抱えた
「じゃあそのままでいい」
グッと起き上がらされそのまま抱き寄せられる
そして龍様の腕の中に包まれた
「離して!」
「暴れるな」
「いや!離して」
バッと突き離れ思いっきり手を振りあげる
バシっと掴まれた右腕を強く握りしめられた
「その優しさも私の為じゃないのに!」
悲痛な莉心の声に自分がしてしまった事の大きさを実感した
「…泣くな」
「どうして…
どうしてその顔でその声なの?
苦しいの…
誰に何言われても…
龍様にだけは言われたくなかった」
自分でも何言ってるんだろうって思う
そんな事言われても龍様は何も解らないのに
「消えろなんて…言わないで…」
震える莉心は潤んだ瞳を揺らして俺を見つめた
「悪かった…」
莉心を引き寄せまた強く抱きしめた
「本当に悪かった。
傷つけて」
「もう関わりたくないの」
「……莉心…」
より一層泣く莉心に胸が痛む
「もう何も気にしなくていい」
龍様の声に少し離れ顔を上げた
絡んだ瞳は真っ直ぐ私を見つめてくれた
「姫から呪いを移すとか莉心が消えるとかもう心配しなくていい」
「え?」
「別の方法を探すよ。
俺が…必ず」
「別の方法?」
「君を生きて返す、中界に」
そう言えば少し視線を伏せ
「嘘…」
そう呟いた
「嘘じゃない」
「信じれないよ!
…どうやって信じればいいの?」
莉心の顔を両手で包み
視線を合わせる
「今は信じなくていい
莉心がいつか信じれるように
俺がそれを貫いてみせる」
「龍…さま…」
その強い瞳は知ってる
「絶対…嘘だよ
そうやってまた優しくして…私を」
「泣くな莉心
お前の泣き顔を見ると気が狂いそうになる」
再び腕の中に包まれる
「龍様…」
「本当だ、俺も酷い顔してないか?」
離されて龍様の顔を覗くと、とても傷ついていた
私もその表情は知ってる
莉子姫と同じ顔で同じ声
龍様の大切な人と同じだから
私が龍様に龍斗を重ねるように
私に龍様は莉子姫を重ねてるのかも知れない
「酷い顔…してるよ」
「莉心も目が腫れてる
…ずっと泣いてたんだな」
優しく親指で涙を拭ってくれる龍様にまた涙があふれる
「優しくしないで」
「……」
「涙とまらないから」
グッと強く抱き寄せられ龍様の香りに包まれる
「そういう事も言わないでくれ」
「え?」
その意味は分からなかったけど
私の胸を叩く音より早い龍様の胸の音が
都合良く私を信じさせようとしてる気がした
「少しでいい。
食べてくれないか?
ほら」
パクッとおにぎりを頬張る龍様は
「安全だ、そして美味い」
そう言って初めて思いっきり笑ってくれた
「莉心…」
前より確かに痩せた体を案ずれば
莉心は小さく頷いた
「これだ、ほら
エビフライ」
「買いに行ってくれたんだよね」
「まあな」
「ありがとう。…グスッ」
一口頬張ればまた涙を流す莉心
「おいし…い」
「良かった」
優しく頭を撫でられて
疑うことすら忘れるくらい胸がギュッとなった
『大丈夫だからな莉心』
龍斗がよくそう言って頭を撫でてくれた
懐かしい思い出と
大好きな味に言いようのない涙が溢れた
「ごめ…泣かないようにして…るのに」
拭っても拭っても溢れる涙に
改めて思った
守らなくてはいけないんだって
「ゆっくり息して…」
「呪いも…ごめんなさい」
「え?」
「知らなくて」
「聞いたのか?気にするな」
「でも」
「いいんだこれは。
莉心の痛みを背負ったんだ
誇らしい事だ」
「…龍様…」
突然の優しさにまた不安になるかもしれないけど
久しぶりに食べたご飯は凄く美味しかった
「莉心、守らせて俺に」
「……」
「莉心の事」
「はい」
自分でも騙されてまだ信じるの?って思ったけど
疑うことよりも
信じてみよう
そう思えたんだ




