第4章 不信感
「やっぱりダメです」
妃乃瑠が肩を落とし食堂のおばさん達に中身の入ったままの食器を差し出した
「もう今日で1週間ね
妃乃瑠も疲れたでしょ」
食堂を担当する瑠美さんがそう言えば
「流石にやばいだろ
俺達は食べてくれるまで作るけどさ」
智さんもそう続けた
夫婦で食堂を担当していて私たちがまだ院生の時もずっとご飯を作ってくれていた人達
「そうですね
舎羅登さんに報告してきます」
帰ってきてからの莉心様は生気が抜けたような悲しい表情でただひたすらに私たちを拒んだ
与えるものを全て嫌がり食事もここ5日ほとんどとっていない
舎羅登さんが無理やり打った栄養剤もトラウマになり体調を崩し発熱
水分もほぼ取らず…
「危ないな…このままじゃ」
「やっぱり無理やりでも栄養剤打ちましょう」
「実丸、ダメだよ
体がもう拒否反応起こしてるから」
「どうしたもんかな…」
舎羅登さんは頭を抱えソファに座り込んだ
「拒否反応を起こしたとしても入れるべきだ」
「実丸…」
「死なれては困る」
「でも苦しんでるんだよ?」
「だから何だ?
見殺しにする気か?」
「違うけど」
面倒くさそうな顔をわたしに向ける実丸はため息をついた
「また可哀想…か?」
「そうだよ、悪い」
「はあ…話してるだけ無駄だな」
「ちょっと」
「あ"ーとにかく!」
それを割って入る舎羅登さんは俺達を見て
「眠りに入ったら術韻を掛けて打とう
何回持つか分からないけど」
「…はい」
「じゃあ俺は巡回に行きます」
「実丸…」
バンッと部屋を出ていく実丸に胸が痛む
「お前ら昔からああなの?」
「え?
…いえ私はそうじゃないって思ってたんですけど…」
「実丸も不器用だからな
妃乃瑠が大切でたまんねぇんだよ」
「え?大切って…私を?
舎羅登さんって図太いんですね」
俺を酷い目で見つめる妃乃瑠に
『お前だろ…』
っと心の中でそう返した
「何が図太いだよ
俺は空気読むの最高に上手いぞ?」
「はあ…そうですか
じゃあ私は夜の配膳に向けて瑠美さん達と話してきます」
頭を下げて部屋を出る
実丸が私を大事に思ってる?
どこを見てそう思ったんだろう
冷たくて、いつも私を突き放す瞳
その瞳に映りたくて
その腕に引かれたくて
その温もりに触れていたい
いつからか開いた距離はもう
どうしていいかも解らなかった
でも側に居たい
実丸の事がずっと大好きだから…
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「もう1週間らしいな」
和兎が小声で話す
「そうね…栄養剤も体が受け付けないなんて」
それに阿兎が応えれば
「俺のせいだよな」
龍様の声が聞こえる
「龍様…」
和兎と阿兎の話にそう言えば
2人は首を振った
「違いますよ、龍様」
「気にしなくていいと思います」
かばう2人を見つめた
「俺が消えろって言ったから
あいつはこの世界の全てを疑っている
食べ物に何か入ってるんじゃないか…
飲み物に変なものが入ってるんじゃないか…
この薬はもしかして…
この5日間、そんな事ばっかり考えているんだ
俺があんな事さえ言わなければ…」
「龍様…それはもう過ぎてしまったことです
今は莉心様が何かお口に出来るように考えるしかないんです」
阿兎はそう言いながら龍様の肩を叩く
「そうですよ、安心するのはもう難しいかもしれないっすけど。俺達も考えます」
和兎もそう言って背中を叩いてくれる
「そうだな」
「そう言えば妃乃瑠ちゃんが言ってたんですけど、中界にあるエビフライが好物だって言ってましたよ?それなら食べるんじゃないですか?」
和兎がそう言うと龍様は何かを考え身支度を始めた
「行くぞ」
「え?」
「へ?」
「中界に」
「…はい」
「っしゃあ、運命の輪準備します」
「運命の輪って私用に使ってよかった?」
「これは例外だろ?」
阿兎と和兎が術韻を唱えながら
龍様を待つ
「待たせた
行こう」
少しでも償えればいい
少しでもその気持ちが楽になればいい
単純なことかも知れないが
君を傷つけてしまった俺ができる
全てだと思った




